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死者のヴィーナス
僕は死者のヴィーナスがある洞窟の中へ足を踏み入れる。ザリ、、と砂の音が響く。中はカラリと乾燥しており、水っ気1つも無かった。目の前には死者のヴィーナスがたくさんあった。資料の通り、石像のようだ。その中に死体が入っているなんて到底思えない。
死者のヴィーナスはざっと見て100〜150体くらいあった。つまりそれだけのひとが死んで、死者のヴィーナスとなってここにあるわけだ。そう考えると僕は身震いがした。死者のヴィーナスの前で手を合わせずには居られなかった。
5~6人の研究者とともに死者のヴィーナスを観察する。着色はなく、全て白で覆われている。どのヴィーナスも草の冠があり、目をつぶっていて、祈りを捧げている。そして、どのヴィーナスも口がなかった。何かの決まりかと僕は思う。
洞窟内をウロウロして耳から落ちそうな黒眼鏡を支えながら死者のヴィーナス達を観察していると、思わず二度見してしまう程の美しいヴィーナスを見つけた。まるで眠っているかのようなロングヘアのヴィーナスだ。死者のヴィーナスはその死者をそっくりそのまま表したものだから大昔こんなに美しい人がいたという事だ。
僕は我を忘れてひたすらそのヴィーナスを見つめていた。スーナヴィーの古代造形研究者のハシュラムさんが僕を呼んでいることに気づかなかった。
「ハシュラムさんすみません、どうしたのですか?」
「ああ、観察中すまない、█████君、さっき古代語の解読が終わったんだ。」
「解読?」
「ああ、死者のヴィーナスにはどれも服の右下に文字が書かれてあるだろう、その文字は皆、そのヴィーナス、、、死者の名前と死亡例が書かれてある事が判明したんだ。█████君が観察していたそのヴィーナスは、、ふむふむ、、病気で死んだようだね。名前は掠れてて読めないが、こんな若いヴィーナスが老衰なんてありえないからな。ハッハッハ。」
そう笑うとハシュラムさんは去っていった。僕はもう一度そのヴィーナスをみる。彼女が病気で死んだのだと思うと胸の辺りがヂグッときた。そして死者のヴィーナス、、、目の前の美しいヴィーナスについてよりいっそう知りたくなった。