「っ…はぁ、」
身体が汗でベトベトだ。頬に関しては汗か涙か判断がつかない。
ここ最近、悪夢に悩まされている。
彼奴が俺を庇って重症を負ったその日から。
どんどん溢れ出る血液、冷たく重くなっていく身体、普段とは打って変わって頼りなくなってしまった声。目の前で大切な人が失われていく感覚。自分のせいで大切な人が失われていく感覚。その全てを今も鮮明に覚えている。忘れられないでいる。
大丈夫だって、彼奴は生きてるって頭では分かってるのに、どうしようもなく不安になってしまう。今彼奴と同じベッドで寝ている理由も俺を安心させるためにと、自分から申し出てくれた事だった。
ふと横にいる顔を…見てしまった。寝ている時の顔がどうしてもあの時と重なってしまうのでなるべく見ないようにしてたのに、何故かその日は見てしまった。
「ランス…?」
本来ならば今も横ですやすやと寝息を立てているはずの彼奴がいない。慌てて部屋を見回してみたがどこにも見当たらない。
やばい。いなくなってしまった。もし危険な目に遭っていたら、またあの時みたいなことになっていたら、もし、もう会えなくなってしまったら。俺は生きていけるのだろうか…?
「ランスっ、ランスっ!?」
俺はパニックになってしまった。夜中だとか近所迷惑だとかそんなことは考えられなかった。
無我夢中に彼奴のなまえを 叫ぶ。
涙が出てきた。呼吸が荒くなる。苦しい。
ガチャッと勢いをつけて部屋の扉が開いた。
そこには眉が限界まで下がっており目を少し見開いて汗ばんでいるランスの姿があった。驚いたような、心配したような、そんな表情だった。
「ドット!大丈夫か!?」
生きてる、分かってる。目の前で俺のために口を動かし、喉から音を鳴らしてくれている。全部、分かってるんだ。
「っ、グスッ、ランス…?生きてる…?」
「あぁ、生きてる。生きてるぞ。」
抱きしめられている。体温を感じる。赤子をあやすような優しい声で教えてくれている。今、この瞬間、やっと安心できる。
「ごめっ、またっグスッ、泣いてっ…」
情けない。いつも迷惑をかけてしまっている。
「大丈夫だ。ドット、大丈夫だ…」
身体にどんっ、と重いものがのしかかってくる。ランスが寝息を立てている。眠ってしまったのだろう。寝かしておいてやりたい。…のに
「っ、は、死んでないよな…? 」
本当に俺はダメなやつだな。何回も何回も確認しないと、どうも精神が狂ってしまう。此奴の事を信じてやれない。
「お、い…ランス、」
「ドット」
寝言…?なのか?此奴が寝言なんて珍しい。
「置いてかないから、 」
夢の中でも俺は迷惑をかけているのか。負担になってしまっている。嫌われてしまうかもしれない。否、すでに遅いか…
「好きだ、」
え…?
所詮は寝言だ。自分も此奴も疲れているのだろう。疲れてるから、な…
「俺も、」
そう。疲れているから。パニック状態だったから。決して本気で告白した訳では無い。決して、
頬に柔らかい感触がきた。温かい…
「付き合おう。」
「は?」
起きてたのか。お前。起きて…た…?
「生きて傍に居てやる。一生な。だから泣くな。」
告白どころかプロポーズされてるのか?
思考は混乱したままだが口は正直なもんで
「おう、」
肯定してしまっている。
好きだった。それは確かだった。だけど、此奴には他に山ほど女の子がいるはずだ。同性愛者だとしても俺じゃないやつと幸せになると思っていた。そう願っていた。
俺は此奴の隣にいていいほど綺麗じゃない。この状況だってそうだ。何回教えてもらっても、何回安心させてくれても、不安になってしまう。夜中に騒ぎ出してしまう。そんな面倒臭い男なんだ。
それなのにお前は、俺を選んでくれたのか?
他のやつと幸せになって欲しいと願っていたはずなのに、この事実がどうしようもなく嬉しい。
「もう、離れんなよ。絶対だからな」
空色の瞳をずっと細め、微かに口角を上げ
「端から離すつもりなどない。」
そう言って俺を再度抱きしめた身体は確かに熱がこもっていた。
コメント
2件
うぅ、、、泣 何でそんな神文書けるの泣天才すぎて泣好き!ありがとうございます😭
泣けそう… 天才すぎるッッッ