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#続かないとオーバーブロット
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──プロローグ再構成編
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Scene 01黒い霧と目覚め
──目を覚ました時、そこは闇に包まれた大理石の間だった。
不意に見開いた瞳に映ったのは、左右対称の黒い柱と、厳かに佇む巨大な鏡。
(……召喚? けれど、魔術式の形状が違う)
フェイドは体をゆっくりと起こす。
制服姿の自分の手元を見て、眉を少しだけ寄せた。
そのすぐ隣には、一人の少年が座り込んでいた。
そして、その奥では――毛むくじゃらの魔獣が暴れていた。
「グルルル……オレ様はグリム様ニャ!こんなとこに呼び出して、ただじゃ済まさねぇニャ!」
「……随分と威勢のいい猫さんですね」
フェイドは立ち上がり、スカートの裾を軽く払う。
男装の制服は乱れておらず、その物腰はどこか貴族のように落ち着いていた。
「あ、君も……巻き込まれた?」
声をかけてきたのは、転校生の少年?――ユウだった。
記憶が曖昧で、自分がどこから来たのかも分からないという。
「ええ。どうやら、私たちは同時にこの世界に呼ばれたようですね」
「な、なんでこんなことに……!」
「それを知るために、まずはこの鏡と向き合う必要がありそうです」
フェイドはゆっくりと歩み寄り、“運命の鏡”の前に立った。
その瞳には、決意とほんの僅かな疑念が宿っていた。
(呼ばれた理由――知ってしまえば、戻れなくなる)
Scene 02|ナイトレイブンカレッジ 学園長室
騒動の末に鏡の間から“召喚された来訪者”として扱われたユウとフェイド。
学園長クロウリーの前に連れてこられた彼女は、丁寧な声で名乗る。
「……ネメシスと申します。事情は不明ですが、先ほど鏡の間に召喚されました」
「ネメシスくん……ふむ。魔法の素養は?」
「ありません。魔法は使えないとされています」
にこやかに、しかし堂々と――フェイドは“偽りの顔”で答えた。
(※このとき、学園長はフェイドの正体を知っている)
「……フフフ、それはそれは……異世界からのお客様というわけですね!」
ユウとフェイド、そしてグリムを“入学者として”迎えるという奇妙な提案により、
ふたりはとして、ナイトレイブンカレッジに住むことになる。
Scene 03|オンボロ寮、はじまりの夜
「君たちには、寮として“オンボロ寮”を提供しよう。今は誰も使っておらず……まあ、不便はあるかもしれないがね?」
「……ありがたく、お受けいたします」
フェイドは小さく礼をし、寮の鍵を受け取った。
寮と呼ぶには程遠い廃墟のような建物。
扉は軋み、床は抜け、魔法の残滓すら漂っていない。
でも、彼女はどこか懐かしそうに笑った。
「ここなら、誰にも見られずに暮らせそうですね」
「見られたくないの?」
「……いえ、ただ。静かな方が、心が落ち着きますから」
ユウは何か言いかけて、黙った。
その夜、ふたりと一匹は、冷たい布団に身を沈めた。
小さな明かりの中、フェイドは一人、星のない空を見上げていた。
(私がここに来た理由――あなたたちは、知っているのでしょうか)
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オンボロ寮の朝は、早くて寒い。
石造りの壁からじんわりと湿気が伝い、フェイドはマントの襟を少しだけ立てた。
「ふぅ……少し、冷えますね」
まだ眠たげなユウが、大きな欠伸をしながらキッチンの火をいじっていた。
「……ねむ。ネメシス、今日って最初の授業、魔法薬学だっけ?」
「ええ。確か場所は南棟の地下でしたね。時間にして……あと35分ほど」
フェイドは湯気の立ったカップをユウに差し出す。
中には、自分でブレンドした少し甘い薬草茶。
「これ、何のお茶?」
