テラーノベル
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「じゃあ俺らは反対側だから。」
黒木君が手を振る。
「授業終わりにね。アーヤ。」
「う、うん」
まだちょっと、”アーヤ”に慣れない。
「立花」
上杉君が先に歩き出す。
「いくぞ。」
「あ、待って!」
私は急いで追いかけた。
後ろから若武の声が飛んでくる。
「上杉ー!!アーヤを頼んだぞ――!!」
「お前はとにかく声量を下げろ。」
「無茶いうな!!!」
うるさい。
でもちょっと笑ってしまった。
廊下を並んで歩く。
ほかの人の視線が痛い。
気まずい。
上杉君、資料室だと普通に話してたのに、黙ると三ツ谷って感じ。
頭良いオーラがすごい。
「……」
「……」
沈黙。
やばい、何か話さないと。
「あの」
「ん?」
「あ、ありがとう、ございます。」
「敬語。」
あ、反射で出た。
「あ……ありがと。」
「うん。」
会話終了。
短いな。
でも、上杉君っぽいから、いっか。
「立花。」
「え?」
「若武に慣れるの早いな。」
「えっ?」
急にそんなこと言われて固まる。
「そう、かな」
「普通もっと引く」
「たしかにうるさいけど……」
「そこじゃない」
上杉君は真顔だった。
「距離感」
「あー……」
たしかに若武って、 最初から距離近い。
でも嫌な感じはしないんだよなあ。
なんていうか。
大型犬みたい。
「……なんか」
「?」
「若武君って感じ、しないし」
言ったあと、 自分でちょっとびっくりした。
「……へえ」
上杉君が少しだけこっちを見る。
「じゃあ何」
「うーん。大型犬?」
「ふっ」
あ、笑った!
へえ、こんな感じで笑うんだ。
「そのうち呼び捨てし始めるな。」
今もそうだけどね。
言わないでおこうっと。
その時。
曲がり角の向こうから、 女子の話し声が聞こえた。
「だからさー、黒木君って――」
反射的に足が止まる。
すると。
上杉君が、 さりげなくわたしの前に立った。
「……上杉君?」
「そのまま歩け」
「え?」
「立花、顔覚えられてる可能性ある」
小声だった。
周りに聞こえないくらい。
なんか急に、 “護衛”って感じになる。
女子グループが近づいてくる。
「あ、上杉君」
「ほんとだ」
「やば」
「やっぱ、カッコいいよねえ」
ざわつく声。
でも。
「あれ、隣の子って……」
「もしかして、彼女?」
「いや、ない。イケてないじゃん」
一人がこっちを見た瞬間。
上杉君が少し前に出た。
猫アレルギー
111
158
まあ
68
かえ
311
「通る」
短く言う。
女子たちが自然に道を開けた。
すご。
権力というものを見た感じ。
そのまま歩きながら、 わたしは小さく聞く。
「……今の、助けてくれた?」
「別に」
耳が赤い。
ふふっ。照れ屋さんなんだ。
「ありがと」
「……」
否定しない。
すると。
「立花」
「なに?」
「若武には気をつけろ」
「えっ」
「調子乗ると止まらない」
「それはちょっとわかるかも」
思わず笑う。
だって若武、 ずっと全力なんだもん。
「でも」
わたしは少し考える。
「なんか、楽しい人だよね」
「……まあな」
「あと、空気変わる」
「変わる?」
「若武がいると、静かにならないっていうか」
資料室を思い出す。
若武が騒いで、 美門君が笑って、 小塚君が止めて、 黒木君がまとめて。
その横で、 上杉君が呆れてる。
変なの。
今日会ったばっかりなのに。
もうあの空気、 ちょっと落ち着く。
「立花」
「ん?」
「それ、多分若武が聞いたら喜ぶ」
「えぇ……」
「めちゃくちゃ調子乗る」
「じゃあ言わないで!」
「無理かも」
「なんで!?」
上杉君が少しだけ笑った。
うわ。
この人、 ちゃんと笑うんだ。
その時だった。
廊下の向こう。
一瞬だけ。
誰かが見えた。
肩くらいの髪。
すぐに角を曲がって消える。
「あ」
「どうした」
「今……」
言いかけて止まる。
でも。
上杉君も同じ方向を見ていた。
「……いたな」
空気が変わる。
さっきまでの軽さが、 すっと消えた。
「立花」
「え?」
「教室まで急ぐぞ」
上杉君の声は、少し低かった。
コメント
1件
わあ、第7話!上杉君、笑うんですね…あの「ふっ」がすごく印象的でした。照れ屋で実は優しいギャップ、たまらないです。若武君の大型犬っぽさも伝わってきて「楽しい人だよね」というアーヤの言葉にすごく共感しました。最後の空気の変わり方も気になります。次が楽しみです🌷