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俺は昼食を済ますと身なりを整えツーハイム邸を出た。
貴族街の中を馬車に揺られながら王城をめざす。
目の前の座席ではメアリーがニコニコ顔でシロをもふっている。
メアリーは王族だし、シロはフェンリルで王宮から特別許可を得ているので連れていっても誰からも咎められない。
(そういえば王城も久しぶりだな~)
おばば様は元気だろうか?
チャトは大人しくしているだろうか?
メアリーのことを気にかけてくれたマリアベルにはお礼を言っておかないとな。
と、いろいろ考えている内に王宮の玄関口へ到着した。
入口前には4人の衛兵がプレートアーマーを着こみ、長柄のハルバートを装備して整列している。
その横には案内係として、文官らしきおやじと綺麗なメイドさんが並んでいた。
馬車を降りた俺はメアリーを腕抱きにしたまま、
「ゲン・ツーハイムである。宰相閣下に呼ばれている。案内をお願いしたい」
そう言って懐から呼出状を出した。
程なくして宰相の執務室へ通され、宰相本人より話を伺うことができた。
……やっぱり。
叙爵の折に聞かされていた話だな。
王国南部を分断するように聳えるオーレン山脈。
その裏手の山あいに ダンジョン・デレク と新しく作った迷宮都市がある。
まあ、ご存知のようにアランさんと俺が協力して作り上げた町だな。
『代官としてデレクの町に赴任しろ』と、まぁそんな内容だった。
その場で命令書と支度金を受け取って宰相の執務室を退室した。
さて今日の用事は終わったし、マリアベルに会いに行くとするか。
アポイントを取ってみるが……、今は王宮殿には居ないということである。
俺は馴染みのメイドさんを見つけると、ドーナツの入った包みをこっそり渡しながらコショコショコショ。
なーるほど、おばば様の離れに行っているらしい。
それならばということで、俺たちもそちらへ向かうことにした。
おばば様の住まう離宮を訪ねると、すぐさま応接間へと通される。
中ではおばば様とマリアベルが楽しそうにお茶を飲んでいた。
「おや、いらっしゃい。あんたもこっちに来てお座り。それで例の物を出しておくれでないかい。白いふわふわしたヤツ」
白いふわふわとは蒸しパンのことである。
来たそうそうコレかい!
だけど、そう悪い気分でもない。
こんなやり取りでも実に楽しいのだ。
「マリア、度々アラン邸に来てくれていたんだって? 気を使ってもらってありがとう」
「べつに何てことはないわよ」
「メアリーにいらない事まで教えてくれたみたいだしな」
「あら、何のことかしら?」
俺が人差し指で自分の頬をトントンすると、
「フフフッ、あんなのあいさつ程度じゃない」
「勘弁してくれよ~」
そう言いながらフワフワの蒸しパンをインベントリーから出し、みんなに配っていく。
もちろんシロとチャトの分もである。
そしてカイル (迷宮都市) での話なんかを交えながら午後のひとときを楽しく過ごした。
そんな中マリアベルが、
「これからますます寒くなるのよね~。部屋の暖炉だけで大丈夫かしら。わたし寒いのは苦手なのよぉ」
「なーに言ってんだマリア、結界魔法があるじゃないか。手ぇ貸してみ!」
俺はマリアベルの手を握ると結界のイメージを流してやった。
「えっ、嘘でしょ。こんなのでいいの?」
驚いているマリアベルに大きく頷いてやった。
「ほらほらお二人さん」
おばば様が俺の横を指さしている。
――おわぁ!
悲し気に沈んだメアリーの目を見て、握っていたマリアベルの手を弾かれるように振りほどいてしまった。
メアリーは今6歳。まだ多感な時期というわけではないだろう。
これはあれか、他の子犬と遊んでいたらクゥンクゥンと寂し気に寄ってくる、
”子犬の習性” なのかな。
その後は馬車を降りるまでメアリーと手を繋いで帰った。
………………
そして次の日の朝。
ひさびさにみんなでデレクの町を散歩している。
そして教会の前に差し掛かると、
――ひしっ!
デジャヴである。
今回は間違いなく初号機 (シスターマヤ) であった。
一緒にまわっていた子供たちもビックリしている。
「やっと会えました! もう放しませんよ!」
男女の意味で言っていることではないと分かっちゃいるけど、放してくれないと困るなぁ。
でも、何でここに居るんだ? この町の教会に来てくれたのだろうか?
立ち話もなんなので、みんなで教会に入って話を聞いてみることにした。
あのまま外にいて変な噂が広がっても嫌だしね……。
「はい、あれからモンソロ教会の司祭様に事情をお伝えしたところ、『すでに教会が建っているのならば』と教会本部に話を通してもらいました。すると教会本部の方もいろいろ動かれていたようですが。その……、こちらは山の中ということもあってか希望者が集まらなくて。結局、話をもっていった私がここの教会を任されてしまいましたぁ」
ナハハという感じで軽く話しているシスターマヤ。
「そうだったのか。それはなにか悪いことをしたな……」
「いえいえ、どうせ一人身ですしお気遣いなく。それより、いざ来てみれば教会はこんなに立派だし、町も綺麗で住みやすそうです」
「そう言ってもらえるとありがたい。実はこれから俺がこの町を預かることになったんだよ。徐々に発展させていくつもりだから、困り事や要望があったら何でも言ってくれ」
そのように説明すると、シスターマヤは歓喜のあまり両手を組んで祈りを捧げていた。
そんなシスターマヤは昨日からこちらに来ていたようだ。転移陣にも初めて乗ったと興奮気味に話していた。
俺は教会の内部と裏にある孤児院を案内して、
「代官邸が出来るまでは何かあったらこれでメモなり手紙を送ってくれ」
そう言ってシスターマヤに教会のカギと転送ワッペンを渡しておいた。(地雷かも)
ようやく教会も動き出したか。
孤児院の方もすでに準備は終わっているし。これで何とかスラムの子供たちを救えるだろうか?
