山々に囲まれた小さな田舎町。空気は澄み、田畑が広がるのどかな場所だった。舗装されていないあぜ道を、ランドセルを背負った七人の小学生が駆けていく。彼らは、町の人たちから“悪ガキ軍団”と呼ばれていた。
先頭を走るのは、玉森裕太。おっとりしているようで実は誰よりも行動が早く、真っ先に冒険へ飛び出してしまう。髪を汗で額にはりつけながら、
裕太:「早く行こうよ!」
と後ろを振り返る。
その後ろを、藤ヶ谷太輔と横尾渉が競うように追いかけていた。太輔は面倒見がよく、兄貴分のような存在。一方の渉は少し抜けているが、時に鋭いことを言ってみんなを笑わせる。
少し遅れて、息を切らしながらついていくのは、宮田俊哉。ドジをして転ぶのはいつものことだが、誰よりも優しい心を持っている。
さらに後ろから二階堂高嗣が、
高嗣:「おい宮、転ぶなよ!」
と声をかけながらも、自分も石につまずいて
高嗣:「いてっ」
と大声をあげる。
千賀健永は、そんな二人を見て笑い、
健永:「ほら、行くよ!」
と引っ張りあげる。
そして、少しだけ離れたところに北山宏光。みんなの中で一番頭がよく、冷静に物事を見ているのに、誰よりも仲間思いで、時には率先していたずらを仕掛ける張本人でもあった。
この七人は、まるでひとつの体のように一緒に動いていた。学校が終わればすぐに集まり、川で魚を捕まえたり、森を探検したり、空き地で野球をしたり。勉強よりも遊びが何よりも大事で、毎日が宝物のように輝いていた。
その日も、彼らは町はずれの林へと走っていた。林の奥には、彼らだけの秘密基地があった。木材の切れ端や段ボールで作った粗末な小屋。大人から見ればただのガラクタにしか見えないが、七人にとっては夢と冒険が詰まった特別な場所だった。
宏光:「ねぇ、今日こそ屋根をちゃんと直そう!」
と宏光が声をあげる。
高嗣:「いいけど、俺もう腹減ったー!」
と二階堂が寝転ぶ。
俊哉:「お菓子持ってきたから!」
と宮田がランドセルからポテトチップスを取り出すと、全員が一斉に群がった。
笑い声が木々に反響する。まるで森そのものが七人を祝福しているかのように。
――けれど、この頃の彼らはまだ知らなかった。
この秘密基地に、やがて“もうひとり”の大切な仲間が加わることを。
そしてその少女が、彼らの人生を大きく変えていく存在になることを。
この町に、新しい家族が引っ越してきたのは、ちょうどこの春のことだった。
その家の庭先で、いつもひとりで遊んでいる少女の姿を、裕太が最初に見つけた。
肩までの黒髪を風に揺らし、俯いて絵本をめくっていた少女。
彼女の名前は――柳沢花純。
その時はまだ、彼女が七人の心にどれほど深く刻まれるかなど、誰も知る由もなかった。