「セントジョーンズワートとカモミールを少し。集中力を保つ作用があるんですよ」
ユウは驚いたように見つめる。
「ほんとにネメシスって、なんでもできるんだなあ……」
フェイドは目を伏せて、少しだけ笑った。
「……“できること”しか見せていないだけです」
※フェイドの目線と介入あり
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魔法薬学の教室。
トレイ・クローバーが、穏やかな声で説明を始めていた。
「では今日の実習は、薬草を刻んで浸出液を作るところから始めよう。手順は黒板に書いてある通り。ゴーグルの着用を忘れずにね」
教室内には数十名の1年生。
ユウとグリムは後方の机に座り、フェイドはその隣で道具を手早く並べていた。
「へへっ、オレ様はこういうの得意なんだぞ!」
「グリム、包丁は先に煮沸しなきゃ……!」
フェイドは無言でナイフを一度引き寄せ、ユウの手元から薬草を数枚抜き取った。
「その葉は“裂いて”から切ると、成分の流出が良くなりますよ。繊維に沿って切るように」
「えっ、あ、ありがとう……」
トレイが微笑ましそうにこちらを見ていた。
だが、その場に突然、ぴりりとした緊張が走る。
「そのナイフ、消毒は済んでいるのか?」
鋭い声とともに、紅い髪の少年――リドル・ローズハートが姿を現した。
「魔法薬学の基本。使用する器具はすべて授業前に消毒を行うこと。」
フェイドは一瞬、グリムとユウの間に立つように動いた。
「失礼いたしました。消毒が不十分だったのはこちらの落ち度です」
「君は……?」
「ネメシスと申します。オンボロ寮所属。仮配属生です」
リドルはフェイドの整った姿勢と、まるで鏡のように整った言葉選びに一瞬、目を細めた。
「ふん……オンボロ寮。クロウリーが無理やりねじ込んだ生徒たち、か」
「そう思われても仕方ありません。ただ、学びたい気持ちに変わりはありません」
リドルはしばし黙り――そして、グリムを睨みつけた。
「次はない。わかったか、グリム?」
「にゃっ、わ、わかったニャ……!」
(まるで王と家臣のような立ち回りですね……けれど)
フェイドはリドルの背後にふと漂った黒い粒子のような魔素を、誰よりも早く察知していた。
赤き王子と、静かな観察者
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あれは、突然だった。
フェイドが廊下の窓辺で風を感じていた昼下がり。
ユウとグリムは、前方を楽しげに歩いていた。
その視線の先にいたのは、ハーツラビュルの寮生。制服のネクタイが緩んでいる――ただ、それだけのことだった。
「第89条。ネクタイは常に45度の角度で結ぶこと。違反者には…」
「Off with your head !」
リドルの叫びとともに、空気が圧縮されるような魔力の奔流が走る。
金属のような光を放つ“首輪”が、寮生の首元にぱしんと現れた。
「わっ……何、これ!? 動けない……!?」
「うわ、こっわ……!?」
グリムが飛び退き、ユウが小さく叫ぶ中、フェイドだけが動かなかった。
リドルの放つ魔力を、息をひそめて感じ取っていた。
(魔力濃度、高すぎる。圧縮率が異常……これは……)
彼女の目が鋭くなる。
それは“観察”ではなく、分析に近い眼差しだった。
(ブロット、兆候……このまま蓄積が続けば――)
「……怖くないのかい?」
ふいにリドルが声をかけた。フェイドを、真っすぐに見ている。
「ええ。寧ろ、興味深く感じています。貴方の魔法は、極めて精緻で、美しい」
「美しい、だって?」
「過度に制御された魔力は、崩れたときこそ最も強く、そして……脆い。
それを自覚して使っておられるなら、貴方は本当に、王に相応しい器です」
リドルの目が、かすかに揺れた。
「……君、変わってるね。」
「ふん……まあいい。ルールを破らなければ、問題はない」
リドルが背を向けたあと、フェイドはふっと息を吐いた。
「今の……ちょっと危なかったんじゃないの?」
