それからはぐち逸の要望通り、街が落ち着いた頃からコソコソと会って話すのが日課になった。盛り上がってつい声が大きくなる時もほぼ喋らずにただ一緒にいるだけの時も、2人には貴重で大切な時間になっている。
「また新しい飲食店できるんだって、この街も栄えてくな。そういえばぐち逸って好きな食べ物とかあるの?」
「好きな食べ物…これといって無いですかね。」
「え、なんにも?1つぐらい無いの?食べ物でも飲み物でも、ジョイントでもさ!」
「あー…ジョイントならありますが、警察官に教えるのはちょっと…」
「なにそれ、違反の物売ってんの?クスリとか?大丈夫だよ、誰にも言わないから教えて。」
「じゃあ信用しますよ…奇肉屋の「KONA」って知ってます?」
耳元に近付き小声で言われた。ドキドキして正直話の内容どころではない。
「んも〜〜〜///…好き。」
「ぺいんさんもですか!あれは良い品ですよね、大丈夫です私も誰にも言わないから。」
「あーうんそういう事で良いや。かわい…あ、可愛いって言われるの嫌だ?」
「はぁ、可愛い?俺が?…俄には信じ難いですがまぁぺいんさんなら許します。」
「じゃあいっぱい言お。ぐち逸可愛いね〜♡」
「あんまり言うと怒りますよ。」
心の距離は確実に近付いていってるが物理的距離は中々縮まらず、いつも並んで座ってるだけであの日以来触れ合った事は無い。
「そうだ明日は会議あるから会えないんだ、ごめん。」
「そんなに遅くまで会議やるんですか。大変ですね。」
「ごめんね、明後日は平気だから。」
「明後日は私がちょっと…」
「じゃあその次の日は会えなかった分早めに集合するのは?日付変わるぐらいとか来れそう?」
「そんなに早く抜けて大丈夫なんですか?」
「へーきへーき、そんなの気にすんなって!」
ぐち逸は結構なポーカーフェイスだと認識していたが実際は全然そんな事無く、少しシュンとしていたと思ったら返事をした瞬間目をキラキラさせて明らかに喜んでいる。その表情の変化にぺいんは釘付けだ。
「ほんっとかわいい…」
「今何か言いました?」
「いやなんもー?空耳じゃ…待って誰か来たかも!」
慌てて生垣の裏に隠れ息を潜める。このスリルも楽しめる程の余裕が出てきて目が合うとクスクス笑った。
「もう行ったかな、ちょっと見てくるから待ってて。………オッケ大丈夫!戻ろ!」
しゃがんでいるぐち逸に手を差し出すと自然と手を取り立ち上がった。その手を握ったまま服を直してふぅ、と落ち着いたら途端に顔を赤らめる。
「…ぁ///」
「このまま繋いでよ?///」
改めて、と握り直してベンチへと誘導する。ぐち逸だけでなくぺいんも目が泳ぎ顔は真っ赤になっていた。
「ぐち逸の手、細くて綺麗だね。」
「……ぺいんさんの手は、大きくて暖かいです…」
「こういうの、嫌だったらちゃんと言ってよ?」
無言で首を横に振る。ならばここが漢の見せ所だ、勇気を出して指を絡めてみるとビクッと大袈裟にぐち逸の肩が跳ねた。
「ぁっごめん嫌だった?」
「いやその、ビックリしただけで…嬉しい…///」
「ふふ、俺も嬉しい。」
「……なんか、手だけじゃなくて身体全体暖かくなります。…心も…」
「俺もそうだよ、暖かい。たぶんねぇこれが幸せって事なんだと思う。」
「幸せ……幸せ…」
噛み締めるように言うぐち逸がはにかんで手にぎゅっと力を込めた。