コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
18〇〇年、まだこの地が王国だった頃。そこには世にも美しい姫がおりました。
名はメーテル・チャトラと言いました。色鮮やかな花のようにどこか儚く、どこか晴れやかな女性でありました。
「来て!マール!遊びましょう!」
彼女は一国の姫であるがゆえ、箱入り娘で、遊び相手は使用人の娘であるマールただ1人でした。
「お待ちください!姫様!」
マールは非常に思慮深く、身分の違いをよく理解し、遊び相手でありながら、姫を一番近くで守る騎士でもあった。
彼女らの遊び場は本棚の下、秘密の取っ手を引き出すと現れる扉の向こう。秘密の部屋であった。
マールは問う。
「チャトラ様。いつも遊んでおりますが、このような通路どのようにして見つけたのですか?」
よくある隠し通路の仕掛けとはいえ、一子供が見つけられるほど単純ではないように思えたのだろう。
その質問にチャトラは「大きな声では言えないんだけどね?」と前置きをしたあと
「私が書庫にいた時にこっそり父上が教えてくれたのよ。」
と答えた。チャトラ曰く、この部屋は代々王のみに語り継がれて来た部屋なのだという。
「そうなんですね。」
子供心にロマンを感じたマールは少しだけホコリ臭いカーペットに寝転がる。
「そんな部屋を私が知ってよかったのですか?」
チャトラも続けて寝転がって言った。
「いいのよ、多分ね?」
そう言ってマールの方を向きにこりと微笑む。
マールもそれに応えるようににっこりと微笑んだ。
隠し部屋にあるひとつの小窓から2人を包みのような優しい日差しが差し込んでいる。
こんな優しい日々が10年続いた。
気づけばチャトラとマールは共に20歳になっていた。
チャトラは美しく気高い貴族の姫に、
マールは険しい鍛錬の結果王女の随伴となっていた。
そんなふたりの日々は少しも変わっていなかった。毎日二人で共に過ごし、時々秘密の部屋で秘密の話をしていた。
「ねぇマール。私たちっていつお嫁に行くのかしらね。」
少し遠くを見つめて言う。
マールはチャトラを見つめて言う。
「私はチャトラ様がお嫁に行っても一生そばに居ますよ。」
マールの方を向いてチャトラは言う
「それはマールお嫁に行かないってこと?」
少し照れくさそうにマールは言う。
「そ、そうですね。はい、そうでございます。」
「わかったぁ。さてはマール、私の事が好きなんだなぁ?」
からかうようにチャトラは言う。
少し驚いたマールは、一呼吸おき、毅然として言う。
「えぇ。私はチャトラ様を愛しておりますよ。」
「え!?」
驚き顔を赤らめたチャトラにマールは言った。
「もちろん小さい頃から使える主人としてでございますよ。」
「な”っ!!もぉ!びっくりしたじゃないのよ!マールらしくない!」
そう言って赤らめた顔を手のひらで隠し、モジモジとしている。
そんなチャトラにマールは
「姫様、顔が赤くてございますよ?お熱でもあるのですか?」
とからかうような笑みを浮かべながら言うのであった。
2人を包む暖かな光。部屋に舞うホコリもキラキラと光るような柔らかな。少しすつ2人のものを持ち寄り、2人の色に微かに染った秘密の部屋。いつかどこかで拾った花、干からびた木の実、もう付けるには子供っぽいブローチ。
ピカピカの石、いい形の木の棒、鍛錬で折れた剣。
どれもが彼女らの成長を物語らせていた。
その暖かな光は彼女らを盲目にさせていた。2人だけの時間がもう長くは続かないこと。まるで砂時計の砂が少しずつ零れ落ちているようにいつか止まってしまう、幸せな時間の終わりを忘れさせるほどに。