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ー片方だけの記憶・後編ー
「また、どこかで会える?」
絶対会おうね、とは言えなかった。
でも、出来ることなら一緒にいたい。
これが最後なんて、絶対に…
「会えますよ。大丈夫。貴方が俺を忘れても、俺はイブ様を忘れない。」
そう言うと英雄は、小さな石油王を強く抱きしめた。
嬉しさで、更に涙が溢れた。
こんなに優しくされたのはいつぶりだろう。ひとのあたたかさというものは、僕には少し実感の湧かない感覚で、でも、どこかローレンと似た雰囲気で。自分はこんなに大切にされていいんだ。優しくされていいんだ。そう思うと、自分にとって英雄は、何よりなくてはならない、大切な存在に感じた。
「ほらほら泣かないで。…落ち着いた?さ、もう夕日も沈む。宮殿へお戻り。」
笑顔で背中をトンっと押され、涙を拭いながら無理に笑って手を振った。
これが小さな石油王と若き英雄の最後だった。
大人になった石油王は、やっと出会えた英雄に腹を立てていた。
(こいつは何も覚えていないのか?ようやく再び会えたというのに、感動の再会どころか、もはや初対面ではないか!確かに昔のことだし、たった1日限りの出会いだった。でも、私の名前を聞いて何か思い出す訳でもない。どういうことだ?!)
イブラヒムは確かに腹を立てていた。しかしそれだけではなく、エクスが自分のことを忘れてしまっていたことにひどくショックを受けたのだ。
(何か理由があるかも知れぬ。それに…忘れていたとしても、私の大切な人なのだ。少しでも長く、ここにいて欲しい。)
「私の付き人になっても…よい。
もう、ひとりは嫌だ。」