ただ、やるのであれば急がないとな。冬の寒さが本格化する前に……。
俺たちは王都ツーハイム邸に戻った。
今日から朝稽古も再開である。
久しぶりに猫姉弟とも手合わせをしてみたが腕は落ちていないようだった。
俺が居なくても二人で稽古をしていたのだろう。
「よし、お前たち二人はすぐに冒険者ギルドに行って冒険者登録をしてこい。まずはDランクを目指すぞ!」
「「…………」」
「にゃにゃにゃ、ちょっと待つニャン。ここはクビですかニャ? それはそのう……」
タマが口ごもる。
「えっ? いやいやそうじゃない。ここに務めたままでだぞ。逆に辞められたら俺が困るわ」
タマとトキにそれぞれ金貨を1枚ずつ渡した。
「ご主人様。冒険者ギルドの登録料はこんなにかかりませんが?」
「おう、残りは支度金だ自由に使っていいぞ。なるべくなら水筒とかバックパックとかダンジョン内で使う装備を少し整えてくれ。そして、この事は他の者には内緒だぞ」
「わかったニャ。半分は装備に使って残りは貯金するニャン」
「おう、それでいい。行くときはちゃんとシオンに許可をもらうんだぞ」
そう二人に言い渡し、俺は朝食を取りに屋敷へ入っていった。
先ほどの話をシオンに通しておく。
冒険者なら俺が居ない時でもデレクの町と王都を行き来できるからな。
まあ、ダンジョンに潜る必要があるけど、そう大した問題ではない。
邸 (うち) にとってはすごいメリットといえるだろう。
将来的には諜報活動を担う影の軍団を組織したいと考えている。
奴隷商の方もそろそろ当たっていきたいところだが……、
その辺の話は誰に聞いたらいいのだろう?
(久しぶりに猫商人を訪ねてみるとするか)
胡椒の商売がどうなっているかも気になるしな。
あ――っ! そう考えると外で串焼きが食べたくなったなぁ。
今日は寒いけど天気は良いし……。
久しぶりに繁華街へ行ってみるか!
――てなことで、
朝食のあと俺たちは王都の繁華街へ繰り出した。
馬車を降りたあと、俺とメアリーは手をつないで大通りを歩いていく。
まずは串焼き屋からだ。
朝食はしっかりと食べてきたが、肉は別腹なんだよなぁ俺たち。
どこが良いかと迷いながら歩いていると。
あれっ! 胡椒のおっちゃんだ。(未だに名前を知らない)
まだ屋台を引いてたんだ。
近くに寄っていくと、
「おう坊主か、この前はありがとなぁ。食っていくんだろう? 今日は俺のおごりだー」
おっちゃんは照れくさそうにニカニカしながら10本の串を焼き台の上に並べていた。
話を聞いてみると、
あの後しばらくして『胡椒について話を聞きたい』と王国より調査員が訪ねてきたという。
役人の割にはすごく丁寧な対応だったこともあり、知っていることは答えていたそうだ。
そして先方からのたっての希望により、胡椒の自生地を案内してきたという。
もちろん移動や宿泊にかかる費用と、休んでる間の営業補償を条件にだ。
………………
話は ”胡椒の権利” へと移っていき、
「こっちは串焼きの商売で使っているから、こいつが使えなくなると非常に困るんだが」
「それも契約に盛り込みますので、これまでどおり使って頂いてもOKです」
と、こんな感じでいろいろと話し合ったみたい。
それでも丸め込まれる事のないよう、最終的には猫商人をあいだに立てて契約したそうだ。
……これは後から聞いた話なのだが。
胡椒の権利を譲る契約では王国の方からクルーガー金貨2枚が契約金として支払われているのだ。
どうりで、おっちゃんの身なりがスッキリしているわけだ。
美味しい串焼きをみんなで頂き、また来るからと俺たちは串焼き屋を離れた。
次にやってきたのは猫人族商人のお店だ。
ここはナナ (モンソロの魔道具屋) に紹介されて以来、何度も利用している商店なのだ。
玄関を入って、
「店主に会いたい」と従業員に伝えて待っていると、
――タタタタタタッ!
どこに居たのか商品棚を縫うようにして猫商人が現れた。
「――――」
「ありがとう。本当にありがとう!」
出てきたかと思えばいきなり握手を求められ、涙ながらに感謝の言葉を告げられた。
どうしたのかと尋ねてみれば、
なんでも、胡椒の優先販売権が王国より与えられたのだという。
その販売権を取得してからというもの、
今までに取引のなかった貴族や大商人からも取引のオファーが舞い込んできているらしいのだ。
なるほどね、そりゃまた大変だよな。