テラーノベル
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深夜のスタジオ。音合わせが終わった後、まだ誰も帰ろうとしない。
若井がソファに沈みながら、ギターの弦をいじっていた。
「さっきのとこ、やっぱ俺、ずれてた?」
元貴はその正面に立っていたが、何も答えずに無言で歩み寄った。
座っている若井の前に、ぴたりとしゃがむ。
「音じゃなくて…力が入りすぎてるだけ。」
目が合う。距離、30センチ。
「もっと力、抜いていい。音はちゃんと出てるんだから。」
若井は視線を逸らそうとするが、元貴の指が顎を軽く持ち上げた。
「逃げんな。」
冗談みたいな口調。でも、目は笑っていない。
スタジオの静けさに、アンプのノイズがかすかに響く。
「……お前ってさ、たまに近すぎ。」
若井が呟いた瞬間、元貴がにやっと笑う。
「1メートル以内はパーソナルスペースじゃない。バンドスペース だろ?」
若井はため息をつきながらも、笑った。
その笑いはどこか諦めに似て、でも少しだけ甘かった。
ギターの弦が、ぽんと一度だけ鳴った。
その音に紛れるように、誰かの心拍も音を立てていた。
**End**
コメント
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はじめまして。 Mrs. GREEN APPLEのメンバーだけで書く、ゆるめの短編集です。 特別なストーリーがあるわけじゃないけど、ふとした間とか空気とか、そういうものをのんびり描いていけたらな〜と思ってます。 夜の会話とか、静かな感情の揺れとか、そういうのが好きな人はぜひ。 更新は気まぐれだけど、ゆっくり楽しく続けていきます◎ どうぞ気軽にのぞいてみてください!