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明日はゴーレム攻略という日の夜。
俺はひとり館を抜け出して、西の森を歩いて行った。
西の森はライオネ領。
だからこっそりな。
ササササ……
こうして『移動速度2倍』の徒歩で1時間半ほど行くと森の中の豪邸に到着する。
ライオネ伯爵邸だ。
夜の伯爵邸にはもちろん見張りがいた。
邸宅の四方に火が焚かれ、2名の私兵があくびをしながら周囲を見回っている。
「ふぁーあ。眠っ」
「どうせくせ者なんて来ないし、退屈だなあ」
そんな彼らがちょうど表側へ回るタイミングに、俺は裏手の木から二階の窓枠へ飛び移った。
そこから雨どいへ足をかけ、ベランダのヘリに手を伸ばし、上の階へよじ登って三階までたどりつく。
「ええと、たしか右から三番目だったかな?」
俺はベランダをそーっと移動し、右から三番目の窓ガラスをコン、ココン、コンとノックする。
すると中から少女の声がして俺を迎えてくれるはず、だったのだが……
「む、なんじゃこの音?」
あれ? おっさんの声だ。
つーか、ライオネ領主の声である。
どうやら部屋を間違えたらしい。
「もしや、くせ者か?」
ギクッ!
「おい! 誰かおるのか!」
カーテンの向こうにおっさんの影が映る。
ガラ……
窓の開く音。
「ッ……!」
「おや? 確かに音がしたと思ったのだがのう」
危ねええッ(汗)
俺はとっさにベランダのヘリにぶら下がって難を逃れていた。
でもキツい。
もう落ちそうだ……!
「ふん、気のせいか」
ライオネの領主はそうつぶやいて部屋へ引っ込んだので、俺はなんとか再びベランダへよじ登る。
ホッと一息。
俺は体勢を立て直すと今度は左から三っつ目の窓まで移動してノックする。
コン、ココン、コン……
「アルトっち!?」
すると今度こそ部屋からステラがあらわれ、ギュッと抱き着いてくるのであった。
やれやれ。
「そう言えばさ……」
2時間後。
俺はベッドの中でステラの頭をなでてやりながら寝物語をしていたのだけれど、ふと彼女の父親のことについて尋ねてみる。
この間のガゼット撃退の後、ヤツらが『援軍だ』とか言って兵を率いて来たことが気になっていたのだ。
「あー(察し)パパがごめんねー」
ステラの話だと、やはりライオネ領主はダダリへの侵攻を狙っているらしい。
ただし、ライオネは大きな領地である。
ガゼット領のような中小の領地とはワケが違うから、ライオネがああいうふうに堂々と侵攻してしまうと王権に危険視されるだろう。
(ライオネが拡張しまくると、王権を脅かす可能性があると一般的にも考えられているからである)
そこでライオネ領主は考えた。
まずガゼット領にダダリを攻めさせ、次にライオネから『援軍』として兵を送り、ガゼットの襲撃からダダリを守ってやる。
そして、『ダダリ領の保護のため』とかなんとか言って、兵をそのままダダリに駐留させ、事実上の施政権を奪おうとしてたんだってさ。
「それにしてもステラ。ずいぶん詳しく聞いてるんだな」
「パパなんにも教えてくれないから盗み聞きだけどねー(笑)でも、ライオネとダダリが戦争になったらまぢつらたん……」
「……ステラ」
俺は思わず言葉を失う。
だが、当のステラはすぐに元気を取り戻して、俺の首へ両腕をまわし抱きついてきた。
「ねえ、アルトっち……」
「ん?」
「もう一回しよ?」
いたずらっぽく耳元で囁くステラ。
俺は「しょうがねえな」とつぶやきながら少女の白い首筋へやさしくキスを始めた。
◇
翌朝、ダダリに帰る。
部屋に戻るとさすがにちょっと眠り、昼前ごろにみんなを集めて魔境第3地区の攻略にかかった。
第3地区はこれまでの森の環境と違って岩山である。
したがって出現する魔物も岩石系で硬い。
「なんだコイツ、ちっとも倒せねえ!」
「魔法も効かないぞ!?」
岩石ロック、岩リザード、そしてゴーレム。
こいつらは守備力が高く、通常ならもっと物理系のレベルを上げるか、爆発系の魔法を覚えるかしてからでないと倒せないのだが……
ガツン! ガツン! ガツン!
「おお、すげー!」
「どんどん敵が砕けていくぞ!?」
ジョブ『怪力』に鋼鉄のつるはしを装備させて叩くと、これがサクサク倒せてしまうのである。
「すげーぞゴーグル!!」
「見直したわ!」
身体が大きいクセに気の小さいことでバカにされがちだったゴーグルも、この活躍には大いに面目をほどこしたようである。
「よかったな。ゴーグル」
「アルトさま……へへ、へへへ♪」
大活躍のゴーグルはパイナップルのような頭をポリポリかいて嬉しそうだったよ。
さて、この地区のボスは『巨ゴーレム』という敵で、岩窟のどこかを根城にしているはずだ。
岩窟というか、入り組んでいるからちょっとしたダンジョンのような感じだな。
というワケで今回は怪力の5名と補助の5名という少数に絞っている。
俺を含めた総勢11名は、ランプと松明を駆使して岩道を進んでいった。
で、1時間ほど探索したころだったか。
ふいに道が開け、学校の体育館くらいの広さの空洞に出たかと思えば、地鳴りのような音が響くのを聞く。
ゴ、ゴゴゴゴ……
すると炎にゆらゆらと照らされた岩の塊がゆっくりと動きだし、巨大な人のような姿で立ち上がるではないか。
「で、でけえ!」
「ひいい、逃げろ」
すると、みんなビビッて腰を抜かすヤツまで出た。
「うろたえるな!」
俺はやむをえず一喝する。
「で、でも……」
「ありゃデカすぎですぜぇぇぇ」
確かにデカい。
巨大な空洞に頭がつくほどの背丈。
ダンプカーのようなガタイ。
確かに強そうである。
「でもやり方は一緒だ。俺が引き付けているから、つるはしで削れ!」
俺はそう言って巨ゴーレムへ向かって行った。
「おらああああ!」
そんな俺へ向かってその巨大なこぶしを振り下ろす巨ゴーレム。
どすーん!
「きゃー!」
「アルトさま!!」
みんなの悲鳴が上がるが、しかし俺には『身躱し』の技能がある。
敵は一体なので相手がどれほどデカくても物理攻撃が当たることはない。
「こっちにかまわず早く攻撃をしろ!」
「へ、へえ……」
そう言うとようやく5人の怪力たちが鋼鉄のつるはしでゴーレムの足元を打ち付けてゆく。
だが、俺に気を取られているらしいゴーレムは足が削られていっているのに気づかない。
ゴ? ゴゴゴ?
やがて巨ゴーレムは足を失い、前のめりに倒れてしまった。