テラーノベル
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赤桃/学パロ/捏造苗字
何が書きたいのかわからないので用途が合わないところがたくさんあります
同性愛者など、生きるに等しくない生き物である。
そんな言葉を突きつけられるかの様な現実に、おぞましい程寒気がして堪らない。その現実は近頃の現代社会やインターネットを通じ、日々加速している。最近ではインターネット上の同性愛者、偏愛思考をモチーフにしたネットミームが若者に触れ、偏った思考や差別主義が日常的に駆使されている。
その差別主義の標準を合わせられた先にいる俺も、その例外ではなかった。
夕暮れの日差しが差し込む長い渡り廊下の最中、少し離れた後方から耳を包んだ声に体が立ち込める。振り返れば、恋仲である“はず”の彼がいる。
「…ないくん、今日帰れる?」
こちらを見据える瞳は、不安や悲観に狩られた一色。それを纏う面持ちに、苦笑しながら残酷な返答を突き付ける。
「…ごめん」
一言、断りを入れて足早に渡り廊下を駆け抜けた。一度振り返ってしまえば、心が揺らぐのは目に見えていたからあでろう。だからこその決断を、悔いることをせずとも帰路に着いた。
後日、昼休み。みなが机を連結させ昼食を取り笑い合う教室で、己も友人と机を並べて昼を共にしていた。
「うお、見ろよこれ笑」
大層、行儀の悪い食事に苦笑しながらも、彼から差し出されたスマートフォンの画面を拝見する。画面上には某動画投稿サイト。男性同士が恋仲になり1年を経たという動画が連なっていた。
「男同士はさすがに野獣だろ笑」
「わかる、ゲイはちょっとな笑、女同士ならまだしも」
笑い合う友人らに紛れ『長続きやな』なんて少し訛った返答を連ねておく。この悪ノリに乗ってしまうことにも気が引ければ、無視を貫いてしまえば感じの悪い野郎になってしまう。だからと言って、返事したことは大変な過ちであることに気付くのは遅かったであう。
「庇うとかないこもしかしてーー!?」
「ゲ乾やんけ!!」
下品に笑う彼らの冗談に、密かに背筋が凍りついた。事実であるこの言葉に震え、表情が引き攣らぬよう必死に口角を上げた。
「なわけないな笑」
「“普通”に女子が好きだから笑」
そう言って弁当を半ば掻き込みながら食べ進めていると、ちょうど完食し終えたところで他クラスの友人に名前を呼ばれた。それはいつもの遊びの合図で、体育館解放のためバスケだのなんだので遊ぶつもりなのであろう。
「ごめん、行ってくるわ」
「おー、楽しんで」
「おまたせ」
己を呼んだふたりの元へ駆け寄り、そのまま体育館へと歩みを運ぶ。その最中、思考を巡らせ考え込んでいた。
実際、俺は同性愛者であり、人様に浴びせていいものでは無いと自負している。それは恋仲である“りうら”も同様に考え付いており、彼らや友人にも打ち明けていない秘密事である。ただ、そんな恋仲であるりうらと、昨日の夕方を除けば、1ヶ月ほど会話を交えていない事になる。
俺が連絡を拒み、会話も拒み、約束事も全て設ける前に拒絶していた。これは己が出した最適解で、このまま流れに身を任せ別れを遂げて、お互いがこの先の人生を歩んでいくための命綱であろうと自負している。
これらは全て、“周囲に同性愛者である”ボロが出始めているからである。りうらの隠す術は完璧であろうが、俺はそうもいかないのが難点。実際、先程の会話でも少々勘づかれていたし、今共に歩いている彼らも同様だ。
「…あれ、りうらたちやない?」
背筋が凍りつく思いで視線のみを動かすと、その先にはりうらとその友人ふたりがいた。その3人の中ではりうらとしか面識が無く、他のふたりは己が部活を退部してから入部してきた後輩らしい。その後輩らとりうらと友人ふたりは知り合いで、言わば、ただ俺と後輩ふたりが気まずい図であること。
