iris 水黒(水→攻め 黒→受け)
低クオ 学パロ
ご本人様には関係ありません
この作品は「あの夏が飽和する」の曲パロです。一部曲の解釈を変えています。
ご注意ください。
※不穏注意※
何でも許せる方はどうぞ
【水side】
「昨日人を殺したんだ」
6月のあの日、君はそう言った。
滴る雫は雨に打たれたからというだけではないだろう。夏休み前のどことなく浮かれた空気が漂う中で、君は酷く震えていた。
「…殺したのは、隣の席のいつも虐めてくるアイツ」
「もう嫌になって、肩を突き飛ばして…」
「打ち所が悪かったんや」
震えた声で淡々と、途切れ途切れになりながら話し出した君。握った手は冷たくて、琥珀色の瞳の奥は揺れていた。
「もうここには居られへんと思うし、どっか遠いとこで死んでくるわ」
そんな君に対して真っ先に出た言葉は
「じゃあ、僕も連れてって」
だった。
財布、ケータイ、ナイフ、ゲーム機
最低限の荷物を鞄に詰める。
「…あとは全部、壊して行こっかな」
あの子と撮った写真も
ずっと書き続けてた日記も
今となったらもういらない
「人殺しとダメ人間の旅だね!」
冗談めかしてそう言うと、君は寂しそうに
笑った。
「ほとけはダメ人間なんかやないよ」
そして僕らは逃げ出した。
この狭い狭い世界から。
家族もクラスの奴らも何もかも全部捨てた。
僕にはもう、君以外必要ないから。
「ここからは遠い、誰も居ない場所で2人で
死のう?」
何か言いたそうにこちらを見つめている君に、 めいっぱいの笑顔を向ける。
「この世界にもう価値なんてないよ、人殺しなんて数え切れない程いるじゃん」
「アニキはなんにも悪くないよ」
君を抱き締めてそう言った。
言い聞かせるように、何度も何度も。
「僕だけはずっと、アニキの味方だから。」
【黒side】
結局俺たちは、誰にも愛されたことなんてなかったんだ。そんな嫌な共通点で簡単に信じあってきた。
あの日の手の震えはもう既に無くなっていて。もう俺達を縛るものなんて、何も無いように感じていた。
金を盗んで、2人で逃げて。
もう使われない線路の上を歩いた。
今更怖いものなんてない。
額の汗も、ボサボサになった髪も、
今となればもう、どうでもいい。
「…あぶれ者の、小さな逃避行、やな」
寝息を立てる君の髪をそっと撫でた。
夢の中で、あの日の幼い声が問う。
「いつか夢見た優しくて、誰にも好かれる主人公なら、汚くなった俺らのことも見捨てずに救ってくれるんかな?」
…そんな夢なら捨てたよ。現実はそんな甘くない。シアワセの4文字なんて、この人生にはなかった。この十数年で嫌という程に思い知らされたんだ。
「自分は何も悪くねぇって、
誰もがきっと思ってる」
…本当は、後悔しているんだ。
俺が虐められている時、君は味方でいてくれると、そばに居てくれると言ってくれていた。君は、‹ダメ人間›なんかじゃない。
こんな馬鹿げた逃避行に、君を巻き込むべきじゃなかった。だから、だから…
【水side】
あても無く彷徨う蝉たちの群れに
水も無くなって揺れだした視界に
迫り狂うこの世界に
バカみたいに2人ではしゃぎあって。
ふと君はナイフを手に取った。
「ほとけが今までそばに居てくれたから、ここまで来れたんや」
「だからさ、もうええよ」
「死ぬのは俺ひとりでええから…」
「え…」
【黒side】
君の手が俺の手を掴む。
そのまま君の方へ向いた刃。
水色の髪が次第に赤く染っていく。
「…だめだよ、アニキは…、悠佑は、生きてなきゃだめ」
絞り出すような声で君が言う。
これ以上ない程の、満面の笑みをたたえて。
「ぼくのこと、忘れないで、ね?」
白昼夢を見ているような気がした。
気づけば俺は捕まっていた。最低限の家具が置かれた質素な部屋。設置されたカメラが俺を監視する。2人の人を殺めた挙句、自分も死のうとしていたのだから当然の処置といったところだろう。
ただ時だけが流れていく。
こんな俺はまだ生きているのに、君はもうこの世界のどこにも居ない。頭では分かっているのに、無意識のうちに君のことを探してしまう。
ふと取り出したカッターで、自分の手首に線を描く。6月のあの日の匂い。ここに来て何度繰り返したのだろう。
「ほと、け…」
熱い雫が頬を伝った。
君の笑顔は、無邪気な仕草は、今も頭の中を飽和している。
バタバタと職員が部屋の中に入ってくる。
もう見飽きた光景。聞き飽きた言葉。
「お前以外、何も要らへんから、」
「戻ってこいよ、ほとけ…」
「…ふふふ」
アイツに悠佑を虐めさせてて良かった。
殺されちゃうのは想定外だったけど、僕のことを真っ先に頼ってくれた訳だし、結果オーライってとこかな?
…それにしても可愛かったなぁ、絶望に塗れたあの表情。
唯一信用していた人が目の前で死んだら、当たり前だよね。第一、自分が持ってたナイフだったんだし。そもそもこの為に、僕も連れて行ってって頼んだんだもん。
君が望んでいた言葉なんて、とっくに分かってた。
「アニキはなんにも悪くない、何も悪くなんてないから」
「もういいよ、投げ出しちゃおう?」
そう言って欲しかったんでしょ?
分かってたけど、言わなかったんだよ。
だって、これで…
君の頭を飽和するのは、僕のことだけになったんでしょ?
ー人殺しへの狂愛ー
「×××への××」 ─Fin─
Thank you for reading
コメント
1件
この解釈めちゃ好きです…