【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
小児科医青×天才外科医桃
小児科の看護師水さん
のお話です
今回はワードパレットでリクエストいただいた3つの言葉(タイトルになってます)を本文中に使用してのお話になります
水視点
その日は朝から何だかとても目まぐるしかった。
予約患者の数はもちろん満杯で、加えて初診で訪れる人も多い。
やっかいなクレーマーなんかが一人でもいれば、当然窓口は貸し切りのような状態になり診察の流れは滞る。
ただでさえそんな大変な日に、病院内部…医事課辺りからの問い合わせも重なればもう最悪だ。
「いふ先生、10日以上前に申請がきてた診断書の、作成催促が来てます」
秘書さんの言葉に、診察室と検査室を走り回っていたいふくんが足を止める。
「そんなわけないけど」
「そうですよねぇ…いふ先生が診断書ため込むことないですし」
「俺から電話しとくわ。紛失案件やったら大事やし」
「お願いします」
秘書さんに微笑を浮かべて返事をしてから、いふくんは次に勢いよくこちらを振り返った。
「ほとけぇ!」と、他の人への柔和な態度なんて嘘なんじゃないかと思わされるくらいの怒号が飛ぶ。
「検査オーダー確認し直せ!」
「えぇっ!?」
何か間違えた!?そう思って電子カルテを開き直す。
その間もいふくんは手持ちのPHSで医事課に電話をかけたりと、止まることがなかった。
それなのに一度診察室に入れば、それまで走り回っていたのが嘘のように落ち着いた姿勢で息を整え直す。
呼ばれた患者さんが中に入ってくると、「こんにちは」とにこりと微笑んでみせた。
「今日はどうしたん?」
赤ちゃんでない限り、いふくんは必ず最初に子ども患者本人に声をかける。
具合が悪すぎて話せないとか、もじもじして言葉が出てこないなんてことになってから、ようやく後ろに控えている保護者に話しかけるんだ。
たまにいるんだよね。
子どもを診るはずなのに、子どもを一切無視して電子カルテと保護者にしか向き合わない小児科医も。
その子の状態を確認するときですら、具合の悪い子を労わる気持ちなんてなく、ただ「作業」としてしか診察しないそんな医師は確かにいる。
だけど、いふくんは違う。
「のど…いたい…」
ぽつりと声を出した4歳の子に、「そっかぁ」と眉を下げて表情を和らげる。
「お口の中見せてくれる? あーーーって声出して」
舌圧子で舌を押さえながら言ういふくんの言葉に、その子は言われるまま「あーーー」と声を出した。
「ん、じょうずじょうず」
扁桃腺の辺りを確認したらしいいふくんは、そう言ってその子の頭を撫でた。
子どもを安心させるようににこにこと笑っているのに、聴診器で胸の音を聴いているときだけは真剣な顔になるのも知ってる。
そうしてそんなほんの数分の診察でも患者さんへの思いやりを忘れないから、帰る頃には大体の親子が頬を染めて帰っていく。
…男女関係なくね。
なのに患者さんがいなくなり後ろに引っ込んだ途端、僕の頭を小突いてくるのはやめてほしい。
「ほとけぇ!」
「今度は何!?」
散々こき使われてこっちもへとへとなんですけど!?
大体さぁ、僕以外の看護師や秘書さん、窓口さんにはあんなにいい対応するの何なの!?
