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何か公的機関での仕事、それが香澄の職業だった。

生活には困らなかった。俺は相変わらず外食が多かったし、家事代行サービスのおかげで家が散らかることもない。

本当に、“世間体だけの夫婦、家族”だった。


会長からの資金援助もあり、俺の仕事も始めの頃は順調だったのだが、海外の銀行の経済破綻が日本にも波及して、一気に俺の会社が傾いた。今は名前だけの社長で、実際は会長の身の回りの雑用をこなす仕事になってしまった。


___面白くないな


「チッ!」


無意識に舌打ちして、点けたばかりのタバコの火を苛立たしく揉み消す。仕事も家も面白いことなんて何もない。数少ない友達だと思っていた奴らも、会社が傾いた途端、離れていった。


本業の社長業ではほとんど給料はない。今は、香澄の父親から払われる最低限の給料だけが俺の収入だ。


「あなた、今夜はこのスーツで出かけてね」


「ん?あぁ、わかった」


何かにつけて俺は会長に呼び出された。下働きのような扱いでも、表立っては身なりを整え出来る男を演じている。それは今夜開かれるようなパーティーにおいても変わらなかった。


「お前は俺の義理の息子だ、それを忘れるな」


「わかっています。スマートな息子でいますよ」


香澄が見立てたスーツは、今の俺の給料じゃ買えないブランド品だ。靴も然り。それにお気に入りのブルガリの香水をつけて、まるでホストのように招待客の女性をエスコートする。



「翔馬さん、こちらでお話ししませんか?」


シャンパングラスを手にした、取引先の女社長に呼び止められた。


「えぇ、いいですよ。僕のような男に面白い話はできないかもしれませんが」


「あら、翔馬さんはいてくださるだけで、楽しいのよ。そういえば奥様は?」


「今日は仕事で来れないんです」


「あら、そうなの?じゃあ…ゆっくりできるわけね」


ニヤリと笑う女社長は、ゆっくりと俺の前を歩いてパーティー会場を抜け出した。そう、これが初めてではない。会長がチラリとこちらを見た。


___ヘマはしませんよ、会長







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