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前回のあらすじ
主人公、従軍看護師の中野トワは、戦場に負傷して取り残された兵士を助けようとしたところ、敵兵に狙われたが、危ない所を中尉である波多野信太郎に救われた。
登場人物
中野トワ(主人公・従軍看護師・18歳)
廣瀬カナ(従軍看護師・おっとりした性格・25歳)
相模涼子(従軍看護師・強気な性格・19歳)
村田チヨ(従軍看護師・臆病な性格・18歳)
宇佐美アキ(女性の陸軍少尉・16歳)
波多野信太郎(陸軍中尉・20歳)
「あははは!中尉殿に助けて貰ったのか!中尉殿、優しいところあるんですね〜?ふふっ いつもはツンツンしてるのに!笑」
宇佐美少尉が、ニコニコしながら帰ってきた私の話を聞いて大笑いした。片手には何故か酒の瓶もある。
「黙れ宇佐美!っていうか、なんで酒飲んでんだよ!お前未成年だろ!」波多野中尉が宇佐美少尉を叱り、酒の瓶を取り上げた。おーこわいこわい、と宇佐美少尉が笑っている。なんだか2人とも初めて会った時と性格が違うな…なんなら少尉は完全に酔っている。
「ま、まぁ…トワちゃんが生きててよかったわよ…ねえ?みんな…兵隊さんを救えたんだし」母親的存在であるカナが皆を宥める。確かに、生きてて良かった。今思えば、あれは結構無謀な挑戦だった。助けて貰えなければ死んでいた…頭を冷やさなければ。
「ていうか、少尉殿は16歳っすよね?どうして陸軍に入れたんすか?」涼子が酔っ払って床に大の字になっている少尉殿に聞いた。確かに、彼女の経歴については私もとても気になる。女性で、しかも16歳という若さで陸軍に入隊し、少尉という地位につけた理由。
「え〜それはね〜へへへ」「それは?」
「じいちゃんのコネ〜はははは!」
「なんか…キャラかわりました?」
「えへ〜そうか?あはは 」
酒臭! しかもめっちゃ酔っ払ってる!!!
正直、酔っぱらい具合に、看護師も、中尉殿も、負傷兵達もみんな引いていた。
「私はな〜じいちゃんが〜結構上の人に好かれててさ〜その孫っつー事で有利になったんだ〜うっ気持ち悪い 」ニコニコと話してるかと思えば、急に口元を抑えて外へと走っていった。
「おええ〜😭」
「ほーらやっぱりな!!馬鹿かお前は!」中尉が背中をさすると思えばぶっ叩き、まさにカオスだ。これは戦場でしてはいけないノリだ…絶対に。
「はぁ…昨日の記憶が無い…」少尉が頭をぽりぽりとかいて起きてきた。あの後、死んだようにぐっすりと眠って、中尉殿が起こそうてしても眠っていた。
「昨日はサボっちゃったからな…そろそろ戦いに行かないとな」「起きたばっかりなのに、もう行くんですか?」まだゆっくりしててもいいのに…そう問いかけると「ははは、ずっと変な感じじゃ失望されて首になっちゃうからな、行かないと」そして彼女は愛用の銃を背負って向かっていった。
人を殺すこと。それは私にとって…この宇佐美アキにとって造作もない事だ。人が息をするように、彼女はそれをやってのける。(ここの木の上から撃つと当たりやすいんだよな… )大きく、葉が生い茂っている1本の木に登っていつも狙撃をする。じっと息を殺して、全ての神経を視覚に集中させて、引き金を引く。「はぁー…」
「昨日は嘘ついちゃったな…」祖父のコネで入隊したのは嘘だ。本当は祖父は私が産まれる前…なんなら親が産まれる前とっくに死んでいる。私の親はじいちゃんの置き土産みたいなもんだ。「じいちゃん…」「私、もうじいちゃんより上の地位まで上り詰めちゃったよ」
