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「あっちぃー、」
蝉の鳴き声
ジリジリと地面を照らす太陽
透き通るような風鈴の音
夏をこれでもかと感じるほどの日だ
俺は親の仕事の関係で東京から愛知県に
引っ越してきた
都会に慣れているから 暮らすのも親と一緒の名古屋でも良かったんだけど
田舎に憧れていたのもあって 親戚の家がある岡崎市に住むことにした
今日から新しい学校
親の転勤はよくあることだから転校には正直慣れている
でもやっぱり最初は緊張する
田んぼに囲まれた道を自転車で駆け走る
転校初日から門をくぐる前にチャイムが鳴り響く
「やべぇ、 遅刻だ」
首筋に垂れる汗を袖で拭い 職員室に入る
「今日転校してきた 佐野勇斗です」
「待ってたぞ 佐野」
「転校初日だから遅刻は見逃してやるけど次からは気をつけろよ」
「はい、すいません」
優しい先生でよかった
「朝のHRでクラスのみんなに自己紹介してほしいのと 放課後資料とか色々渡したいから職員室来れるか?」
「はいわかりました ありがとうございます」
自己紹介か
まあいつものやつでいっか
転校これで4回目だし
「はいじゃあ朝のHR始めるぞー」
「今日から転校生来てるから みんなちゃんと仲良くしてやれよー」
「入っていいぞー」
慣れているとはいえこの瞬間はいつも
鼓動が高鳴る
「失礼しまーす、」
「えーっと 名前は佐野勇斗です 趣味はサッカーで特技は書道です 仲良くしてくださいよろしくお願いします」
テンプレートのような自己紹介
でもこれでいい どうせまた転校する
仲良くなればなるほど辛い思いをするのは自分だ
教室に拍手の音が鳴り響く
「はーい よろしくな じゃあ佐野は」
「窓側の1番後ろの席 空いてるからそこな」
「隣はいないから前の席の……」
隣いないのか よかった 楽だ
大体隣の席の人とは交流することが多く仲良くなりがちだから 安心する
「吉田ー」
「吉田席前だから色々と教えてやったり仲良くしてやれ」
まあ前の席ならそう仲良くすることはないか
周りの視線を感じながら席に着く
挨拶はしとくか
前の席の 椅子をトントンと叩く
「あー、吉田くん? よろしくね」
完全に振り向かず首を少しこちら側に向け
目線も合わせず 会釈だけし また前を向いた
え 返事なし? まじか
まあ仲良くするつもりはないからいいけど、
少ししか見えなかったためはっきりとは分からないが
メガネにマスク 漆黒のような色の髪なのに艶があり それに
「綺麗な目……、」
「ぇ、」
彼は初めて話しかけられたかのように驚きながらこちらをしっかりと振り向き見てくる
「あぁ、ごめん! 凄い綺麗な目だなって思って笑」
「ぇあ、 いえ、 」
目だけじゃなく 声も透き通っていて綺麗だ
「てか 吉田くん 下の名前は?」
どうせ別れが来る
そう分かっていても どうしても
彼のことを知りたくなった
「仁人、 です」
「仁人 よろしくな!」
彼は名前だけ言い捨てるように言い また黒板に体を戻す
今までは自分から話しかけなくても周りが寄って集って来ていた
でも彼は違った
まるで人に興味がなく 自分の周りにバリケードを常に張っているかのように遮断していた
遮断しているのに 言われたことない事を言われると 反射的に反応する
そんな一瞬のバリケードがなくなる瞬間に
惹かれてしまった
目を見開き 振り返る瞬間に靡く髪の毛
その映像が脳内で繰り返し再生される
もっと知りたい
「はいじゃあこれで朝のHRは終わりな 解散」
先生がその言葉を放った瞬間 椅子から立ち上がる音と共にこちらへ駆け寄る足音がぞろぞろと聞こえてくる
「佐野くん?だったよね!」
「うん 佐野くんです」
「笑笑 佐野くんは何部はいるの??」
何度したか分からない 聞き馴染みしかない質問と会話
「部活は入る予定ないかな」
「えー!そうなのー?」
「うちの学校9割が部活入ってるよ?」
「へーそうなんだ でも俺部活は入らないかな」
「ふーんそうなんだ〜」
部活とか 転校する時に1番迷惑をかけるものだ
正直 部活は入りたい 仲間と絆を深めながら目標に向かって勝利を掴み取るような青春をしたい
でも転校してしまったら その絆も思い出も青春も全て崩れ落ちてしまう
それなら 入らない方がマシだ
部活のことを聞かれ他の質問に答え少しするとまわりの人は次第に去っていく
まあみんな最初だけだろう 興味があるのは
そう思いながら 一限の準備をする
その時 机をトントンと叩かれる
またか と思い顔をあげる
「あの、」
仁人だ
話しかけてもらえると思っていなかったから 動揺する
「ぇ うん どうした?」
「なんで、部活 入らないの 」
自分が他の人と話していた話を聞いていてくれたことへの嬉しさと話しかけてくれたことの2つの嬉しさがこみ上がり つい頬が緩む
「俺 転校これで4回目」
「部活 もう色んなのやったことあって 飽きたしめんどくてさ 笑」
本当のことを言ったら彼が自分から離れていってしまうかもしれない
仲良くなれないかもしれない
今までの自分なら思うことのなかった感情に心の中で戸惑う
「そうなんだ ね、 僕も部活入ってないんだ」
「このクラス 部活入ってない人僕しかいなかったから 一緒で嬉しい、」
先程まで合うことのなかった視線が 自分の瞳に向かっていて 微笑んでくれる
そのどこか あざとい仕草に心が奪われそうになる
「まじで! 俺もなんか嬉しいわ 笑」
奪われそうになる心を留め 誤魔化すように言う
彼はメガネレンズ越しに目を細め微笑む
マスクからはみ出て見える えくぼについ
見惚れてしまう
「ぇっと、 僕 なんかついてるかな、?」
目線が合わないのに違和感を感じたのか
首をこてんと傾けながら 問いかけてくる
静かで 人に興味がなさそうで
気が弱そうで 友達も多くはなさそうで
異性から特別好かれたりしそうでもなくて
教室の隅っこでひとり本を読みそうな子
それなのに 彼を見れば見るほど
知ろうとすればするほど
何故か引き込まれるような魅力がある
俺は彼女がいたこともあったけど
元カノはみんな
誰が見ても素敵な女の子 そんな人が多かった
でも彼は違う
違うのに 何でここまで惹かれるんだろ、
「あの、 佐野くん、?」
不意に名前を呼ばれ 大きな鼓動を1度打つ
なにもついていないよ
その一言が言えない
彼に返事をするより先に
彼の頬を上から撫で下ろすように触る
「なんでもないよ」
「ぇっ、、//」
マスクで見えていないのに赤らめた頬を上から手で隠すように覆う
隠した頬よりも先に真っ赤に染った耳には
気づいていたが
自分の中だけの秘密にするため言わず
顔を覆いはにかむ彼を凝視する
教室にチャイムが鳴り響き まわりの雑音が少しずつ 小さくなっていく
彼に向けている自分の視線が
知人や友人に対して向ける視線ではないことには 薄々気づいていた
小さくなる雑音とは裏腹に俺の鼓動は高鳴り続ける一方だった
長くてすいません
読んでくださりありがとうございます
このお話 毎日2話ずつ更新するので
3日で完結すると思います!!