テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
## 第40話:『フォート・セバーン防衛戦』
「……おい、リンの姉ちゃん! このシリンダー、どうやって固定すりゃいいんだよ! 旧連邦の規格はネジのピッチが妙に細かくてイライラするぜ!」
「ちょっとゼロ、うるさい! 今OSの書き換えで一番大事なところなんだから、静かにレンチを回しなさい!」
ゼストの格納庫には、相変わらずゼロとリンの怒鳴り合いに近い声が響いていた。
プロト・ウイングエックスの右肩には、ゼロがジャンクの山から命がけで掘り出してきた旧連邦製重モビルスーツの腕部フレームが、仮留め状態で不恰好にぶら下がっている。そして背部には、前回の終わりに発見したあの黒く焦げた試作型スラスター――光子推進(フォトン・スラスター)のブロックが、太いケーブルで無理やり接続されていた。
「ふぅ……でも、ゼロが持ってきてくれたこのスラスター、本当に凄いわ。まだ仮接続なのに、機体内の余剰エネルギーを勝手に吸い上げて、安定した循環ルートを作ろうとしてる。まるでウイングエックスが、自分で新しい心臓を受け入れようとしてるみたい……」
コンソールを叩いていたリンが、感心したように呟く。ゼロは顔の汚れを袖で拭いながら、不敵に笑った。
「へっ、だろ? ヴァルチャーの勘を舐めてもらっちゃ困るぜ。これでガドルフのじいさんの所に行けば、完璧に直るどころか、もっと凄い姿に――」
その時、格納庫の警告灯が突如として真っ赤に反転し、けたたましいサイレンが鳴り響いた。
『――総員、第一種戦闘配置! フォート・セバーン外周部より、正体不明のモビルスーツ部隊が接近中! 数は十二! 中立地帯の警備隊を突破し、本艦へ向かって直線的に進撃してくる!』
ブリッジからのアンナの悲鳴のようなアナウンスに、格納庫の空気が一瞬で張り詰める。
「何だって!? ルカスの野郎どもか!?」
ゼロが叫び、ウイングエックスのコクピットへ飛び乗ろうとしたが、リンがその襟首を掴んで引き戻した。
「無理よ、ゼロ! 腕はまだ仮留め、OSの同期も終わってない! 今のウイングエックスが出たら、動く前に自爆するのがオチよ!」
「クソッ……!」
ゼロは悔しげに拳を壁に叩きつけた。
格納庫の奥では、ミラに付き添われたノアが、怯えを含んだ冷ややかな瞳でモニターを見つめていた。
「……ルカスじゃないわ。あの粗雑な進軍ルート、それに識別コードの出し方……ただの品性の欠片もない泥棒(ヴァルチャー)の集まりね。どうせ、この艦にガンダムが眠っているのを聞きつけて、一攫千金を狙ってやってきたのよ」
「ガンダムを狙って……? ゼストを……!」
ミラが息を呑む。ノアの言葉通り、敵の狙いはゼストそのもの、そして艦内に眠るガンダムタイプだった。ルカス軍のような統率された動きではなく、欲望に駆られた盗賊団が、中立地帯の隙を突いて襲撃してきたのだ。
格納庫のハッチが開き、三人のパイロットがそれぞれの機体へと駆け込む。
「ゼロ、お前はそこにいろ。艦とウイングエックスは、俺たちが守る」
カイルが重厚な声で言い残し、バスターヴァイスのコクピットへ滑り込む。
「新入り、大人しく特等席で俺の活躍を見てな!」
ジュードがシャドウエッジのハッチを閉める。
そして、ヴィヴァーチェのシートに深く腰掛けたセレスは、コンソールに視線を落としながら、静かに、しかし冷徹な闘志を宿らせていた。
「……ゼロ、ウイングエックスの復活は、あのガドルフのところへ行くまでお預けよ。今は……私に任せなさい」
現在、ゼストの最大戦力であり、この部隊の実質的なエースはセレスだった。かつてルカス軍でエリートとして調整され、ヴィヴァーチェという高機動機を完璧に操る彼女の技量は、カイルやジュードも一目置いている。
「セレス、ジュード、カイル! 頼んだぜ!」
ゼロの叫びを背に、三機のガンダムがカタパルトからフォート・セバーンの赤い荒野へと飛び出していった。
70
3,666
クレーターの外縁部。砂埃を巻き上げて迫る盗賊団のモビルスーツ部隊は、旧大戦時の量産機をジャンクパーツでツギハギした、いかにも粗悪な機体ばかりだった。しかし、数は十二。油断できる相手ではない。
『ヒャッハー! やっぱりいたぜ、お宝の陸上戦艦だ! あのガンダムを分捕れば、一生遊んで暮らせるぜぇ!!』
通信回線に混じる盗賊たちの下卑た笑い声。彼らは街の被害など一切考慮せず、手当たり次第に実弾キャノンを撃ち込んでくる。
「……汚い戦い方。街を巻き込むなんて、許さない」
セレスの瞳が、ヴィヴァーチェのセンサーと完全に同調する。
マゼンタの装甲を持つヴィヴァーチェは、前回のオーバーブーストによる損傷から辛うじて立ち直ったばかりだったが、セレスの操縦は寸分の狂いもなかった。
「ジュード、カイル! 私が前線を切り裂きます。二人は漏れた敵の迎撃を!」
「了解だ、エース様! 後ろは任せな!」
ジュードのシャドウエッジが光学迷彩を展開し、砂煙の中に姿を消す。
「無理はするなよ、セレス!」
カイルのバスターヴァイスが、後方から大型実弾砲を構え、進撃する敵の足元へ正確な威嚇射撃を放ち、敵の陣形を乱した。
ドゴォォォン!!