ある日…14、5歳の頃だったかな?まだ陸軍に入隊してない時、私は軍の本部に行ったことがある。急に来たガキに、誰もが警戒した。「なぁ、私を入隊させてくれよ。あんたらの良いように動いてやるさ。私は使えるぞ?あんたらの駒になってやるよ。」その言葉を聞いて、軍の奴らは変な奴が来たな、と大笑いした。「いいぜ、お嬢ちゃん。練習場に来い。この人型の的の真ん中に銃を当てることが出来たら入隊させてやるよ」彼らは絶対に当てられないと思ったのだろう。だが私はそれを一発でやってのけた。的の頭をぶち抜いてやった。我ながら凄いと思ったよ。軍のヤツら、私を見て笑わなかったな。怖いものを見る目で見ていた。「それからあと1つー」「私の知り合いがさ、陸軍に入隊したいって言ってたんだ。名前は波多野信太郎。そいつを気にかけてやってくれよ。」そうして、私は陸軍に入隊した。今ではもう少尉の地位まで上り詰めた。信太郎は中尉までになって…中尉になったアイツの顔、目に焼き付いてる。当然だ、って格好つけてたけど、誰もいないところで泣いていたな。面白かった。
そんな事を思い出しながら狙撃をしていた時。怪しい動きをした敵兵の姿がスコープにうつったので、気になってこっそり向かってみた。近づくと、泣いて助けを乞う女の声がした。そこで見たのは、
現地の私くらいの女が敵兵に犯されていた光景だった。
言葉をかけるよりも先に体が動いた。感じた事のないような怒りが私を動かした。私は敵兵にこっそりと近づき、殺した。何度も、何度も身体をナイフで刺した。「ふぅーッ…」助けられた女は、泣いて、私に怯えていた。そりゃそうか、こいつから見たら私は助けてくれたとはいえ敵。いつ殺そうとしてくるか分からないやつだな。「味方だろうが何だろうが、誰も信用するなよ。ここは戦場だ。襲われるのは何時だって弱い民間人のお前らだ。」言葉が違うから何言ってるか分からないだろうけど、そう吐き捨てて私は自分の陣地へと戻って行った。戦争は人を変えてしまう。銃は人の化けの皮を剥がす。普段出来ない行動も、やってはいけないこともさせてしまう。まさに地獄だ。
でもそれは私も例外ではない。この数日間で何人も人を殺した。もし…この戦いが終わったら…私は普通に生きていけるのか?私は人を殺すという快楽を覚えてしまった。人を殺して真っ赤に染まった姿…まさに化け物だ。戦争がない世界なら…誰も争わない世界なら…私は真っ当に生きれたのかな。
そんな叶うはずのない願いを考えながら、野戦病院へと向かっていた。
その時、身体…腹部がぶわっと熱くなった。火傷したような感覚になった。
「あ…」ふと、腹部を触ると、触った手が真っ赤に染っていた。
あ、撃たれた
さっきは平気だったはずなのに、急に痛みが
痛い、痛い…痛い。丁度いい所を撃たれたからか、急に力が入らなくなって、しゃがみこむしか無くなった。視界もぼやぼやして来たな。多分…これ死ぬなぁ…ここまでか。「あー…痛い…」涙が出てきた。
ふと、今まで殺した人達の顔が思い浮かんだ。「あー…私が…殺した奴らも…こんな気持ちだったんだ…」
「中尉殿」「なんだ、トワか…どうしたんだ?」「宇佐美少尉って、どんな人なんですか?」昼下がり、中野トワが波多野にこう聞いた。「アキか…あいつは掴み所のない変な奴だよ。いつも何考えてるか分からない…」波多野が溜息をつきながらしながら銃の手入れをしている。「でもな」「あいつは油断しがちな所があるんだ。達観してるように見えて、情に流されやすいし…所詮まだガキだ」波多野が顔をしかめてはぁ、と溜息をつく。「あいつはあの歳で色々背負いすぎてる。お前ら看護師が支えてやってくれ」中尉殿は優しい人だな、とトワは思った。いつも険しい顔をしているが、今は少し顔がほころんでいる。人一倍アキの事を思っているのだろう…
そうだ。今日アキさんが帰ってきたら、私がこっそり持ってきたキャラメルをあげよう。
ああ、喜んでくれる顔が早く見たいな…