そんなある日のことだった。
日も落ち、夕食も食べ終えたある日のこと。
リオン、アリス、シルヴィの三人はロゼッタの部屋に呼ばれた。
ロゼッタの部屋に入るリオン。
そこには既に他の二人が来ていた。
「よし、全員揃ったな」
ロゼッタはそう言ってから話を始めた。
「今日は重大な発表がある」
ロゼッタの言葉に、リオンとシルヴィは顔を見合わせた。
何かあっただろうか? 思い当たる節は無かった。
一方、アリスは興味深そうにロゼッタの顔を見る。
「なんですか?もしかして結婚とか?」
シルヴィは冗談交じりに言った。
だが、ロゼッタはそれを否定する。
「いや、違う」
それからロゼッタは真剣な表情になる。
そして、衝撃的な事実を口にした。
リオンは、ロゼッタの口から放たれた言葉に驚愕する。
隣にいるシルヴィも、目を丸くしていた。
「きみたち、王都での『武術大会』に出ろ!」
ロゼッタは、声高らかに宣言した。
「王都で…ですか?」
リオンは戸惑いながらも質問をする。
ロゼッタはうなずいた。
それから、説明を始める。
まずは大会の趣旨についてだ。
これは、毎年春から夏の間に開催される大会で、王国中の腕自慢が集まる大規模なものだ。
そこでの優勝賞品は、豪華絢爛なものばかりである。
例えば、大貴族や王族の嫁取りの権利であったりと様々である。
優勝者には賞金も与えられる。
「でもどうして俺たちがそんな大会に出場を?」
「実は、私はこの大会の運営と知り合いでな…」
当然の疑問を問いかけるリオンに対し、ロゼッタが答えた。
誰かいい参加者はいないか、とその知り合いから相談を受けたらしい。
武術大会は誰でも参加できるわけでは無い。
王国内の権力者や有識者の推薦でしか出場できない。
「それで、僕らに白羽の矢が立ったと?」
「そういうことだ」
「ふーん…」
シルヴィはどこか不満げにつぶやく。
「私としては、是非とも出てみて欲しいと思っている」
「へえ…」
「それに、優勝すればその先の道が開けてくるかもしれない」
「どういうことですか?」
「例えばの話だが、大会で優勝したら、貴族の誰かと結婚できる可能性があるって事だよ。それくらいの自由な報酬がもらえるのさ」
ロゼッタはそう説明する。
シルヴィにとっては、特にそう言ったことに興味があるわけでは無い。
とはいえ、出場するだけでも、相当な栄誉であると言えるだろう。
ロゼッタにとっても、自分の弟子たちが優勝を狙えるのであれば、それは嬉しいことであった。
「なるほどね」
シルヴィは納得した様子でうなずく。
それから彼女はリオンの方を見た。
彼の意見を聞きたかったようだ。
リオンは少し考える素振りを見せる。
それから口を開いた。
別に大会に出ることに反対というわけではない。
ただ、一つだけ気になっていることがあった。
それを確認するために、リオンはロゼッタに対して質問をする。
「ちなみに、武器を使っても良いんですか?」
武術大会では、武器の使用が認められている。
もちろん、殺傷能力の高いものは禁止されているが…
「ああ、問題ない」
ロゼッタは肯定をした。
使えるものは木製の棒や多節混など。
ほかにも細かい決まりなどをロゼッタは伝えた。
「わかりました。俺、出場します」
「ボクも出ようと思います」
リオンとシルヴィは出場を決めた。
一方のアリス。
彼女は薬学師であるため武闘派では無い。
しかし…
「王都なら珍しい素材があるかもしれないですね」
「そうだな。国中の物流の要だ。それにここには無い資料や器具もある」
「私もついて行ってもいいですか?」
「ああかまわんよ。キミのためにもなるだろう」
ロゼッタは笑いながら言った。こうして三人の出場が決まった。
それから、三人はロゼッタの部屋を出た。
「楽しみだなぁ!どんな相手がいるんだろう」
シルヴィは嬉しそうに言った。
彼女にとって、大会はお祭りのような感覚なのだ。
「そうだな。良いところまで行けるように頑張らないとな」
「うん!」
「お二人とも頑張ってくださいね」
アリスも応援してくれる。
そんな三人の会話を聞いてロゼッタは微笑む。
「まあ、くんたちなら大丈夫だと思うがな」
それからロゼッタは三人に向かって言う。
「じゃあさっそく明日から出発するぞ!」
「えっ!?」
いきなりの言葉に、三人とも驚いた。
どうやら、明日出発ということらしい。
急すぎる話だった。
だが、こうなった以上仕方がない。
三人は王都に向かうことになった。
ロゼッタは馬車を手配していたようだ。
翌日、三人は準備をして街へと出発した。
道中は特に何も無かった。
そして数日後。
一行は王都『レッドパルサード』に到着した。
王都は巨大な都市であった。
この国は商業が盛んなため、他国との交易が盛んであり、貿易の中心地として栄えている。
そのため、人の出入りも多い。
王都の中は人で賑わっていた。
街のあちこちで商人が品物を並べており、活気がある。
そんな中を歩くリオンたち。
彼らは王都を歩きながら周囲を見回す。
「すごい人の数だな…」
「ほんとに…」
「そうですね…」
辺りを見回しながら、リオンたちはつぶやく。
王都には様々な人が集まっている。
リオンたちの村とは比べ物にならないほどに人口が多い。
こんな場所に来たのは初めてだったので、三人はそれぞれ興味深そうに見渡している。
そんな彼らを見てロゼッタが叫ぶ。
「ほら、ぼけっとするな。まずは宿を探すぞ」
「はい!」
「はーい!」
ロゼッタの声に二人は元気よく返事をする。
それから、四人は宿を探した。
幸いにもすぐに見つかった。
部屋は男女別々である。
夕食は外で食べることにした。
四人が向かったのは酒場である。
店内には酒を飲み交わす男たちの姿があった。
皆、豪快に酒を飲んでいる。
リオンたちも注文を済ませ、席に着く。
しばらくして料理が運ばれてきた。
肉料理が中心である。
香辛料の匂いが食欲をそそる。
「さて、それでは乾杯しようか」
「はい」
「何に乾杯するんですか?」
「うーん、そうだなぁ」
ロゼッタは少し考えてから答える。
「まあいいか。とりあえず、王都到着の祝宴ということで」
それから、三人はグラスを手に持った。
「それじゃあ、これからのみんなの成功を願って…乾杯!」
「乾杯!!」
そう言って、三人とも飲み物を口に含む。
口の中に爽やかな風味が広がる。
どうやら、果実酒らしい。
食事をしているうちに、話は自然と武術大会についてになった。
ロゼッタは楽しそうな表情で言う。
彼女は弟子の成長を見るのが好きなのだ。
だから、武術大会は彼女の楽しみの一つでもある。
弟子たちが出場するということもあって、ロゼッタはかなり気合が入っている様子だった。
「リオンくんもシルヴィくんも、頑張ってくれよ!」
二人の肩に手を置いて言うロゼッタ。
そんな彼女にリオンとシルヴィは笑顔で答えた。
その後、彼らの会話はしばらく続いた…
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