テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
3,995
レッスン終わり、珍しく他のメンバーが先に帰った日だった。
楽屋には俺と翔太だけが残っている。
静かな部屋の中、俺はソファに寝転がったままスマホをいじっていた。
「ねむ……」
「寝んなよ、帰るぞ」
「むり、充電切れた」
「人間の?」
「そう」
くだらない返事に、渡辺が小さく笑う。
荷物をまとめ終わっても、佐久間はまだ動かない。
そのままぼんやり天井を見ながら呟く。
「……ねぇ翔太」
「んー?」
「デビューできるかな」
一瞬だけ空気が止まる。
翔太は黙る。
今はまだ未来が遠い。
頑張っても、報われる保証なんてどこにもない。
不安じゃないわけがなかった。
でも翔太は、俺の方を見ると当たり前みたいに言う。
「できるだろ」
「雑!」
「いや、だってお前いるし」
その返事に、俺は目を丸くする。
「なにそれ」
「そのまんま」
翔太は近くまで来ると、ソファの背にもたれた。
距離が近い。
「翔太ってたまにそういうことサラッと言うよね」
「何が」
「ずるい」
「知らね」
そう言いながら、翔太は俺の汗で湿った前髪をぐしゃっと崩す。
俺文句を言おうと顔を上げた瞬間。
軽く唇が触れた。
一瞬だった。
あまりにも自然にされて、俺は数秒固まる。
翔太は何事もなかったみたいに立ち上がる。
「帰るぞ」
「……えっ、ちょ、待って」
「なに」
「いま普通にしたじゃん!」
「誰もいねぇし」
「そういう問題!?」
顔を真っ赤にして騒ぐ俺を見て、翔太は少しだけ笑う。
その笑い方が好きだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!