「……いえ。彼はまだ、保っている。ぎりぎり、ですけど」
その夜。
ランプの灯りだけが揺れるオンボロ寮の食卓。
ユウとフェイドは、少しだけ遅めの夕食を取っていた。
「ねぇネメシス、今日リドルのこと……怖くなかった?」
「怖い、とは……思いませんでした。彼はただ、“守ろう”としているだけですから」
「えっ? 何を?」
「たぶん、秩序。寮生たちの中にある……安心のための枠組み。
けれど――それが、誰のためのものかを見失えば、器は壊れてしまう」
ユウはその言葉に少し沈黙した。
「……ねえ、もしあの人がほんとに壊れそうになったら、助けてあげられるのかな」
「それは、あなた次第です。
でも――もしあなたが動くなら、私は隣で支えますよ」
ランプの灯が、フェイドの静かな瞳を照らしていた。
「映えのためだし♪」──ケイトの誘いと、訪問の約束
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次の日の昼休み。オンボロ寮の玄関前。
「ネメシスちゃ~ん!ユウく~ん!」
軽快な声とともにやってきたのは、カメラを肩にかけた上級生――ケイト・ダイヤモンドだった。
「いや~、やっぱ来ちゃった!最近ハーツラビュルも殺伐としてるし~、リドルくんもピリピリしてるし~……だから映え要員探してたんだよね~!」
「映え、ですか?」
「そそそ!キミたち、見た目イイし雰囲気レア枠って感じ?
オンボロ寮とかマジでエモいし?カメラ的にめっちゃアリっしょ!」
「……エモい、というのは、感情が高ぶる……?」
「ネメシス、それもう無理に理解しなくていいやつだよ……」
「ままま、細かいことは置いといて!今度さ、ハーツラビュルのお茶会に来てよ!紅茶飲みながら撮影しよ~♪」
「お茶会……それは、寮長のリドルさんもいらっしゃる場ですか?」
「もっちろん♪緊張する?大丈夫、トレイ先輩もいるし!……てか、絶対面白いから!」
フェイドはほんの少しだけ、笑った。
「……ええ。貴方の“面白い”には興味があります。お誘い、感謝します」
その日の放課後。オンボロ寮の部屋で、ユウとフェイドは準備をしていた。
「うわ、こんなちゃんと服整えるの久々……ネメシスってそういうの慣れてる?」
「……昔、そういう暮らしをしていた時期が少しだけありました」
「どんな?」
フェイドは少し黙ったあと、窓の外を見た。
「……きれいなカップと、壊れかけたピアノがあるだけの部屋でした。
お茶は、よく入れていたけれど……飲む相手は、いませんでしたね」
「……そっか」
「でも今日は違います。あなたが、隣にいるから」
その静かな言葉に、ユウは小さく笑った。
重い扉が開き、白と赤のタイルが広がる空間に足を踏み入れる。
フェイドとユウ、グリムが案内されたのは、華やかに飾られたティールーム。
「ようこそ、ハーツラビュル寮へ!」
ケイトが案内し、トレイが落ち着いた手付きで紅茶を淹れている。
その横では、リドルがすでにティーカップの配置や角度を指示していた。
「……ティーカップの取っ手は右を向けて並べること。ケーキの並べ方が左右対称になっていない。やり直し!」
「……にゃあ、こわっ」
「けれど、空間の統一感は見事です。こういう徹底された審美感、私は好きですよ」
フェイドは、そっと紅茶を口に運ぶ。
「……少し、渋みが強いですね。お湯の温度が95度を超えているのかもしれません」
トレイが、目を細めてフェイドを見る。
「なかなか鋭いね。淹れるの、得意?」
「多少……学んだことはあります。好きで、よくひとりで淹れていたので」
リドルが、こちらを一瞥する。
「君、“ネメシス”といったね。オンボロ寮にしては随分と礼儀があるな」
「恐縮です。学ぶ身である以上、立ち振る舞いは整えていたいと考えています」
「……ふん。悪くない」
ケイトがスマホでシャッターを切る。
「いや~いいねいいね~、こういう謎キャラ感!ネメシスちゃん、人気出そうだな~!」
「……“謎”というのは、どこまでを含むんでしょうね」
