いい子を演じなくても私の存在を認めてくれてるから。だからこんなに、胸が熱くなるんだ。
(こんなの…口では何とでも言える。信じない…)
それでも意地になって心の中で言い聞かせる。
「こんなにもいい子が、悪いわけないよ。」
「理解できませんね。私、こんなに裏表あるんですよ?」
「誰にだって職場では表の顔があるさ。本当の藤塚さんは、俺に言いたいことをぶつけてくれる、まっすぐで素直な女の子だ。」
真っ直ぐに見つめる瞳には、嘘も下心もなかった。
こんな男の人、初めてだった。だからだろうか。意地でガチガチに固まった私の心が、少しずつほどけていく。
信じたくないのに、信じてしまっている。
「あ…わ…たし…」
胸がいっぱいになって、口がうまく回らない。
そんな時だった。
「お待たせいたしました。こちらエビのクリームパスタと、唐揚げ定食でございます。」
見計らったようなタイミングで、店員さんが料理を運んできた。
まだ、出来たての為、暖かい湯気が顔を掠めていく。その温度で私は冷静さを取り戻した。
「おっ!!きたきた。と、とりあえず…食べようか。」
待ってましたと言わんばかりに箸を取り出す。そして、フォークを私に差し出した。
「ご、ごめん。藤塚さんの好みが分からなかったから俺のおすすめを頼んじゃったけど嫌いじゃなかったかな?」
その顔には少しの申し訳なさと、照れの色が滲んでいた。
きっと自分でいった言葉を今更恥ずかしくなってきたのだろう。
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