テラーノベル
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蜂蜜喜奈子 ハチミツキナコ
ゆな_。
すっかり日が短くなった11月の放課後。
部活の合間、自動販売機の横で暖を取っていた角名倫太郎は、相変わらず冷え切った自分の指先を眺めていた。
「倫太郎くん、また手が冷たくなってますね」
おっとりとした声と共に現れたのは、マフラーに顔を埋めた寧々だった。彼女は角名の隣に並ぶと、迷うことなくその冷たい右手を自分の両手で包み込んだ。
「……っ、何、急に」
「だって、霜焼けになっちゃいそうなんだもん。……ね、あったかいでしょ?」
寧々の手は、驚くほどポカポカしていた。
角名は少しだけ動揺しつつも、すぐにいつもの意地悪な笑みを浮かべる。
「……そんなに温めてほしいなら、もっと効率いい方法あるけど。寧々のポケットの中、これより温かいんじゃない?」
角名は冗談のつもりで、寧々のコートのポケットに視線を落とした。
恥ずかしがって手を離すか、「もうっ」と怒るのを期待して。
けれど、寧々は「名案ですね」とでも言うように目を輝かせた。
「いいですよ。はい、どうぞ」
彼女は自分の右ポケットをぐいっと広げ、角名の手を掴んだまま、自分の手と一緒にそこへ放り込んだ。
狭いポケットの中で、二人の手が密着する。
「…………」
「あ、本当にあったかい。ね、倫太郎くん」
「……ね、じゃない。……これ、傍から見たら完全に手繋いでるでしょ」
「え? からかってるのは倫太郎くんの方ですよ? ほら、こうすればもっと温かいし」
寧々はポケットの中で、角名の指の間に自分の指を絡ませた。
――恋人繋ぎ。
「……っ!?」
「ふふ、倫太郎くんの手、今ピクッてした」
「……うるさい。……寧々、わざとだろ」
「さあ、どうでしょう? ……あ、倫太郎くん、また耳が赤くなってる。スマホで撮らなくていいんですか?」
寧々が空いている方の手でスマホを構える仕草をする。
角名は逆の手で自分の顔を覆い、逃げるようにポケットから手を抜こうとした。しかし、寧々はぎゅっと力を込めてそれを離さない。
「だめですよ。ちゃんと温まるまで、このまま」
おっとりとした口調に隠された、逃げ場のない独占欲。
角名はため息をつき、諦めたように寧々のポケットの中に居座ることにした。
(……からかわれてるのは、やっぱり俺だ……)
カメラロールを増やすはずの放課後は、またしても角名の敗北記録を更新していた。
第三回目 寧々win
放課後の無人の教室。寧々は忘れ物を取りに戻り、角名は「暇つぶし」と言ってそれに付いてきた。
オレンジ色の西日が差し込む教室内で、寧々が机の中に手を入れる。
「あ、あった。……あ、倫太郎くん、見て。綺麗なビー玉」
寧々が手のひらに乗せて見せたのは、掃除の時間にでも拾ったのか、夕日に透ける一粒の青いガラス玉だった。
「ふーん。……ねえ、寧々。それ、俺の目みたいって言いたいの?」
角名はニヤリと笑い、寧々を机と自分の腕の間に閉じ込めるようにして、顔を近づけた。
いつもの「からかい」の距離。寧々が「かっこいいから見られない」とでも言うのを待っていた。
しかし、今日の寧々は少し違った。
彼女はビー玉をそっと置き、両手で角名の頬を包み込んだのだ。
「……ううん。本物のほうが、もっと綺麗だよ」
寧々がおっとりとした、けれど熱を帯びた瞳で角名をじっと見つめる。
その真っ直ぐな言葉に、角名の心臓が跳ねた。
「…………っ」
角名は負けじと、彼女の腰に手を回し、さらに顔を近づける。鼻先が触れそうな距離。
「……そんなこと言って。寧々、今ドキドキしてるでしょ」
「……してるよ? 倫太郎くんも、顔赤い」
寧々の声が少しだけ震えている。彼女も、角名のあまりの近さに、いつも通りの「無自覚」ではいられなくなっていた。
お互いの心音が聞こえそうなほどの沈黙。
「………………」
「………………」
どちらかが一歩進めば、それはもう「からかい」ではなくなる。
その境界線に立たされた瞬間、二人は同時に、弾かれたように距離を取った。
「…………っ、……寧々、顔、真っ赤」
「倫太郎くんこそ。……声、裏返ってたよ」
角名はスマホを取り出す余裕もなく、ただ熱くなった顔を片手で覆う。
寧々もまた、スカートの裾をぎゅっと握り、俯いて耳まで赤くしていた。
「……今の、なし。」
「……うん。」
どちらもスマホに「勝利」を記録できないまま。
気まずくて甘い沈黙だけが、夕暮れの教室に溶けていった。
第四回目 draw
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