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#学パロ?
44
ユイ
51
笹井中尉が還らなかった夜、ラバウル航空隊の食堂は、まるでお通夜のような重苦しい沈黙に支配されていた。
いつもなら豪快に笑う坂井さんも、一言も喋らずにヤシ酒のグラスを見つめている。西沢さんは影のように暗闇に溶け込み、景浦は悔しそうに何度も煙草を床に踏みつけていた。
僕は、どうしてもその場所にいることが耐えられず、一人で宿舎の裏手へと逃げ出した。
「うっ、……うう、っ……!」
昼間と同じ、建物の壁。
あの日、中尉と出会ったあの場所に背をもたれ、僕は声を殺して泣いた。
兵学校を一年半で出た天才? 笑わせるな。
僕はただの十六歳の子供だ。
中尉の二番機でありながら、その背中が消える瞬間すら見ていなかった。自分の無力さが、情けなくて、悔しくて、涙が止まらない。
『また何処かで会えたなら、うまく笑おう』
頭の中で、中尉の最後の言葉が、呪いのように何度も、何度もリフレインする。
笑えるわけがない。
こんな場所で、どうやってうまく笑えというんだ。
「……速中少尉」
静かな声がした。
涙を拭って見上げると、月明かりの中に宮部一飛曹が立っていた。その手には、一本の太いロープが握られている。
「宮部、さん……」
「悔しいですか」
宮部さんは僕の隣に歩み寄ると、静かに、けれど酷く澄んだ瞳で僕を見つめた。
「私も悔しいです。中尉は、素晴らしい上官でした。……ですが少尉殿、中尉はあなたに『うまく笑おう』と言い遺されたのでしょう」
「……っ、どうしてそれを」
「中尉は、あなたがここで絶望して死ぬことを一番恐れたのです。軍人一家の重圧を背負い、十六歳でここへ来たあなたを、誰よりも守りたがっていた」
宮部さんはそう言うと、持っていたロープを僕の前に差し出した。
「泣いていても、明日の空はやってきます。敵は容赦なくあなたを殺しにくる。中尉の遺志を継ぎたいのなら、何としてでも生き残りなさい。生き残って、中尉が見たかった未来の空まで、あなたが駆け上がるのです」
生き残る。その言葉の重みが、僕の胸にドスンと突き刺さった。
ただ生き残るんじゃない。
圧倒的に強くなって、誰よりも空を支配して、その上で生きて帰るんだ。
「……ロープを、貸してください」
僕は涙を乱暴に袖で拭うと、宮部さんからロープをひったくるようにして受け取った。
そして、自分の体にきつく、痛いほどに巻き付け、頑丈な木の幹へと結びつけた。
「ふん。新入り少尉殿が、やっとお目覚めか」
暗闇の向こうから、煙草の火を揺らしながら景浦が歩み寄ってきた。
その後ろには、心配そうに僕たちを見つめる大石の姿もある。
景浦は僕の歪んだ顔を見ると、不敵にニカッと笑った。
「死にたくなければ、そのロープがちぎれるまで引っ張りな。明日からは俺がしごいてやる」
「……望むところです、景浦一飛曹!」
ギチッ、ギチッ、と、夜のラバウルに重苦しい音が響き始める。
全体重をかけ、歯を食いしばってロープを引く。
全身の筋肉が悲鳴を上げ、手のひらから血がにじむ。
十六歳のこの夜。
僕は、ただ必死についていくだけの子供を辞めた。
コメント
4件
頑張れ!続き待ってるぞ〜
第13話、読み終わりました……もう、胸がぎゅっとなりました。笹井中尉の言葉が“呪いのように”リフレインする場面、本当に切なくて。でも、宮部一飛曹の「生き残りなさい」という言葉が、あのロープとともに主人公の背中を押したのが印象的でした。十六歳の夜に“子供を辞めた”ラスト、静かに、でも確かな覚悟が伝わってきて、泣きそうになりました。