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重い扉が開いた。
鉄の擦れる音が、やけに耳に残る。
「……連れてきたぞ」
低い声。
それに対して返るのは、軽い笑い声だった。
「へぇ」
ソファに腰掛けていた男が、ゆっくり顔を上げる。
紫がかった瞳が、こちらを見た。
灰谷蘭
「これが例の?」
興味深そうに細められる目。
暁音は、何も言わない。
ただ、そこに立っているだけ。
「……無視?」
くす、と笑う声。
蘭は立ち上がり、ゆっくりと距離を詰める。
靴音が近づく。
それでも暁音は動かない。
逃げない。
視線すら合わせない。
「ねぇ、聞いてんだけど」
顔を覗き込まれる。
それでも、反応はない。
「……は、気味わりぃ」
小さく吐き捨てる声。
灰谷竜胆 が、壁にもたれながら眉をひそめていた。
「で?」
別の声。
冷静で、温度のない声。
九井一 が、資料から目を上げる。
「使えるのか、それ」
「さぁ?」
蘭は肩をすくめた。
「でも、さっきの見た感じだと──面白そうじゃん?」
沈黙。
数秒。
その空気の中で、暁音だけが“何も感じていない”。
「名前は?」
誰かが聞いた。
「……南、暁音」
間が落ちる。
ほんの一瞬。
「へぇ、ちゃんと喋れんじゃん」
蘭が笑う。