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『custommade』🔞
降り止まぬ雨が、スタジオの防音壁を叩く音だけが、世界のすべてだった。五線譜はインクの染みで汚れ、宙を舞った末に床で死骸のように静止している。
産みの苦しみとは、まさにこのことか。
僕は、机の上に力なく突っ伏し、絞り出すようなため息を漏らした。
音の欠片すら、もうどこにも見当たらない。
「元貴」
背後からかけられた声は、この淀んだ空気の中にあって、唯一澄んだ音色をしていた。
若井が、マグカップを二つ持って、静かに隣の椅子に腰を下ろす。
湯気の向こうに見えるその表情は、いつもと変わらないようだった。
「少し、休めよ」
「…休んでる暇なんてない」
刺々しい声だった。
八つ当たりだとわかっていても、どうしようもなかった。枯渇した才能への焦りが、元貴の心を黒く塗りつぶしていく。若井は何も言わず、ただ静かにコーヒーを啜る。
その沈黙が、今は何よりも重かった。
「……もう、無理かもしれない」
ぽつり、とこぼれた弱音は、自分でも驚くほどか細く、情けなかった。
「僕の中から、もう何も出てこないんだよ」
俯いた元貴の震える肩を、大きな手のひらが、そっと包み込んだ。驚いて顔を上げると、若井がすぐ隣に立ち、心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「そんなことない。元貴の中から音が消えることなんて、絶対にない」
「若井には、わからないだろ…!」
「わかるよ」
力強い声だった。
「俺は、誰よりも元貴の音楽を信じてる。だから…」
言葉を切った若井は、元貴の身体を後ろから、壊れ物を抱きかかえるように優しく抱きしめた。馴染んだ体温と、いつも使っている柔軟剤の香りが、ささくれだった心を鎮めていく。
「大丈夫。俺がずっとそばにいるから」
その声が、体温が、香りが、友情という名の薄い膜を、じわりじわりと溶かしていく。
今まで必死に見て見ぬふりをしてきた、熱く、どろりとした感情が、堰を切ったように溢れ出しそうになる。若井の腕の中で、元貴はただ、小さく身じろいだ。
若井の顔が、元貴の首筋に埋められる。熱い吐息が肌にかかり、びくりと身体が震えた。
「元貴…」
掠れた声で名前を呼ばれる。それは、ただの呼びかけではなかった。
甘く、飢えた響きを伴ったその声に、元貴は抵抗を放棄した。ゆっくりと振り返ると、至近距離に、熱に潤んだ若井の瞳があった。
もう、後戻りはできない。二人の唇が重なるまで、一秒もかからなかった。
唇から伝わるのは、慰めなどではなかった。渇いた喉を潤す泉を求めるような、切実で、貪欲なキス。若井の舌がこじ開けるように侵入し、元貴の思考を掻き回していく。
ソファになだれ込むように倒され、若井の大きな身体が覆いかぶさってきた。
「ん…ふ、ぁ…わか、い…」
「かわいい」
若井の指が、まるで新しい楽器に触れるかのように、元貴の身体という名の譜面をなぞっていく。
服の上からでもわかる指先の熱が、肌を焼くようだった。ボタンが一つ、また一つと外され、露わになった白い肌に、若井は感嘆のため息を漏らす。
彼の唇が、首筋から鎖骨へと滑り、胸の突起を甘く食んだ。
「ひぅ…♡ん、ぁ…」
今まで感じたことのない直接的な刺激に、元貴の腰が小さく跳ねる。
若井は、まるで宝物を見つけた子供のように、執拗にそこを舌で転がした。
若井の手が、さらに下へと伸びていく。ズボンのベルトが外され、ファスナーが下ろされる音は、この密室においてやけに大きく響いた。
下着の上から、すでに熱を持ったそこを、若井の手がそっと包み込む。
「んぐぅ…っ!」
「元貴も、感じてるんだろ…?」
もう、嘘はつけなかった。若井の指が下着の中に滑り込み、熱の芯を直接握る。
その瞬間、元貴の理性の糸は、あっけなく焼き切れた。
若井は、元貴のものに手を伸ばし、白濁した液体が指先に広げられ、それが熱を持った蕾へと塗り込まれた時、元貴は羞恥に顔を歪めた。
「大丈夫…怖くないから…」
若井の指が、ゆっくりと、内側へと侵入してくる。未知の感覚に、身体が強張る。
「んんっ…!い、た…っ」
「ごめん…力、抜いて…」
若井は動きを止め、元貴の背中を優しく撫でる。
その慈しむような愛撫に、少しずつ身体の力が抜けていく。
指が一本、そして二本と増やされ、内壁を優しく広げていく。
慣れない感覚に戸惑いながらも、次第に熱い疼きが身体の芯を支配し始めていた。
指が引き抜かれ、代わりに、さらに硬く、熱いものが入り口に宛がわれる。
「元貴…入れるぞ」
元貴は、涙の滲む瞳でこくりと頷いた。ゆっくりと、確かめるように、若井のすべてが受け入れられていく。
異物感と、それを上回る、魂が満たされるような感覚。完全に一つになった時、二人の間には、安堵のため息だけが流れた。
ゆっくりとした律動が始まる。最初は、ただただ魂の共鳴を確かめ合うように。
しかし、元貴の身体が快感に慣れ、甘い声を漏らし始めると、若井の動きは次第に熱を帯びていった。
「んっ…ふ、ぁ…あ、ぁっ…!」
「元貴…きもち、いいか…?」
「ん、きもち…いぃ…っ!」
若井が、元貴のいちばん感じやすい場所を、的確に、深く突き上げる。そのたびに、元貴の身体は大きくしなり、甲高い声が漏れた。もう、羞恥心などなかった。ただ、若井がくれる快感に溺れていたかった。
「はぁ…っ、元貴、締めるな…っ!」
「ん、んぅう…!だ、って…っ」
視界が白く点滅し始める。快感の波が、もうすぐそこまで来ている。若井も、限界が近いのか、呼吸が荒くなり、動きが激しくなっていた。その、頂点が見えた瞬間。
元貴は、潤みきった瞳で、目の前の男を、若井滉斗を、はっきりと捉えた。いつも隣にいた親友の顔が、今は欲望と愛情に歪んでいる。その顔を見て、心の奥底から、ずっと呼びたかった名前が、零れ落ちた。
「ひろとぉ…っ」
その一言が、引き金だった。若井の動きが最高潮に達し、熱い奔流が、元貴の奥深くに注ぎ込まれる。同時に、元貴の身体も、今までで一番大きな痙攣と共に、白い飛沫をシーツに散らした。
「はぁ”っ♡」
「っ、!」
二人の絶頂が重なり、部屋には荒い息遣いだけが響き渡る。降り続いていた雨は、いつの間にか、その音を潜めていた。若井は、汗だくのまま元貴の上に倒れ込み、その首筋に顔を埋める。
「…好きだ、元貴」
掠れた声で告げられた言葉に、元貴はただ、彼の広い背中に、そっと腕を回した。言葉はいらなかった。新しい旋律は、もう、この腕の中で鳴り響いていたのだから。