「お前らもバスケか?」
「そうやで、悠くんもか」
「なら一緒にやろうよっ」
「お前らボロ負けでつまらんやろ」
彼ら4人で盛り上がっている横で、巻き込まれぬことが得だと言わんばりに腕を組んでそっぽを向いた。ふたりと気まずいのは尚更、今いちばん顔を合わせたくないのはりうらであった。
そんな己の配慮も知らずとも、なにも言わずに俺の隣に立ち止まるりうら。話しかけるのも堪らないと黙り込んでいると、りうらが重たい口を開いた。
「まだバスケ上手なの?」
「…まあ」
案外当たり障りのない質問に驚きつつも、無愛想な返事をひとつ呟いた。
中学生かと間を指したくなるほどハツラツとスポーツを楽しむ彼らを、己は少し離れた台の上に腰を下ろして見学していた。気まずいということもあるが、今はあまり楽しむ気にはなれなかった。
「っあの、乾先輩ですよね…」
ふと声がする方に表を向けると、後輩であろう女子の5人組ほどの集団のうちひとりに声をかけられた。
「そうだけど…」
「い、インスタ繋いでもらえませんか…っ」
彼女の手に視線を落とすと、固く握りしめられた手に薄く手汗が滲んでいた。緊張しているのか、そんなことかとひとつ返事で承諾すると、後ろの集団が甲高い歓声を上げていた。
ポケットからスマホを抜き出した刹那、目の前には彼女ではなく、少し高い背丈の男子の制服が映っていた。視線をあげると、彼女の方を向く赤髪の姿。
「ちょ!りうら邪魔だって!!」
「あかり、先輩インスタやってないんだよね」
「え、あ、そうなの…?」
「はじめたらまた教えるから、ごめんね」
彼女を慰めながら帰っていく集団の後ろ姿を、ただ呆然と眺めた。
「ないくん…ナンパされちゃ」
心配してくれていたのであろうりうらの声を遮るかのように、蚊の鳴くような声を絞り出した。
「…なにしてるかわかってる?」
「え?」
「…俺らデキてるか疑われてんだよ」
「…バレたら人生やってけない、なのにあんな女子に楯突いたらどうなると思う?」
「変な噂流れて終わりだよ、なにしてんだよ」
「ごめん…そんなつもりなくて」
この言葉を理解しようとしない彼に差し伸べられた手を振り払い、周囲に聞こえない程に少し声を強めて呟いた。
「名前で呼ぶくらい仲良いんだから、女子と恋愛して真っ当に生きて」
「…いままでありがとう」
自室のベットの上で、ただひとり虚ろに空を見つめた。
とうとう、別れを告げたのだと、そう実感すると悲しみも喜びも感じなかった。ただそれだけの恋では無かったはずなのに、今は涙ひとつも零れなかった。
少し自暴自棄になっていた部分もあったのだろう。バレてしまうことへのストレスと、それを隠すことへの負荷。将来を考える時期に煮詰めすぎてしまっていた瞬間に、己を守ろうとしていたのにも関わらず、女子と仲睦まじくしてやがると妬いてしまったのが、決め手だったのだろう。
当たり前であるが、りうらからの連絡は無い。引き留めて欲しかった訳でもないが、少し、いや、大分寂しい気持ちに苛まれてしまう。ただ、これが正しかったのだと飲み込むしかない。
飲み込むべき。そう理解しているはずの手は、滅多に開かないインスタグラムへと伸びていた。彼のプロフィール欄を開く用途の中、次のデートはいずれにするかと予定を立てている最中のやり取りが目に映る。言語化できぬ何かと固唾を呑んで、アイコンに纏う緑の縁を軽くタップする。
画面の先には、本日の昼休みに遊んでいたメンツが並んでいた。俺を除いた5人。
(まぁ気まずいしな…)
まさかのハブりの対象なのかと驚いたが、ゲームにも参加せず、昼休みの途中で抜け出し、一定数の関わりのないメンツがいる俺には関係の無い事だと割り切った。
