玄関の鍵がガチャッと開く音。私は反射的に体を固めた。
りんちゃんが、ゆっくり顔を覗かせる。
「……ただいま。震えてた?」
「な、震えてない……!」
即答したのに、
りんちゃんは半眼のまま、
「へぇ?」
って笑ったように口角を上げる。
バッグを置きながら、靴を脱ぎながら、
まったく急がず、
でも獲物を追い詰めるみたいに私の方へまっすぐ来る。
「全国放送で結婚宣言された彼女の顔、見せて」
「……り、りんちゃん……っ」
ソファに座らされた瞬間、
隣じゃなくて
体ごと向き合って座ってくる。
真正面。
逃げられない距離。
彼の指が私の手首を軽く掴む。
圧は強くないのに、全然逃げられない。
「否定、すんの?」
「……し、否定はしないけど……!
あんな言い方……っ、突然で……!」
「うん、突然のほうが可愛い反応するかな〜って」
平然。
完全に計算済みの顔。
「で、可愛かったし。
想像以上だったから……正解」
耳がじんじん熱くなっていく。
「……そんな、全国で言わなくても……」
「全国だから言ったんだよ」
にこっと笑わず、淡々と。
「俺が先に“この子は俺のだから”って言っとかないと、
いらない虫、寄ってくるでしょ」
その言い方が冷静すぎて、逆に怖い。
でも、胸の奥がぎゅんってなる。
角名は私の指先を撫でながら、
いつもの低くて淡々とした声で言う。
「で、返事は?」
「……へ、返事……?」
「結婚。
俺、言ったよね?
帰ったら“ちゃんと返事して”って」
のんびりした調子で言うのに、
目だけがまっすぐで逃げられない。
「……や、やだ……そんな真剣に見ないで……」
「逃げないで。
……俺が、逃がすわけないけど」
手を取られて、膝の上に置かれる。
角名の指が、私の薬指をそっとなぞる。
「ここ。
空いてんの、ずっと気になってた」
「りんちゃ……っ」
「……ねぇ、🌸」
少しだけ顔を近づけてくる。
「俺と、結婚する?」
静かで、優しくて、
でも逃げ道なんて一切ない声。
私は震えながら、
それでもちゃんと言った。
「……する……っ」
角名は一瞬だけ目を細め、
「知ってた」とでも言うようにふっと笑った。
それから。
スマホを取り出して、
シャッター音。
「……っな、なんで撮るの!?!?」
「世界一かわいい顔してたから。保存」
「りんちゃん!!!」
「俺の嫁になる人の写真くらい、撮るでしょ。
……ほら、こっち見て」
またカメラを向けてくる。
恥ずかしすぎて泣きそうなのに、
胸の奥は幸せでいっぱいで。
角名は、私が顔を隠そうとすると
そっと手首を掴んで引き寄せた。
「隠さないで。
……これから先も、俺の隣にずっと立つんだから」
そのまま額をくっつけてくる。
静かで、温かい声で。
「……愛してるよ、🌸」
コメント
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すぅぅ、ありがとうございます やっぱ稲荷崎最高すぎるわ