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☘️💟宮静🪻📗
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――遥かな昔。世界が静かに滅びかけていた頃。
氷のような水の中で、わたしはただ揺られていた。
意識はあった。でも身体は動かせなかった。
瞼も、声も、呼吸さえも、何一つ思うようにならない。
けれど、確かに「生きたい」と思っていた。
そんなときだった。
「あー……珍しいの発見〜…見て。人魚じゃん。」
冷たい水の感触に慣れすぎていたわたしにとって、その声はあまりにも温かく、異質だった。
青と金の瞳、獣のような笑み。彼が最初に見た存在。
「……これは保護対象ですね。ねぇ、フロイド?」
「うーん……持って帰っていい?」
海の底に沈んでいたわたしは、気づいたときにはふたりの腕の中にいた。
包まれて、抱えられて、地上へと連れていかれた。
「名前は?」「喋れる?」「魔法は?」
質問のすべてに、わたしは答えられなかった。
喉が焼けて、言葉という概念も、記憶の輪郭も、ぼやけていた。
それでも、彼らはわたしを追い出さなかった。
――数日後。リーチ家、ラウンジの奥の部屋。
「ねぇ、この子名前ないんでしょ。俺らで勝手に名前付けちゃお〜よ〜。」
「ん〜…俺らからとってフェイド!」
「フェイド……Fade、か。“薄れる”名前を与えるとは、詩的ですね。」
その日から、わたしは「フェイド」と呼ばれるようになった。
気がつけば、彼らの屋敷の一室に“居場所”ができていた。
食事も、服も、居眠りするクッションも。
全てが贅沢すぎて、わたしの中のどこかがチリチリと痛んだ。
それでも、やがて言葉を覚え、笑い方を覚え、
そして魔法を隠す術を――彼らに教わった。
「いーい? フェイドはちょっと……特別すぎるからねぇ。」
「“普通”ってものを装うのは、案外むずかしい。けど、大切だよぉ〜?」
フロイドは戯れるように抱きついてきて、ジェイドはその横でわたしの手を取って魔法の制御のコツを静かに教えてくれた。
わたしは、二人がいたから、生き延びた。
わたしは、二人がいたから、“ここにいていい”と思えた。
――そして月日は流れ。
彼らの言葉に背中を押されるようにして、
わたしは“外の世界”へ向かう準備をすることになった。
それが──「ナイトレイブンカレッジ」への入学。
「学園生活では、“ネメシス”という偽名で。魔法が使えないふりも忘れずにですよ?」
「バレたら即退学かもしれないから気をつけてね~フェイドちゃ~ん♪」
荷造りの終わったスーツケースを閉じる音が、妙に大きく響いた。
胸の奥に、不安と期待がぐるぐると渦巻いている。
けれど、兄が言っていたことを思い出し──
何時だってふたりの兄が、確かに背中を押してくれていた。
父や母も
「君の居場所は、どこにだって作れる。だから、まずは“普通の生徒”として楽しんできなさい。」
と言ってくれとても暖かい居場所だ──
⸻
「……ようこそ、ナイトレイブンカレッジへ。」
鏡の間に響いた低い声。
重く荘厳なその響きに、わたしは一歩だけ身を引いた。
目の前に広がるのは、闇の中に輝く大理石の床。そして、鏡に映る世界。
(ここが……魔法士たちの学び舎)
緊張で手のひらに汗が滲む。
本当の名前を隠し、本当の力を隠し――
それでも、胸の奥で脈打つ何かが言っていた。
「ここが、始まりだ」と。
「次の生徒、鏡をくぐりなさい」
わたしはそっと一歩を踏み出した。
「ネメシス」としての最初の一日
「……え、あの子も新入生? 魔法が使えないのに?」
「まさか、入学手違いじゃない? 人間の子みたいな顔してるし」
周囲の生徒たちの視線が、わたしを貫く。
魔力の波動を隠しているせいで、普通の生徒には“ただの人間”にしか見えないのだろう。
それでいい。
いまのわたしは「ネメシス」。
魔法が使えないフリをして、普通の一年生を装う。
その夜、案内されたのは――誰もいないボロボロの寮。
「あ、君もこっち?」
振り返ると、そこにいたのはもう一人の“異質”な存在だった。
制服もなければ、魔力もない。
それでも背筋はまっすぐで、目だけは強く生きていた。
「あなたの名前はなんというのですか?」
「ま、まだ名乗ってなかったね。ユウだよ。」
「君の名前はネメシスだったよね。」
「そうですね…」
ぎこちない会話だった。
でも、その夜だけは、二人とも眠れなくて。
廃墟のようなリビングで、ぼんやりとお茶を飲んだ。
ユウの手が、おずおずとわたしのカップに添えられた時、初めて少しだけ、心がほどけた気がした。
──Side:日常パート「夕暮れ、二人と掃除道具」
⸻
ナイトレイブンカレッジ入学初日。
豪華な式典も祝福の言葉も、わたしたちにはなかった。
配属されたのは、「オンボロ寮」。
誰もいない、物音だけが反響する古びた館。
「……うわ、廊下にクモの巣って本当にあるんだ」
ユウがホウキを持って、天井を見上げる。
その後ろ姿に、つい声を漏らした。
「……やるしかない、よね?」
「そうですね。私たちが掃除しなければ到底住めるとは思えません。」
わたしは頷いて、静かに魔力を……いや、手にした雑巾に力を込めた。
「魔法が使えないフリ」なんて、本当に面倒くさい。
ふたりで廊下を這いずり回り、椅子を運び、鏡に積もった埃をぬぐい、床を磨く。
ふと気づけば、夕陽が窓から差し込んでいた。
ユウが笑った。
「……なんか、ちょっとだけ楽しいね。ネメシスと一緒だと」
その声が、なぜか胸に染みた。
「一緒にいるのが当たり前」なんて思ったこと、一度もなかったから。
オンボロ寮の夜。
風が吹き抜ける廊下を、タオルを手にフェイドは静かに歩いていた。
浴室からは、かすかに水音。
ユウが先に入っているらしい。
その時、扉がふっと開いた。
「……あ、ごめん!長かった?すぐ代わるね!」
「いえ。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」
フェイドはふわりと微笑み、片手で髪を払った。
濡れた床に気を遣い、そっと足元を拭きながら続ける。
「むしろ、あまり長く入りすぎると湯冷めしてしまいますから。お加減にはお気をつけて」
「……ネメシスって、なんか上品だよね。お坊ちゃま?」
「ふふ、よく言われますが……そういう育ちではないんですよ。むしろ、拾われた側でして」
「拾われた?」
「……また、いつか話しましょう。あたたかいお茶でも淹れながら、ゆっくりと」
目を伏せて微笑むその表情に、ユウは何も返せなかった。
胸の奥に、何かがそっと沈んでいくような感覚。
彼女は何かを――隠している。
でも今は、それを無理に引き出さなくていいと思った。
「えっと、ベッドは窓側が落ち着くんだけど」
「そうですか。ですが、夜風が強くなると冷えますよ? ユウさんの体質を考えると、壁側のほうが適しているかと」
「でも……僕、星見ながら寝たいなって」
「……なるほど。それは素敵な理由ですね」
フェイドは数秒間、静かに黙り込んだあと、小さく頷いた。
「では、折衷案を取りましょう。ベッドの枕元だけ、星空が見える位置に。そうすれば、風の直撃は避けられます」
「……天才かも」
「ふふ、それほどでも」
夜の家具移動は、静かに、しかし確実に二人の距離を近づけていった。
今からはこの物語のお終いを共に見ていきましょう_
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