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「今日、アキさん帰ってくるのが遅いですね〜」負傷兵の治療をしながら同僚の看護師たちと話す。「そうね…何も無いけど…」同僚の1人、カナが伏し目がちに、溜息をつきながら話す。そう思うのも仕方が無いだろう。ここは戦場で、いつ誰が死ぬか分からない。実際に、ここ数日で何人も死んでいる。「まぁ、もしかしたら今日は調子が良くて長居してるんじゃね〜か?気長に待とうぜ。」段々と重くなった空気を涼子が明るくする。「そ、そうだね。もうちょっと待とうか。」この時は、誰も彼女が死んでいるとは思わなかった。
そして数時間後の事。
「おい、宇佐美のやつ遅すぎないか?もうすぐ日が暮れるぞ。」戦地から波多野中尉が帰ってきた。確かに、中尉はアキ少尉より遅くに出た。野戦病院の中に不穏な空気が流れ込んでくる。「探してくる。誰か看護師の中で1人ついてきてくれ。負傷してたら困るからな。」
「私が行きます。」他の子が返事をするよりすぐ、私は声を出した。中尉には恩がある。少しでも協力して返さなければ…
「トワか。よし、じゃあ行ってくる。」そして2人で夕暮れの戦地を探しに行った。
「アキさ〜ん…」探し始めてから見つかるのはそう長くなかった。必死に探している時、切羽詰まった声が聞こえた。
「アキっ…!」
声の主は波多野中尉だとすぐ分かった。まさか、と思い嫌な想像を巡らせながら走って向かうと、予想どうりだった。
そこには、血を流して動かなくなった宇佐美少尉の姿があった。
「少尉殿!!!」急いで呼吸を確かめようとしたが、もう必要無かった。彼女の身体がとても冷たかったのだ。
「おい…!!!アキ!起きろ!おい!!」
波多野中尉が必死に彼女の身体を揺らす。その姿に、もう死んでいる、と真実を伝えようとしたが、出来なかった。ただただ、涙を流す事しか私には出来なかった。「少尉殿…っ」
「アキ…お願いだから…起きてくれ…」
彼女の身体には腹部を撃ち抜かれた跡があった。この傷が命を落とす事に繋がったのだろう。遺体が綺麗だったのが不幸中の幸いだというところだろうか。埋葬して弔う事にした。出来ることなら故郷へと連れて行ってあげたかったが、彼女が死んでも戦争が終わることはない。彼女が着ていた服や愛用した銃をいつか彼女の家族に渡す事にした。
波多野中尉は何も言わなかった。取り乱したのは発見時のみで、その後は淡々と過ごしていた。
「そんな…!少尉殿が?」看護師達も動揺していた。この間笑って語り合ったあの子が。大人っぽいけど、まだあどけなさもあって可愛らしかったあの子が…彼女がいなくなったここは、何だか寂しい感じがした。
「私達も…死ぬかもしれないんですね」
チヨがポツンと呟いた言葉が、妙に説得力があって怖くなった。いつまで続くのだろう。いつまで生きていられるのだろう。死ぬ時はどうやって死ぬのだろう。良くない想像が頭の中を駆け巡る。そして、ネガティブな考えを、更に私の頭の中を埋め尽くす出来事が起こった。
彼女が亡くなってから、2日もたたない頃…
いつも通り負傷兵の治療をしていた時。
「み……みんな!!!」片腕を負傷した兵隊さんが焦った様子で野戦病院に駆け込んだ。
「米軍が…俺らを全力で潰しにかかってる!!!行けるやつは行ってくれ!!!行かないと…」彼は息を切らしながら叫んだ。
「俺らはここで死ぬ!!!!」ここ数日で、私たちの戦況は悪化していった。そんな状況の中、そこにいた全員の頭の中に『負け』の言葉があった。だが、
「分かった。行くぞお前ら!大日本帝国の力、ここで見せてやれ!」波多野中尉の言葉に、全員の士気があがり、出陣して行った。
「看護師のお前らは絶対ココを離れるな。もし…敵軍が来ても抵抗するなよ。」
そう言い残して、波多野中尉も言ってしまった。本当は、
行かないで、ここにいてください
と言いたかったが、止める暇もなく彼は行ってしまった。外では激しい戦いの音が聴こえた。銃が乱射される音、何処かで爆発する音…
「大丈夫…絶対勝てるわよ。だから…し、心配しないで待ちましょう…」カナがそう私たちを宥めるが、彼女の声は震えていた。
彼らが出陣してから10分ほど経つ…戦いは終わる気配を見せず、依然続いていた。そんな時だった。
扉が開く音がして、帰ってきてくれたのか…と私達は扉のほうへ向かっていった。
「だ、大丈夫です……か」
扉を開けた主に私達は呆然とした。
米軍だった。