テラーノベル
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第1話 春、君と出会った日
四月。
桜が舞う校門の前で、水瀬莉乃は立ち止まった。
今日から高校生。
新しい制服。新しい教室。新しい友達。
期待と不安が入り混じった気持ちで、莉乃は校門をくぐった。
「……クラスどこやっけ」
手元の入学案内を見ながら、莉乃は校舎の中を歩いていた。
そのとき。
「それ、1年3組?」
後ろから声をかけられた。
振り返ると、同じ制服を着た男の子が立っていた。
「え? あ、うん」
「俺も。教室そっち」
そう言って、男の子は廊下の奥を指差した。
「あ、ありがとう」
「ん」
それだけ言って、男の子は先に歩き出した。
莉乃は少し遅れて、その後ろを歩く。
(……なんか冷たくない?)
別に嫌な感じではない。
ただ、愛想がない。
そんなことを考えながら教室に入ると、すでに何人かの生徒が席に座っていた。
莉乃は窓側の席に座る。
すると、さっきの男の子が隣の席に座った。
「……え」
思わず声が出る。
「なに?」
「いや、なんでもない」
男の子は気にする様子もなく、鞄を机の横にかけた。
そのとき、教室の前の扉が勢いよく開いた。
「おはよー! え、めっちゃ人おるやん!」
明るい声とともに、一人の女の子が入ってきた。
その子は教室を見渡すと、莉乃の隣に目を止めた。
「そこ空いてる?」
「うん、空いてるよ!」
「じゃあ座ろーっと。私、白石美羽! よろしくね!」
「水瀬莉乃! よろしく!」
あっという間に二人は打ち解けた。
「ねえ、隣の男の子って知り合い?」
美羽が小声で聞いてくる。
「いや、さっき廊下で会っただけ」
「ふーん」
美羽は意味ありげに隣を見る。
「ねえ、名前なんていうん?」
莉乃が尋ねると、男の子は少しだけ顔を上げた。
「朝比奈湊」
「湊くんね。よろしく!」
「……よろしく」
それだけだった。
(絶対仲良くなるの難しいタイプやん)
莉乃は心の中でそう思った。
*
入学式が終わり、教室に戻ってきた頃。
担任の先生が黒板に大きく名前を書いた。
「今日からみんなの担任になります、田中です。よろしく」
簡単な自己紹介と連絡事項が終わると、先生が言った。
「じゃあ、隣の人と自己紹介してみようか」
莉乃はすぐに美羽の方を向いた。
「もうしたやん!」
「確かに(笑)」
隣を見ると、湊が机に頬杖をついていた。
「朝比奈くんって、部活何入るん?」
「バド」
「え、私もバド入ろうと思ってる!」
「そうなん」
「なんか経験者?」
「中学から」
「へえ、すご!」
会話が途切れる。
湊はそれ以上何も言わなかった。
(……会話終了早すぎん?)
莉乃が心の中でツッコんだ、その瞬間。
「水瀬ってさ」
「ん?」
「結構しゃべるんやな」
「は!? それどういう意味!?」
湊は少しだけ笑った。
ほんの一瞬。
でも莉乃は、その笑顔を見逃さなかった。
(……え、笑うんや)
なんとなく。
ほんの少しだけ。
朝比奈湊という男の子が気になった。
*
放課後。
美羽と一緒に昇降口へ向かっていると、校門の近くで湊を見つけた。
隣には、さっきの男の子。
「湊ー! 帰ろ!」
その男の子が声をかける。
「おう」
二人は並んで歩き出した。
「ねえ、あの子友達?」
美羽が聞いてくる。
「たぶん」
「同じクラスやし、仲良くなれたらいいね」
莉乃は何となく、湊の後ろ姿を見つめた。
そのとき。
湊がふと振り返った。
目が合う。
ほんの一秒。
湊は何も言わず、また前を向いた。
「……なに今の」
莉乃が小さく呟く。
「え? どうしたん?」
「いや、なんでもない」
春の風が吹く。
桜の花びらが、莉乃の肩に落ちた。
このときはまだ知らなかった。
これから先、何度もこの男の子に泣かされて、何度も笑わされることを。
そして。
高校生活の最後の日。
自分が一番大切に思っている人になることを。
これは、莉乃と湊の3年間の物語。
コメント
1件
ああ、これ、めっちゃ青春って感じでいいですね。桜の校門のシーン、もうそれだけで胸がぎゅっとなる。 湊くんの「結構しゃべるんやな」からの一瞬の笑顔、あそこがもう絶妙でした。あのツンデレ感、たまらん。 それに最後の「何度も泣かされて笑わされる」って伏線、設定好きとしては期待値爆上がりです。この先莉乃がどうやって湊の心を開いていくのか、すごく気になる。 3年間の物語、しっかり読ませていただきますね。次話も楽しみにしてます。
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