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「…春、どうしたの」
玄関で秋斗は珍しく目を丸くして状況が飲み込めずにいた。
弟が女の子を連れてきた。
しかもボロボロ。
そして弟の一言ときたら。
「拾った」
それだけ。
「…そんな、猫みたいな」
女の子の顔を覗くと、生気がない。
震えているようにも見える。
目を惹く肩まで伸びたショートヘアの赤髪に、どこかの制服のような全身黒い服。
「…とにかく、早く上がって温まって。ご飯も出来てるよ」
秋斗は2人に上がるよう促す。
少女はまるで人形のように、言われた通り動く。
「ワンワン!!」
リビングから出てきたイワンコが尻尾を振りたくって少女のそばに駆け寄る。
クンクン匂いを嗅ぎ「ワン!」と少女を見上げる。
「今日のご飯はカレーだよ」
玄関からも漂ってきていた美味しそうな匂いの正体。
少女はキッチンにあるそれをじっと見つめる。
「お腹空いてる?ご飯食べれる?」
秋斗は少女の顔を覗き込む。
こくり、と少女は頷いた。
初めて見せた意思表示に、秋斗は微笑む。
「じゃあまずは手を洗っておいで。春、連れてってあげて」
まだ何も説明無しな弟に声をかける。
弟、春翔は仏頂面のまま少女の首に巻かれた黒いマフラーを引っ張って洗面所に連れて行く。
「手、洗え」
ぶっきらぼうにそう言うと、少女は手を洗う。
その際マフラーが邪魔そうだったので春翔はマフラーを取ろうとする。
が、凄い勢いで身を引かれ拒まれる。
「…俺のマフラーなんだけど」
「………」
少女は何も言わずキッチンに戻っていった。
「ほら、ここ座って。一緒に食べよう」
キッチンでは秋斗が3人分のカレーをよそい、テーブルの上に並べていた。
久しぶりのまともな食事に、少女はカレーから目を離せない。
座れと言われた場所に座り、じっと見つめていた。
「春も座って、とりあえず食べよう。イワンコもおいで」
イワンコ用のご飯をテーブルの足元に置く。
嬉しそうにイワンコがブンブン尻尾を振る。
3人も席につく。
春翔と秋斗が手を合わせ「いただきます」と言い食べ始める。
それを見て少女も小さな声で「いただきます」と言いスプーンを手に取った。
「召し上がれ」と秋斗が微笑む。
少女はカレーをゆっくり口に運んだ。
「………」
一口食べた途端、バクバクとカレーをかき込み始めた。
その様子に秋斗は驚いた後嬉しそうに笑う。
「お腹空いてたんだね。まだまだあるから、ゆっくりお食べ」
「めちゃくちゃ食うなこいつ」
「春、ご飯食べたらお風呂沸かしてあげて。着替えも用意してあげないと」
その間もバクバクとカレーを食べる少女と、隣りで同じようにバクバクとフードを食べるイワンコ。
「春、この子名前は?」
「しらね」
まるで他人事のようにカレーを食べる春翔。
「…キミ、名前は?」
秋斗のその問いに、少女はカレーを食べる手を止めて黙り込む。
「…まぁ、また今度教えてもらおうかな。とりあえずご飯食べたらお風呂入っておいで。あったまるから」
秋斗はそれ以上聞かず、カレーを食べ始めた。
少女は思い詰めた顔をしていたが、再びカレーをかき込み始めた。