[若井の日常と猫の瞳が捉える世界]
涼架side
若井は、僕が思っていた通りの人間だった。
怪我が治った後も、僕は公園の片隅から、彼の姿を探すようになった。
毎日、決まった時間に若井が通る通学路。
ギターケースを背負った彼の足取りは、時折軽やかめ、時折重たそうだった。
特に印象に残っているのは、彼が一人でいる時だった。
放課後の教室で、窓の外を眺めながら、若井はギターの練習をしていることがあった。
指が弦を弾くたびに、僕の体には不思議な音が響く。
それは、雨の日の寂しい音にも、夏の空のような明るい音にも聞こえた。
若井は、誰に聞かせるわけでもなく、ただひたすらに自分の音を奏でていた。
その横顔は、真剣で、どこか孤独のようにも見えた。
僕は、彼が抱えている寂しさや音楽への情熱をエメラルドグリーンの瞳を通して感じ取っていた。
若井は、周りの人間から慕われていた。
同い年くらいの男子から『若井、今日の課題やった?』と声をかけられれば、『ああ、ちょっと待って』とペンを走らせる。
女子から『ねぇ、この曲知ってる?』とスマホを差し出されれば、少しだけ戸惑いながらも、楽しそうに話している。
僕は、そんな彼の姿を見て嬉しくなったり、
ほんの少しだけ胸がチクリと痛んだりした。
ある日、若井が友人と楽しそうに話しながら、パンを食べている時のことだった。
若井の友人が、ふとパンくずを少しだけ地面ににこぼしてしまった。
友人は気づかずそのまま歩いていくが、若井は
わざわざ立ち止まり、そのパンくずを拾い上げた。
**「地面も喜んでないもんな」**と呟きながら、 若井はパンくずを茂みに置いてった。
それは、道端の虫や鳥たちへの小さな気遣いだった。
僕は、そんな彼の優しさを間近で見て、胸の奥が温かくなるのを感じた。
僕は、人間になりたいと強く願うようになった
彼の音楽を一番近くで聴きたい。
彼が落ち込んでいるときに、そっとそばにいて励ましてあげたい。
彼が誰にも見せない孤独な表情を、そっと笑顔に変えてあげたい。
公園の片隅で、若井が残していったパンくずを頬張りながら、僕は青いバンダナを巻いてくれた彼の優しい手を思い出した。
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[魔法の夜]
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コメント
1件
若井優しいなぁ…!涼ちゃんついに人間化!?