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あの黒い空間で聞こえてきた声によるとどうやら俺は新たな世界とやらにとばされてしまったらしい。周りを眺めながら砂浜を探索する。特に変わった所はないけど……気になったのは人気が全くないこと。声が聞こえないどころか鍛冶屋の鉄を叩く音、客引きの喧騒……何も聞こえてこない。 というかそもそもこの近くに人はいるのか?いや……まさかここには人がいないとか……それだけはまずい。
「おーい!だーれかー!聞こえるなら返事してくれ〜‼︎」
返事は返ってこない。穏やかな波の音だけが聞こえてくる。
「ダメだ……まじで遭難すんのってこんな感じなんだな」
世界で一人だけってのは本で見る分にはいいけど実際にそうなったら地獄だ。
「はぁー」
ついため息が出る。
「おーい!」
声。後ろからの声にいち早く反応する。
「ひとー‼︎人だーー!」
よかった!まじかよ幻覚じゃないよな⁉︎
「ちょっと……ちょっと止まって〜‼︎」
声をかけてくれた人の声で足を止める。いやよく考えたら知らない奴がいきなり走って近づいてきたら困るか。
「わりぃ、いきなり走ってきて悪かったな」 「いえ。それよりも……この島の住民じゃない……ですよね?」
近づいてみて分かったけど女の子か?肌は焼けてるけど、髪長いし……多分そうだよな?
「ああ、えっと……俺、流された。そう!この島に流れ着いちまってさ!んで、今までの記憶が無くなっちゃってさ!それで……あの」
やばい……言い訳が思いつかない。この世界のことなんめ何も知らないし、怪しまれて距離を取られたら終わりだ。
「それは不幸なことに……でも命があってよかったです」
ほっ、怪しまれてはないな……
「あの……ここってどこなんだ……じゃなくてどこなんすかね?」
「ここはミカケ島と言われますけど、特別名前があるわけでは無いんです」
ミカケ島……ってことはここ島なのか。この世界は舟とかあんのかな?
「是非村に来てください!もてなしますよ」
「いいのか⁉︎」
「ええ、記憶を無くしてしまうなんてよっぽどのことがあったんでしょうし」
よし、とりあえず飯は食えそうだな。腹減って死にそうだったんだよ。 腹を空かしながら村への道を案内されてる間、色々と話を聞いた。俺を見つけた女の子はサニという名前らしく、俺を見つけた時は廃材を集めるために砂浜に来た時だったそうだ。 そして俺以外にも漂流者がいたらしく、昨日村へ案内したそうだ。2日連続で漂流者が来るのは珍しいようで、十年に一回あるかないかぐらいの頻度だそうだ。 それにしてもにしても俺は運がない。 変な化け物に飲み込まれたと思えば、俺を子供扱いするやつに異世界に飛ばされるわ散々だ。というか未だに異世界に飛ばされたという実感もない。こうなったら一日でも早く元の世界に戻ってやる。俺は闘士として観客達を満足させて、帝国最強の雄の名を全世界に響かせるんだ。
「着いたよ。ここが私の住んでる村」
森の中を進み、サニの指差す先には確かに集落らしき場所が見えてくる。集落とその周りは木が伐採され、日が良く入るようになっている。
「こっち、来て」
サニが俺の手を引っ張る。
「ど、どうしたんだよ!?何処行くってんだ?」
「村長のとこ!挨拶に行かないと」
サニに手を引かれて村長の家に着く。
「村長様!」
サニの声からしばらくして長老が家らしき場所から出てくる。
「おお、サニか。隣の男はどうしたんだい」
「この人漂流者なの。可哀想だから村に連れてきた」
「おお、漂流者とな」
「しかも記憶もないみたいなの」
「記憶もない。ほー」
……何か思ってたほど驚いてないな。てか空気感緩いなおい。孤島の長つったらもっと野生的な感じを想像してたけど、ただの平和ボケした爺さんだそ見た感じ。
「まあ事情がどうあれこの島に流れ着いたのはミカケ様の奇跡。昨日来た者達と共にもてなしをしよう」
爺さんはそれだけ言って家の中へ戻っていく。 「了解!村の人達にも言っておく!」
サニは爺さんが家の中に入ったのを待って俺の方を向く。
「あれが村長さん。優しい人だよ」
「ああ」
空返事を返しながら辺りを見渡す。 俺のいた世界、ギルマン帝国の都心部とは比べものにならないほどの粗末な家、小さな集落。何というか……自然と共生した感じがする。 キョロキョロしていると人が俺の元に集まってくる。
「ありゃー、にいちゃん漂流してきたんかい?」
「あら、男の漂流者よ!話しかけてみましょうよ!」
「若いにいちゃんも災難だったなー、こんな何もねえ島に漂流しちまって」
「あ……どうもっす」
……文明レベルは高くないけど、帝国民達よりこの島の人はなんというか……あったかい人だ。イメージでいうと穏やかな日差しそのものだ。
「皆のもの、昨日の漂流者を呼びなさい」
村長が家から出て、村人達に呼びかける。
「はいよー、男どもはそこにいな」
女の村人達がある家へ向かう。中へ呼びかけると人影が現れる。中から二人の女が姿を現す。二人ともこの村人達とは服装が違う。明らかに彩色から服の生地まで違う。この島以外にも異なる文化があるってわけか。女二人は村人と俺が集まる場所へ歩いてくる。
「村長さん、お話とはなんでしょうか……?」
女の一人がチラッと俺の方を見る。黒くて長い髪、俺の世界では見たことのない服。
「宴の準備がしたいんでな。砂浜の方で時間を潰してて欲しいんじゃが……不満かの?」
「いや、そんなもてなしなんて……」
「遠慮しなくていいのよ!漂流者にはみんなしてるんだから!」
おばさんに言われて、女は頷く。俺とその女二人は村人に連れられ、砂浜へ向かった。