テラーノベル
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🤍「いいの?阿部さん」
阿部さんは、闇の中で、こくり、と頷いた。
窓から射し込む月明かり以外の光がない布団の上で、阿部さんは一糸まとわぬ姿で俺を見ている。風呂を済ませて、寝ようとすると、白いシーツだけを身に纏った阿部さんが客間へとやって来たのだった。
💚「忘れさせて。蓮を」
蓮、というのは若くして亡くなった元彼の名前だ。家に帰った後、学生時代の彼の写真を見せてもらった。
光沢のある黒い髪と爽やかな笑顔が印象的な美しい青年だった。2人は幼なじみで、阿部さんが高校に上がる年に彼は漁師になったという。
子供のころからお互いに意識していて、好き同士だったのにキスもしたことがなかったらしい。田舎町だから人に知られれるのを憚ったのだという。彼が亡くなってからは勉強だけをして生きてきたと、阿部さんは伏し目がちに教えてくれた。
🤍「優しくする」
💚「うん…」
腰に腕を回すと、その部分がびくっと跳ねた。髪を撫で、頬に手を添えて口付けをした。
舌を挿し入れ、口腔内をなぞっていく。阿部さんの熱い舌が俺の舌と交わった。
💚「……んっ…ラウ」
右手で、耳たぶを触る。壊れものを扱うように大切に愛そうと心掛ける。阿部さんの心の傷も包み込むように、痛みをほんの少しでも減らせるように。
胸の突起を触った。指先でやさしくさすると、だんだんとそこは固くなってきた。阿部さんの息遣いが荒くなっていく。首筋や耳や胸の先に唇で印をつけていった。
蓮さん。
この人は、俺が貰います。
俺が絶対に幸せにするから。
瞼の残像にそう誓い、阿部さんの切ない喘ぎ声に応えて、なるべく優しく、なるべく柔らかく愛撫を続けた。
阿部さんの中心をなぞると、そこには形のいい性器が勃ち上がっていた。手の中に収まるその部分は、温かく脈打っている。そして、小刻みに震えてもいた。阿部さんは生きている、そのことが俺には嬉しい。
阿部さんの吐息が漏れる。阿部さんはほんの少し身体を捩った。
💚「恥ずかしい…」
可愛い囁き声に、思わず胸が熱くなり、包んだ手に力が入ってしまった。
💚「あっ…ん…っ」
今日は挿入は難しいだろう。 準備もしていない。だから、阿部さんを思い切り感じさせてあげたい。俺は阿部さんのものを口の中に収めた。
💚「ああっ…ラウール…あっ…」
初めての刺激に阿部さんの腰が揺れた。
俺にとっても初めての経験だった。それでも愛しい人の感じる声は、悦び以外の何物でもなかった。この人を気持ちよくさせたい。誰よりも辛い想いをしてきたこの人の痛みを忘れさせてあげたい。阿部さんは切ない声を上げ、やがて腰を大きくのけ反らせると、俺の口の中にありったけの精を放った。
💚「恥ずかしかった」
綺麗にした後で、胸に身体を預けてくる阿部さんが愛しくてあまりにも可愛くて、俺はいつまでもこの人を守りたいと思った。今は服を着せて、隣りで横になっている。
🤍「俺、あなたを守るから」
💚「…ラウール」
🤍「絶対に長生きするし」
💚「うん」
🤍「あなたを一人にしたりなんかしないよ」
💚「うん、ありがとう」
阿部さんが震えていることで、泣いているのがわかった。いつの間にか、俺も一緒になって泣いていた。
こうして阿部さんは、もう海を見に帰らなくてもよくなった。
今は2人で多忙な大学生活を送りながら、近い将来、一緒に暮らすお金を貯め始めている。
阿部さんは自分が就職したら全部払ってくれようとしているけど、そんなのはだめ。
俺は俺自身で早く稼げる大人になって、阿部さんを食わせていくのが目標だ。
🤍「宮舘さん、給料上げてくださいよ」
❤️「じゃ、お客さん増やしてくださいよ」
相変わらず、のらりくらりとした憎めない店長がいるこの店で、店長よりも店長らしく鬼のようにシフトに入って働いている。
就活帰りの阿部さんとここで待ち合わせるのがここのところの日課みたいになってきた。
💚「ただいま」
🤍「おかえり。もう上がれるから待ってて」
💚「うん」
外に出ると、阿部さんが笑顔で俺を出迎えて、2人で手を繋いで帰る。
💚「今夜はなに?ラウ」
🤍「阿部さんの大好きなカレーだよ」
💚「やった」
味覚は子供っぽいけど、可愛い恋人が隣りにいてくれるようになって、俺は毎日幸せに暮らしている。
おわり。
コメント
19件
おかわり🍚 何回読んでも青くて切なくて甘くてとてもよい。 ぴよぴよの作品みんな好きだけど、これお気に入り
あべちゃんの忘れさせては死ぬほどえろす🥹大好きな青い春が溢れてて一気に読んじゃいました😍舘ラウやりとりも最高です😂
切ないけど 前向きな幸せなお話〜✨ 宮館店長いいなぁー🤩