「それそれ~!そういうセリフ!映え~♪」
(バカにされてる気分ですね…)
「紅茶の準備と、ふたりの夜」
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オンボロ寮の夜は、静かだった。
廊下を吹き抜ける風が、古びたカーテンをかすかに揺らしている。
外ではコオロギのような虫が鳴き、暖炉の火がわずかに灯るだけのリビング。
フェイドは、テーブルの上に紅茶の葉とポットを並べていた。
「……ねぇ、もう寝るんじゃなかったの?」
「……明日のために、一度味を確かめておこうかと」
棚の奥から取り出したのは、薄青のティーカップ。
カップの縁には小さな欠けがあり、手入れされた跡がある。
「これ、ユウさんが拾ってくれたカップですね。あのとき……裏庭の箱の中で」
「ああ、うん……割れかけてたけど、捨てるのはちょっと、もったいなくて」
フェイドは湯を注ぎ、静かに香りを嗅いだ。
「……あたたかいですね、この香り。あなたが拾ったから、でしょうか」
「そんな大げさな……」
「いいえ。捨てられるはずだったものが、今こうして、役目を持っている。
……私も、同じです」
ユウが、その言葉に少しだけ眉をひそめる。
「ネメシスは、捨てられるような存在なんかじゃないよ」
「……そう言ってくれる人が、この世界にいてくれるのなら。私はそれだけで、十分です」
ふたりのあいだに、沈黙が流れた。
でも、それは気まずさではなく、心地よいものだった。
少し冷えたカップを両手で包みながら、フェイドはぽつりと続ける。
「明日、どんな紅茶が出されるでしょうね」
「すごいのかな、ハーツラビュルって……ちゃんと飲める気しないな、緊張して」
「それでも、あなたが隣にいるなら。
――私は、“ふつうの顔”でいられる気がします」
火がぱちり、と小さくはぜる。
オンボロ寮の夜は、今日も少しだけ、あたたかかった。
「お茶会の朝、オンボロ寮のちいさな騒動」
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その朝、オンボロ寮のキッチンには、軽い焦げの匂いが立ち込めていた。
「にゃ~~~っ!また焦げたーっ!!」
「グリム、バターを最初から入れすぎるとこうなりますよ」
「だってオレ様、たっぷりの方がうまいと思ったんだニャ~!」
フェイドはふうっと息を吐き、フライパンを取り上げた。
こびりついた黒いトーストの端を、丁寧にナイフで削る。
「……ネメシス、今日の朝食は焦げパン確定かな……」
「いえ。まだ手はあります」
戸棚の奥から出てきたのは、小麦粉と卵と少しのミルク。
フェイドは袖をまくり、静かに手際よく材料を混ぜ始める。
「おっ、なに作るの?」
「フレンチトーストです。甘さで気分がほぐれるかもしれませんし……お茶会前の緊張緩和にもなるかと」
グリムは思わずゴクリと喉を鳴らした。
「オレ様、甘いのだいすきニャ……!」
ユウもにこりと笑い、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出す。
「今日はちゃんとした朝ごはん食べてから行けそうだね」
「大切な日ですから」
ふと、フェイドは窓の外を見る。
朝日が、オンボロ寮の草むらに差し込んでいた。
(この光景……何気ない朝が、こんなにも愛しいとは)
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朝食後、3人はそろって身支度を始めた。
フェイドは髪を後ろで束ね、仮面のような微笑を整える。
ユウはリボンが曲がってないか鏡で確認し、グリムはしっぽを一生懸命ふいていた。
「オレ様、ちゃんとしてないと紅茶飲ませてもらえないって聞いたニャ!」
「安心してください。多少粗相があっても、あなたが隣にいれば……きっと場は和みます」
「そ、そうかニャ? ふふん、オレ様ってば重要人物ニャ!」
フェイドは微笑むと、ユウに目を向けた。
「では……参りましょうか。私たちの、“はじめてのお茶会”へ」