そう思ったけれど、小突かれた頭を押さえながら顔を上げた僕に、いふくんは顎で壁の時計を雑に示した。
同じようにそれを目線で追うと、もう時刻は13時を過ぎている。
たった今午前の患者さんを診終わったところなのに、もう窓からは立派に暖かい午後の光が差し込んできていた。
「昼行ってこい」
「え、いふくんは?」
「俺まだやることあるから。厚生係に電話して、あと病理室に確認と検査室に…」
「あぁ分かった分かった!」
いふくんのToDoリストなんて聞いたら僕の目が回りそうだ。
遮るようにしてその口を塞ぎ、大きく首を竦める。
「お昼ごはん、何か買ってこようか? 今日食べに行けなそうじゃん」
言うと、いふくんは一瞬考えこんだように黙した。
そしてそれから、「じゃあ裏のキッチンカーのサンドイッチ」と答える。
「サンドイッチ? 珍しいね」
いつも食堂の日替わり定食を食べているから、てっきりもっとがっつりしたものを食べたがるかと思ってた。
忙しすぎて、ワンハンドで食べられる物がいいってことなのかな。
「あそこのキッチンカーのサンドイッチおいしいよね。ないちゃんがよくカツサンド食べてる」
「ふーん」
「いふくん何がいい? ないちゃん御用達カツサンドにする?」
「……いや、ミックスサンドみたいなやつ」
「オッケー。行ってくるね」
「お前の休憩終わりでいいよ、サンドイッチ」
別に急いで帰って来なくても、ってことらしい。
まったくもう、いつもぎゃあぎゃあ僕に色々言ってくる割には、こういうところで最後にきちんと気遣ってくるから調子が狂う。
「分かったー。お昼行ってきまーす」
間延びする声で周りにも聞こえるように言った僕に、いふくんは後ろ向きに片手を振った。
いふくんの忙しさは尋常じゃないと思う。
どんなに忙しくて予定が詰まっていても、診察に手を抜くことはないから余計なんだろう。
加えて事務とのやり取りなんかも、任せるべきところは周りに任せてくれるけれど決して放り投げたりはしない。
どこぞの高慢な医師が自分の仕事を下に割り振った上、ミスが起きたときに知らぬ存ぜぬでしらばっくれるのとは大違いだ。
周りに仕事を振ったとしても、確認作業がある以上、いふくんが完全に楽になるわけじゃない。
だから、思う。周りにそうやって気遣えるいふくんだけど、自分が誰かに甘えることはあるのかな。
あれだけしごでき感を出してる彼は、「甘える」なんて行為は苦手なのかもしれない。
「あれ、いむじゃん」
裏手のキッチンカーにたどり着いて列に並ぶと、後ろから不意に声をかけられた。
もうとっくに昼休憩と言えるような時間は過ぎているのに、まだこのサンドイッチ屋さんは行列ができている。
その列の最後尾でゆっくり振り返ると、白衣を身にまとったピンク色がこちらを見据えていた。
「ないちゃん。今お昼?」
「終わって帰るとこ。何お前、またサンドイッチ?」
そう笑って言うないちゃんとは、ここのキッチンカーでよく出くわす。
白衣のポケットに手を突っ込んで、小首を傾けてこちらを見つめ返してきた。
「ぶー、今日はいふくんに頼まれたの。僕のはついで」
「……まろ?」
そこでふと、ないちゃんが笑みを消した。
ふと真顔になって問い返してくる。
僕とキッチンカーを交互に見比べた。
「ん? うん。今日うちの科すっごく忙しくてさ。お昼食べに出る余裕もないみたい。ミックスサンド食べたいんだって」
「……」
ポケットから出した手を、ないちゃんは口元に当てて少し思案するような仕草をした。
だけどすぐに再び顔を上げて、にやっと笑う。
「で、医師がそんなに忙しいのにいむは食べに出る余裕あるわけ?」
「いふくんが行ってきていいって言ってくれたんだもん、いーじゃん」
「はは、冗談冗談。…いむ、ちょっと待っててくれる? 5分で戻るわ」
「え!? ないちゃん!?」
急な申し出に戸惑う僕の声に、ないちゃんは答えることもなく身を翻した。
白衣の裾がふわりとなびき、そのまま軽い足取りで走り去ってしまう。
「え、なんなの…?」
首を捻った僕の前で、並んでいた列が進み始めた。
「ごめんごめん」
宣言通り5分で戻ってきたないちゃんは、肩で軽く息をしながら小さな紙袋を差し出してきた。
「これ、まろに渡してくれる?」
「え?」
「渡してくれれば分かるから」
袋は大きくはないけれど、少しだけ重みを感じる。
首を捻って問い返そうとしたけれど、ないちゃんは手首の時計に目線を落として「やば!午後のミーティング始まるわ…!」なんて言ってまた踵を返した。
「え…なんなのほんとに…」
買ったばかりのサンドイッチと、託された紙袋。それを手にして、僕はぱちぱちと瞬きを繰り返した。
(続)
コメント
4件
神作すぎてずっと見ていたいです!
この作品ほんとに大好きです!