ーあの日、アーサーさんは来たが、直ぐ逃げるように帰っていった。
まるで、敵に会うかのように。
…でも、もし通常通りに接してくれたなら、本当に何かをしていたかもしれない。
結局、私はアーサーさんにとっての何者でもなかった。
…もう、終わったことだ。
アルフレッドさんには手紙を、その他にも会っているのに…
何故、彼には会わなかった?
薄いカーテンに陽光が透けて、白い肌を照らす。
柔らかで少しクセのある金髪が、光を受けてキラキラと光る。
整った顔立ちの中でも、より目を引く緑瞳が目蓋の下にゆっくりと現れる。
まるで人形のようだった身体が、魔法をかけられたように目覚め…
欠伸をひとつした後、顔を洗って、焦げすぎたトーストを咥えながら庭の花々に水をやった。
オーダーメイドのスーツを身に纏って、髪を整える。
行ってきます、とテディベアや彼と彼の兄弟にしか見えない何かに挨拶をして、家のドアを開いた。
空港についたら、ドイツ行の便にのる。
今日は、定期的な国体の会議だ。
彼が、ビルの最上階に設けられた会議室の扉を開くと、全員の視線が彼に向いた。
珍しく、彼が最後だったようだ。
そうして間もなく、国体の全てから彼に質問や心配の声が浴びせられた。
「アーサー!休むって言って君、ずっと連絡つかなかったじゃないか!
…ちょっと心配したんだぞ…」
「アーサーさん、御体はもう大丈夫ですか?
何はともあれ、お元気そうで良かったです」
「も~くそ眉毛のせいでロマーノとフェリちゃんずっと心配してたんやで?
…俺に相談すればよかったんに…」
「わぁ、久しぶりのアーサーやんなぁ。もう無理したらあかんで?」
「本当だよ坊っちゃん?これは~今日の昼おごってもらわないとかなぁ」
「ヴェ~!アーサーだぁ!今日さ、一緒にパスタ食べに行こ~よ~!ね、いーでしょ? 」
『ちょっ…近寄りすぎだぞ、こんにゃろー!…俺も、一緒に行っていいすか…』
「ふふ、こんなに休んで何してたのぉ?よっぽど疲れてたんだね」
沢山の国体からの言葉に、彼は照れながら謝罪を繰り返している。
『兄上達からもこっぴどく叱られたよ…
ありがたいことに、仕事はほとんど片付けてくれていたけどな。
これからは、またこきつかわれる…』
『とりあえず…ありがとうな』
彼にしては珍しい感謝の言葉に、全員が目を丸くした。
その後すぐに笑いが混じり、和気あいあいとした雰囲気で会議が始まろうとしていた。
「ごっ、ごめんなさい…
遅れました、、、」
「あれ、君だれだい?」
「カナダだよ!!」
ガタン。
椅子が倒れる音がした。
その音の方向は、彼を示す。
身体全体、特に唇や指先は異常な程震えている。
声は掠れ、聞こえるのは極僅かな音。
『ぁ、な、んで,ッ…』
「…アーサー…?どしたん…」
呼吸は荒くなり、顔は青ざめ、涙が溢れ出る。
あまりのひきつった顔に、誰も声をかけることが出来なかった。
だが、その瞬間、全員があの事を思い出した。
あのおぞましく…
だが、犯人は分かったはずだ。
時が経つにつれ、国体全員が、その犯人や、彼でさえも忘れていたのに。
「アーサーさん、大丈夫ですか…、?」
『さッ,…触るなッ…』
『、なんでッ…ぉ、お前が,ここ,,にいるんだよ…』
「なんでッ…あの、時…俺を.殺した…?」
「いつもアルと間違えるのに、珍しいですね」
『やめろッ…来る,…な!』
「どうして、僕はこんなにもアーサーさんに尽くしてきたのに…」
『もう、やめてくれ…』
『マシュー…』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アーサー・カークランドの日記より
※一部抜粋
3ヶ月前…[ あいつに手紙を送った、健康には気を付けて欲しい ]
2ヶ月強前…[ 本田が異様にボディータッチをしてくる。正直怖い。 ]
2ヶ月前…[ ポルトガルの家に相談に行ったら、アントー ニ ョもいた。以外にも、気を利かせて席を外 してくれた ]
1ヶ月半前…[ 髭の家に、アポ無しで行った。兄上の視線に耐えきれなかっ た。 ]
1ヶ月前…[ 本田については彼らの方がよく知っているから、訪ねて みた。兄の方を怖がらせてしまったようだ。 ]
1ヶ月弱前…[ 親睦を深めるためイヴァンの家に行った。客人がいて嬉しそ うだ。]
1ヶ月弱前…[ 本田に招かれて家に訪れた。恐れのあまり他人行儀になってしまう。 ]
???…[ 今日は久しぶりにマシューとアルフレッドに会いに行こうと思う。2人お揃いのネクタイを買った。喜んでくれると嬉しい。 ]
コメント
6件
え、これで終わりですか?え、え、うそん。続きを求めているます
そう来ましたか…!!! で、でも菊さんが言ってたのは… 色々謎が残ったこの感じとても好み…!!! 朝の怖がる描写が好きです(笑) それに目覚める表現とても綺麗…文才凄い!! 日記の書き方そこで止まってるの… 「喜んでほしい」で止まってるの そこから帰れなかったのかな、 とか考えられてとても好きです!!
もしかして本当の犯人ってマシューだったんですか?