「な、何だあ!? うわああっ!」
カイルの正確無比な砲撃によって先頭の二機が転倒した瞬間、マゼンタの閃光――セレスのヴィヴァーチェが、敵陣の真っただ中へと突撃した。
ビーム・サーベルが鮮やかな軌跡を描き、一瞬にして敵の量産機の腕と武器を切り落とす。殺生はせず、戦闘能力だけを確実に奪う圧倒的な精密機動。
『速い! 何だこの動きは!? 化け物か!』
『怯むな! 狙いはあの戦艦だけだ、囲んで叩け!』
盗賊たちはセレスの強さに恐怖しながらも、数の暴力を頼りに、ヴィヴァーチェを無視してゼストへと突撃しようとする。だが、その進路に、突如として虚空から黒い影が現れた。
「おっと、俺の存在を忘れちゃ困るぜ?」
ジュードのシャドウエッジが姿を現し、実体剣『エッジブレイカー』を振るって敵の喉元を突き刺す。さらに、カイルの放つ猛烈な面制圧の射撃が、盗賊たちの前進を完全に阻んだ。
「これ以上、我が艦へ近づくことは許さん!」
カイルの激しい叱咤が通信を震わせる。
前線では、セレスが孤軍奮闘とも言える超絶的な動きで、残る敵を次々と無力化していた。機体の機動性を極限まで引き出し、まるで戦場を舞う蝶のように敵の攻撃をすべて回避していく。その姿は、ゼストの格納庫のモニターを通じて、ゼロたちの目にも焼き付いていた。
「……すげえ。あいつ、マジでエースだな」
ゼロは悔しさを通り越し、セレスの戦いぶりに見惚れていた。それと同時に、動かない自分の右拳を強く握りしめる。
「(待ってろよ、みんな……。俺がその輪の中に、もう一度入ってやる。ガドルフのじいさんの所へ行って、誰も見たことのない最高の翼を完成させてな……!)」
フォート・セバーンの夜空に、マゼンタの残光が美しく描かれ、盗賊たちの野望は文字通り砂へと還っていくのだった。
**次回予告**
盗賊団を退けたゼスト一行は、ウイングエックスの完全換装を求め、再びあの天才技術者の元へと舵を切る。
荒野の果てに佇む、かつての学び舎。
「ガドルフのじいさん! 俺のウイングエックスを、新しい姿に変えてくれ!」
ゼロの熱い願いに対し、頑固老人が突きつけた『ディバイダー』の設計図と、過酷な条件とは?
そして、ノアの口から語られる、ルカス軍の恐るべき『世界調律計画』の全貌。
次回、『再会の工房、託される設計図』
**「サテライトキャノンがねえなら、この盾で世界をこじ開けてやるよ!!」**
コメント
1件
うおお第40話、めっちゃ熱かったわ!! フォート・セバーン防衛戦、緊迫感すごかった〜。セレスのヴィヴァーチェの戦闘シーン、マジで心奪われた。あのマゼンタの残光が戦場に描かれる描写、解像度高いし、強さの理由がちゃんと技量として描かれてるのグッと来た。 でも何より、ウイングエックス動けなくてもどかしそうなゼロの心境に胸がギュッとなった。次の工房編、ガドルフのじいさんとの再会、めちゃくちゃ楽しみにしてる!🔥