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あの日の昼休み――
若井が僕のことを人前で引き寄せて、
廊下でキスした。
ほんの数秒だったはずなのに、
噂って…
どうしてこんなに一気に広まるんだろう。
午後の授業なんて、もう全然手につかなかった。
後ろや斜めからひそひそ声、
LINEの通知がずっと止まらない。
クラスの空気がなんとなく、
僕で回ってるみたいで――
穴があったら入りたかった。
目立ちたくなんて、なかったのに…
涼ちゃんはいつも通りだったけど、
『派手すぎ!さすがに目立ちたがりすぎ笑』
なんて茶化してきて、
僕の顔がますます赤くなる。
若井はというと…
不思議なくらい堂々としてた。
誰かの噂話にも、
目もくれずに普段通り教科書開いてるし、
彼の横顔を見るたびに、胸がちくっとした。
昼休みは『やりすぎ』って本気で思ったけど、
あんなふうに強く求められたことが、
正直嬉しくなかった訳じゃない。
そして放課後。
ついに先生から呼び出しがかかってしまった。
担任『職員室に来なさい』
その言葉に、他の生徒たちの視線がさらに痛い。
元貴『……まじでやばい…』
僕がぼそっと呟くと、
若井がさりげなく僕の袖をつかむ。
隠れるように、でも確かに手を引いてくれた。
滉斗『大丈夫、俺も一緒にいるから、』
その一言で、胸が少しだけ落ち着いた。
職員室。
生活指導の先生の前で、
僕と若井は机を挟んで並んで座っている。
心臓がどんどん速くなる。
どうしよう、怒られるだけならまだしも、
“親に連絡”とかになったら――
取返しがつかないかもしれない。
先生の声は想像より低くて静かだった。
生徒指導『まったく…学校は公共の場です
何を思い合ってるかは否定しませんが、
“節度”ってものは分かりますか?』
それは、そうだよな……
目を伏せて、必死に手を膝の上で握りしめる。
元貴『…すみませんでした、
僕、つい浮かれてて……』
声が震えそうで、最後はかすれてしまった。
若井もはっきりと
『ごめんなさい、迷惑かけました』と
頭を下げる。
先生はしばらく黙った後、溜息混じりに言った。
生徒指導『気持ちも、行動も全部含めて、
“お互いを本当に大事に思う”ってのはね、
周りに配慮できる、
大人になることでもあるんですよ、
校内では控えるように。分かりましたね?』
元貴『……はい』
消え入りそうに答えたら、
隣で若井がそっと僕の方を見てくれていた。
先生への怖さも恥ずかしさも、少しだけ薄れた。
下校時刻。
人影もまばらな夕焼けの通学路。
若井と並んで歩く。
元貴『あんな騒ぎになったの、初めてだ…』
思わず肩を落とす僕に、
若井は苦笑して、『ごめん、』と呟く。
元貴『…止めて欲しかった訳じゃなくて、
ただ、みんなの前は…
やっぱりちょっと恥ずかしい、かな、』
滉斗『それでも――』
急に足を止めて、若井が僕の目を見つめる。
滉斗『後悔してないよ、
お前が可愛すぎて、周りなんか忘れてた。
俺、もっと堂々と元貴のこと好きだって
言いたい、……馬鹿だな、』
照れ隠しみたいに若井が目を逸らすから、
僕は思わず笑った。
元貴『じゃあ、今度は2人きりで、
思いっきり好きって言ってよ、
…さっきのよりも、もっと深くキスして、?』
肩を寄せて歩き出す。
まだ胸はドキドキしているのに、
不思議と怖さはなかった。
夕日の中を歩く僕たちの影は、
どこまでも並んで伸びていた。
――“好き”って、
どうしようもなく人目につくものなんだな、と。
それでも、きっとこれからも、
僕は何度でも若井に恋をするのだと思う。
コメント
2件
わわ最高です🥹 そうですよね、学校ですよね💦 こういう関係を否定せず、でも駄目なことは誰に対しても駄目って言ってくれる人がいる環境だからこそ後々幸せいっぱいになれるんだろうなって思いました… そういうリアルさも追求できる主さん本当に尊敬です✨