プロフィール画面に戻ると、友人であるまろのサブアカウントの親しい友達限定のストーリーが載せられていた。その画面をタップすると、長尺とまでは行かぬほどの動画が表示される。
『なんとモテ男のりうらくん、彼女に振られました〜〜〜〜っ!!!』
白髪の後輩が面白可笑しく囃し立てる声からスタートした動画。画面が移り変わると、机に突っ伏して表を隠すりうらがいた。
『やめてくださいぃ…』
『これから非リアの仲間入りやな笑』
『未練タラタラりうらくん!元彼女に一言お願いしまっ』
まろが声を大にして言いかけた刹那、勢いよく表を上げたりうらは顔を真っ赤にしながらスマホを奪い取ろうと手を伸ばす。
『ぎゃーーーっ!!笑笑りうちゃん覚醒した!!爆笑』
そこからは騒ぎに騒いだ音声と荒ぶる画面が貫かれた。
「はぁ……?」
喜びでも驚きでも悲しみでもなく、己の心には怒りの感情が蓄積し、今にも溢れ出そうなまでに沸騰した。
別れを囃し立てられたこと、りうらが本気で辞めさせようとしなかったこと、それをインターネットに載せてしまう友人らの愚かさに大層呆れた。
りうらの元恋人が俺だと言うことを知らないことは致し方ないが、少し距離を置いてやろうかと躊躇するほどに燃え滾っていた。
そちらがその気なら。と、そう怒り狂った俺は、体育館で出会った“あかり”ちゃんのアカウントを探した。
「…あった……」
1番上に表示された彼女のプロフィールの青いボタンに触れ、リクエストを送った。
恋人に振られてから、約2週間が経った。
こちらから連絡を取ろうとする訳にもいかず、あちらから連絡が来る訳もなく、音沙汰はゼロか以下に等しかった。
おかげでクラスや友人には不機嫌を振りまくわけで、何かとクラスの士気が下がってきていることを身に染みて感じ取れた。
友人らに気を遣わせ、授業も静かで味気のないことに、申し訳なさや罪悪感に苛まれていた頃だった。
「私さいきんないこ先輩といい感じで…」
「うそ!?あかりマジで!?!?」
「インスタも繋いでね、LINEまでゲットしちゃって」
「今度いっしょに帰れたらな〜って…」
目の前が漆黒に包まれるほどに仰天した。その驚きを、決して表に出さず固唾を呑んで聞き耳を立てた。
詳細はこう。
りうらとないくんが破局した当日の夜、ないくんからフォローリクエストが届いた。そのリクエストを承諾し、あかりからDMを送った。遅くとも返信が来て、思いのほか会話が弾み、3日に1回のペースで長々と連絡を取り合っているという。ただ、一定の時間を超えると通知が届かなくなってしまうことを口実に、個人のLINEを交換するまでに至ったらしい。
だが、可笑しい。どうしても納得がいかない。
ないくんはゲイだ。それは大分の純ゲイ。だからこそりうらとデキた訳だし、すぐ異性に切り替えるなんて不可能に等しいことは、同じ性的思考の俺が何よりも知っている。
なら遊んでいるんだ。あかりは遊ばれているだけで、出来心で連絡を取りあっているだけで…
そう思考を巡らせ、己を安堵させるべく言い聞かせていただけなのに、その思考の至は怒りに近い嫉妬へと変貌した。
「り、りうちゃん?」
「顔やばいで、早退するか?」
「…いや、いい」
この嫉妬を今にでもぶつけて、直接会って真相を確かめてやろう。
そう滾ってしまえば止まることを知らず、己の机を叩いて立ち上がっては教室を飛び出した。
「ちょ、授業始まるよ!!」
「保健室って言っといて!!」
始業まで3分ほど余るギリギリの時間で3年生のフロアに届き、ないくんのいる教室まで走ろうとした途端、廊下の角から現れた人影と身体がぶつかりあった。
「あ、ごめ」
そう述べかけて止まった声は、りうらが今いちばん聞きたくて堪らなかったお目当てのものだった。
