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20
あまね🍡💠
75
十五年前――。
東理病院。
病室。
詩織は静かに眠っていた。
規則正しく鳴る心電図。
義一はベッドの横へ立つ。
言葉は出ない。
ただ、その寝顔を見つめるだけだった。
枕元には、小さなお守り。
義一はそれを手に取る。
ゆっくりと胸ポケットへ戻した。
「もう少しだけ……。」
「俺が持ってる。」
「必ず。」
「また笑って返すから。」
義一は詩織の手を優しく握る。
「待っててくれ。」
「今度こそ。」
「守る。」
そう言い残し、病室を後にした。
-–
イコル・ヤーレン研究所。
蓬萊が義一を研究室へ案内する。
部屋には博士が待っていた。
博士は静かに椅子を勧める。
「座ってください。」
義一は黙って座る。
しばらく沈黙が続いた。
やがて博士が口を開く。
「義一さん。」
「今日は、大切なお話があります。」
博士はガラスケースへ目を向ける。
一本の薬。
静かに光を反射していた。
「これが。」
「能力の薬です。」
義一は薬を見つめる。
博士は続ける。
「ですが。」
「私は、この薬を勧めることはできません。」
義一は驚いた表情を見せた。
博士は静かに話を続ける。
「人生を変える選択だからです。」
「能力は完全にランダム。」
「望んだ能力になる保証はありません。」
「人を守れる能力かもしれない。」
「逆に。」
「全く戦いに向かない能力かもしれない。」
「そして。」
「一度投与すれば。」
「二度と元の身体には戻れません。」
研究室が静まり返る。
義一は何も言わない。
ただ薬を見つめ続けていた。
-–
蓬萊が静かに口を開く。
「義一さん。」
「決めるのは、あなたです。」
「誰も強制はしません。」
「今日、答えを出さなくても構いません。」
義一は立ち上がる。
深く一礼した。
「ありがとうございます。」
研究室を後にする。
-–
廊下。
義一は歩き続ける。
能力。
ランダム。
守れる保証はない。
薬を飲めば。
もう元には戻れない。
足が止まる。
その瞬間。
頭の中に、あの日の光景が蘇る。
-–
「義一さん。」
「心配しすぎですよ。」
詩織の笑顔。
-–
「黙れッ!!」
一徳の叫び。
-–
血だまり。
-–
「詩織さん!!」
-–
救急車。
-–
血に染まった自分の手。
-–
「俺が守れなかった……。」
-–
義一は強く目を閉じた。
拳を握る。
「……違う。」
「もう。」
「二度と。」
「守れない後悔はしたくない。」
義一はゆっくり振り返る。
研究室の扉を見つめる。
そして。
再び扉を開けた。
博士と蓬萊が顔を上げる。
義一は真っ直ぐ博士を見る。
博士は静かに尋ねた。
「義一さん。」
「一つだけ確認させてください。」
「それは。」
「復讐のためですか。」
研究室が静まり返る。
義一は首を横に振った。
「違います。」
少し涙を浮かべながら。
それでも迷いのない声で言う。
「守るためです。」
「俺は。」
「もう誰も失いたくありません。」
博士は義一を静かに見つめた。
やがて、小さく頷く。
「……分かりました。」
義一は深く頭を下げる。
そして。
力強く言った。
「お願いします。」
研究室の静寂の中。
その一言だけが、静かに響いた――。
第68話へ続く
コメント
1件
うわ、第67話、読み終わりました……。義一さんの「守るためです」という決断の瞬間、胸に来ましたね。特に博士が「復讐のためですか」と聞いた時の静寂が、物語の重みを引き立てていて印象的でした。能力を得る覚悟と、詩織さんの過去の記憶が交錯する構成もグッとくるものがあります。次が気になります!