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探し物の方角を示してくれるという谺ケ池 (こだまがいけ) 。なんとまあ、タイムリーな池があったものか。
さっそく池のほとりで手を合わせ、パン! パン! 二回柏手を打ってみた。
こだまは……? おお、僅かに左方向からだったよな。
ということは、進むべき方向はこちらで合っているということか。
………………
しばらく道なりに進んでいくと『三ツ辻』へ出た。目標は山頂なのでさらに登って『四ツ辻』をめざす。
それにしてもホントに赤い鳥居だらけだね。一説によればお山全体で一万基もの鳥居があるのだという。
それは流石にオーバーだとは思うんだけどね。
参道入口にあるような大きいものからミニチュアサイズの小さなものまで、様々な鳥居があって面白い。
このように人の願いというのもいろいろとあるんだろうね。
四ツ辻まできた。
辻茶屋の【にしむら亭】はまだ開いてなかった。
来るのが早すぎたか。
キロがおしえてくれた名物のいなり寿司、食べたかったなぁ~。
三徳亭の抹茶最中アイスも美味しいということだ。
まぁ開いてないものは仕方がない、帰りの楽しみにとっておきますかね。
地面に手を当ててみたが、……反応はなし。この辺も違うみたいだ。
さて、次に進みましょうかね。
山頂の『一ノ峰』に向かう道はここで二つに分かれている。
神道の基本は右回りだよな。ということで左の道を選択する。
文字で書くと一瞬『あれっ?』と思いがちだが、『左から右』が右回りなのでこちらで正解。
売店の横から階段を下り、石畳の上を進んでいく。
しばらく行くと、お狐さまが逆立ちしてる?
ああ、岩の上から下りてきているところか。
その狛狐さんは細い竹棒を口にくわえており、先端からは水がチョロチョロとこぼれ落ちていた。
実にユーモラスで可愛いので、頭に付いてる宝珠を撫でておく。
その隣で尻尾を振っているシロも可愛いのでいっしょに撫でておく。(他の人には見えてません)
ここは『眼力社』。 目の病気を治したり、『目利き力』が上がるとされている。
それにしても、この辺りは濛々としたパワーを感じますなぁ。
もしかしたらビンゴ?
地面に手を置き確認するが、……ここではなかったようだ。残念!
道に沿ってさらに進んでいると。
んっ、んんん!?
――何かがついてきてるな。
なんだろ? シロが平然としているから、悪しきものではないようだけど……。
あの竹をくわえた狛狐のあたりからだよな。
まあ、害がないなら無視して先に進めばいいかな。
しかし、その者は『薬力社』のあたりで、とうとう話しかけてきた。
「あ、あの~ぅ もし。わたくしのことが見えてますよね? それに、そちらに御座す白いお方は神使様ではございませんか?」
「…………」
あぁ~もう、しょうがないなぁ。
俺は後ろを振りかえった。
するとそこには、一匹の真っ白な狐が大きな尻尾を左右に揺らしながら佇んでいた。
白狐はこちらを覗き込むように見ている。
「人の後をつけまわして。いったい何のようだ?」
「やはり見えてらっしゃるのですね……。いえ失礼いたしました。わたくしはヤカンと申します。先程たまたまお見受け致しまして、もしやと思い声を掛けさせていただきました」
(ほほう、なかなか礼儀正しいお狐さまだな)
こういうヤツは嫌いじゃない。情報収集のためにもすこし話を聞いてみるか。
俺はヤカンと名のる白狐に手招きして、お社の裏へと誘った。
そして、近くの岩に腰をおろすと白狐に話しかけた。
「俺はゲン、こっちは従魔のシロだ。よろしくな」
「…………」
「どうしたんだ……。 なにか話がしたかったんじゃないのか?」
白狐はシロと並んで俺の前にお座りしている。体を覆っている真っ白な毛並みは艶がありとても柔らかそうだ。
「あ、あの~、申し訳ございません。こんな神使様を眷属になさっているお方とはつゆ知らず、ご無礼いたしました」
白狐はペコっと頭をさげた。可愛い。
「ああ、そういうことか。たしかに今は女神の指示で色々と動いてはいるが、俺自身はただの人間だ。気楽に接してくれ」
「はぁ、そうなんですか。……嬉しいです。こうして誰かとお話しすることができて、とても嬉しいのです!」
白狐の話を聞いてみると、
なんでもその昔、狐の住んでいたこの山の麓に神社ができたそうな。
好奇心も手伝ってか、見てみようと麓に下りてきたところが運悪く人間の仕掛けた罠にハマってしまったという。
それから幾日かが過ぎ、もはやこれまでかと諦めかけていた時、なんと通りすがりの見知らぬ人間が罠をはずし助けてくれたそうだ。
なんとか罠から逃れようと、もがいたせいか狐の足には痛々しい傷が残っていた。
傷の手当のため、その者が住んでいた山小屋にてしばらく一緒に暮らしていたのだが、
狐の傷が癒えると、やがてその者は山を去っていった。
そして去り際に、その者から『野干 (ヤカン) 』という名前をもらい、ある使命を託されたということだ。
(なんか壮大な話になってきたなぁ……)
ヤカンに託されたその使命とは、
『山がひらかれるその時まで、この地が穢れないように守って欲しい』
そのような願いだったそうだ。
ほほぅ、山がひらく……か。
つまり、その者はここにダンジョンがあることを知っていたということか?
(…………)
それは、今はいいとして。
その願いをやり遂げたコヤツも大したものではないか。
いったい何時頃の話なんだ。
んん、えっ、なに~。 安倍の何ちゃら?
それってもしかして安倍晴明 (あべのせいめい) のことだったりするのか。
もしくは、その親類縁者か。
そういえば、さっき通ってきたところに【晴明の滝→】とかいう立て看板が出てたよなぁ……?
少なからず関係があるということか。
すると平安時代の話になるから……、千年前か! マジかよ!
律儀すぎるにも程があるだろ。
いや晴明さんも、そんな気安くお願いするなよなー。
よし、明日は【晴明神社】へ行くことになってるから文句を言っといてやる。任せとけ!
その後もヤカンは、このお山であった出来事をそれは楽しそうに話してくれた。
………………
…………
……
そして気付いたときには、太陽が中天に達していた。
(おお、すっかり話し込んでしまったな)
俺たちは昼食をとることにした。
インベントリーから牛丼弁当やら明太マヨネーズを取り出し昼食の準備をしていると、こちらをチラチラ見ていたヤカンが何か言いたげにモゾモゾしている。
「なんだったらお前さんも食べてみるか? 旨いぞー」
隣りでシロも尻尾を大きくふっている。
牛丼弁当をもう一つ出し、明太マヨネーズをぶっかけてシロとヤカンの前に並べてやる。
「何ですかコレは! こんなに美味しい物があったのですか~。これはお山では食べられませんね」
すごい勢いで牛丼を食べまくるヤカン。
仕方がないので、シロとヤカンに牛丼弁当をもう一個ずつ出してあげた。
「こちらは何も掛かっていませんが、お肉の味が何ともいい塩梅ですね~。つゆの染みた玉ねぎも美味しいです!」
とか何とか言いながら、今度はゆっくり味わって食べていた。
「そうかそうか旨かったか。それは良かったなぁ」
弁当の容器に顔を突っ込んで旨そうに牛丼を食べているヤカンは、なんとも愛らしく思えるのだった。
さ て と 、俺も遊びにきている訳ではないのだ。
「なぁヤカン。最近このお山で変わったことはなかったか? どんな些細なことでもいいんだが」
ヤカンはこのお山の守護狐。何か知っているかもしれないからね。