テラーノベル
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校舎の廊下はまだ入学式の熱気でざわついている。
中学生組のいるま、みこと、こさめはそれぞれ別のクラスに入った。
三つ子というだけで目立つ存在――しかし、その個性は三者三様だった。
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みこと(教室A)
席に着いた瞬間、隣の女の子が声を掛ける。
「……ねぇねぇ、さっき入学式で見たんだけど、三つ子なの?」
その質問に、みことは視線を外し、窓の外の桜を見つめる。
瞳は虚ろで、まるで自分の世界に閉じこもっているようだった。
「……返事、してくれないの?」
女の子は不安そうに声を落とす。
みことは口を開かない。
視線を外したまま静かに呼吸するだけ。
周囲のクラスメイトはざわつき、囁きが増える。
(この子、ちょっと変……?)
(全然話さないんだけど…)
(聞こえてんのか…?)
他にもある男の子が勇気を出して話しかけるも、みことは反応せず、ただゆっくりと視線をそらした。
その冷たさに、クラス内には微妙な距離感が生まれていた。
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いるま(教室B)
いるまは教室に入った瞬間、明るい声が飛ぶ。
「ねぇ、三つ子って本当なの?」
「他に兄弟いるの?」
一瞬、教室が注目する。
周囲の視線に、いるまは眉ひとつ動かさず振り向いた。
低く、冷たい声で答える。
「だから何?」
その一言で、空気が一変する。
質問した生徒も、他の子たちも、思わず息を飲む。
威圧感が重くのしかかり、誰もさらに話しかけることはできなかった。
目は鋭く、まるで「近づくな」と告げている。
背筋を伸ばして座るその姿に、教師も一瞬目を留める。
「……怖」
クラスメイトの小さな声が、ちらほらと聞こえた。
いるまはその反応を見て、椅子にもたれる。
周囲の無関心・恐怖で、自分の安全圏を確保した瞬間だった。
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こさめ(教室C)
教室に入ったこさめには、すぐに好奇心旺盛な子たちが集まってきた。
「ねぇ、君たち三つ子なの?」
「一番上は誰?」
こさめはニコニコと笑顔を返す。
「うん!奏こさめ!よろしくね!1番上はいるまくんだよ!」
元気に自己紹介をして、周囲の席の子たちにも次々と話しかける。
「えー!可愛い~!」
「仲良くして!」
あっという間にクラス内に小さな輪ができ、こさめは早速友達を作った。
「ねぇ、今度一緒に遊ぼうよ!」
「いいね、私も!」
明るい声が教室に広がり、こさめの笑顔が周囲の空気を和ませた。
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放課後。
校門前には少しずつ生徒が溢れかえっていた。
制服姿のらんとひまなつが、立っている。
「おーい奏3人組!」
らんの声に、いるま、みこと、こさめが視線を向ける。
「一緒に帰んぞ」
ひまなつも手を振りながら言った。
いるまは眉を寄せ、少し不機嫌そうに腕を組む。
「……別に、勝手に帰るけど?」
それでも、らんとひまなつは構わず前に立ち、自然に歩き出す。
いるまは仕方なく、渋々ついていく。
みことは肯定も否定もせず、黙ってらんたちの後ろを歩く。
瞳はやや虚ろだが、足取りは兄たちのペースに合わせている。
一方、こさめは元気いっぱい。
「じゃあ、また明日ね!」
クラスメイトに向かって手を振り、笑顔で挨拶する。
「こさめ君、明日もよろしく!」
「うん!絶対!」
周囲の生徒も嬉しそうに応え、こさめはすぐに場を和ませてしまった。
歩きながらひまなつが口を開く。
「すちは部活で遅くなるから、今日は先に帰ってって」
こさめが目を輝かせ、すぐに質問する。
「へー!何の部活?」
「美術部」
ひまなつが淡々と答えると、こさめは両手を広げて喜んだ。
「えー!じゃあすち兄ちゃんの絵、今度見せてもらお!」
みことは無表情のまま、足を進める。
いるまは少しだけこさめにチラリと視線を送るが、すぐにそっぽを向く。
6人はゆるやかに列を作り、校門を出ていく。
春風が桜の花びらを運び、道端に舞う。
こさめの笑顔、みことの静かな歩み、いるまの不機嫌そうな顔、そして高校組の兄たちの穏やかなフォロー――
すべてが、これから始まる日常の小さな序章のようだった。
___
夕暮れ時、家のリビングは柔らかなオレンジ色の光に包まれていた。
いるまは自分の部屋に直行。みことも静かに自室へ。
すちが帰宅すると、こさめは居間にいる兄の横に座った。
「すち兄ちゃん、美術部ってどんなことやってるの?」
こさめの瞳は好奇心でキラキラしている。
すちは手元の教科書を片付けながら、少し照れくさそうに答えた。
「主に絵を描くよ。油絵とか水彩とか、あとデッサンの練習もする」
「へぇー!すごいなぁ。見てみたい!」
こさめは腕を伸ばして嬉しそうに手を叩く。
「……今度、見せてあげるよ」
すちは淡々とした口調ながら、少し笑みを浮かべる。
こさめの純粋な好奇心に、心の奥が温かくなるのを感じていた。
「えー、ほんとに!?やったー!」
こさめは跳ねるように喜び、ソファに寝転びながら話し続ける。
「いつでも良いから部室に遊びにおいで」
すちは提案するように言った。
「行く行く!でも…俺、絵とか全然わかんないけど大丈夫?」
こさめが少し不安げに聞くと、すちは軽く笑った。
「大丈夫だよ。こさめちゃんが楽しめれば、それでいい」
その一言で、こさめの表情がさらに明るくなる。
ふと、すちはこさめの頭を軽く撫でた。
「無理に頑張らなくていいんだよ。自分らしく楽しめばいいから」
「うんっ!」
こさめは満面の笑顔で答え、すちを見上げた。
その姿に、すちは穏やかな安堵を覚える。
兄として、そして家族としての関係が、少しずつ育まれていく瞬間だった。
コメント
1件
やっぱ性格の差出るんやな…w