こちらを見て硬直するないくんの腕を掴み、隔離された別室のエンカレッジルームへと駆けた。
「ちょっとッ」
「離せって……!!!」
別れたはずの元恋人と角でバッタリと鉢合わせして、開いたエンカレッジルームまで連れてこられた。本来ならば別室登校生徒が利用する場所であるにもかかわらず、部屋の中にぶち込まれては鍵をかけられた。
状況を理解できぬまま、別れを告げた気まずさと某ストーリーについての怒りで、いても立ってもおれずとも視線を泳がせた。
お互いに口割らない性で、沈黙の中に時計の秒針が動く音だけが耳を包み込む。そんな静寂を壊すかのように、先に重たい口を開いたのはりうらだった。
「…なんで振ったの」
「……っもう関係ないだろ」
「そもそも何だよ、もう授業始まってるし…早く戻るよ」
あくまで他人だと、もう関係がない、いち先輩後輩だと知らしめるかのような態度を取るも、案の定それがりうらには不服だった様子。
「ないくん」
「はなせって…っ」
再び掴まれた腕は背にある壁に押し付けられ、りうらの怒りに満ちた顔が間近にある。嫉妬や不満が入り交じった類のもので、交際中に幾度も目の当たりにしたものだ。
「もうりうらのこと嫌いなの?」
「はぁ?なんだよ今更…」
「答えて」
隙あらば噛み付いてくるりうらに根負けしつつ、ストーリーでおもちゃにされた怒りを込め、威勢よく挑発してみることにした。
「女子と恋愛して真っ当に生きろって言ってんだよ、ちょっとくらい察しろよ」
「ほら、嫌いって言わないじゃん」
更に近づいてくる表に仰け反りながら、こちらも噛み付くように反論する。
「だから何だよ、もういいだろ受験かかってんだよッ」
その手を振りほどこうとするも、更に強い力を込められ抵抗する術を無くす。
そこでやっと己の無力さと状況を理解した。
逃がすまいというりうらの威勢に恐縮し、やや俯きながら視線を逸らした。
「りうらの心配?振られた時もそうだった」
「だってこの関係バレたら……ッ」
「俺の心配なんかすんなって言ってる」
「振るくらいなら“もう好きじゃない”、“顔も見たくない”って言って」
りうらの感情が詰められ切った真剣な眼に、薄めた己の瞼から雫が零れた。その雫は頬を伝い、顎まで届き、地面に垂れて弾ける。
「わかんねぇよ…」
「別れて正解かも悲しいのかもわかんない」
「でも…嫌いになれないんだよ」
視界が滲み、りうらの面持ちは知り得ない。が、俺の頬に宛てがわれた、大きな手の暖かい感触が伝い、更に涙を誘発した。
「…りうらはずっと大好きだった」
「女子と連絡とってるだけで気が狂いそうだった」
「男同士の恋が当たり前になるまで、ないくんと一緒にいたかった」
その言葉を聞いて、心のモヤモヤが晴れた気がした。曇りがかった空が、途端に快晴に包まれるような、そんなものだった。
ただ、俺の中に、この瞬間から関係を修復し、やり直すという選択肢は無かった。
今を生きる若者の世界でも、性差別や人種差別、部落差別が無くならないように、この世が甘くないことをなによりも実感していたから。
そしてなにより、ひと時の感情でりうらを見放し、拒絶し続けた己の生き恥と生半可な決意で、りうらと運命を共にしてはいけない。と、考えてしまう。
だからこそ、この場でりうらには何人たりとも触れずに、己の口からひとつ提案を設けた。
「…またお前のことちゃんと好きになる日まで」
「その日まで待っててほしい」
「うん、ずっと待つよ」
「大好きだから」
コメント
2件
やばい…好きすぎる……😍 今現在の世間上での同性愛者への思いとかが詰めこまれてるような感じがする…!!😖😖 同性愛者の関係って難しいですよね… だからこそめっちゃ美味しかったです感謝感謝