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「さて、こっからやな」
ワイは深く息を吸い込みながら、ゆっくりと周囲を見渡した。夜の闇の中、静けさが戻った果樹園。戦いの余韻がまだ肌に残る。地面に転がるチンピラども、ぴくりとも動かん隊長。ほんの数分前まで殺気に満ちとったこの場所は、今やただの戦場跡や。
けど、まだ終わりやない。ただ勝っただけで、問題がすべて片付いたわけやないんや。
「まず、こいつらをどうするか決めなあかん。最後は操られとっただけとはいえ、最初は自分の意思で襲撃してきたんや。無闇に放置するわけにもいかんやろ」
ワイは腕を組みながら、転がるチンピラどもを見下ろした。
「確かに……でも、どうする? 一人ひとり拘束するのか?」
レオンが腕を組みながら低く唸る。その表情は険しく、警戒の色を解いてへん。倒れとるとはいえ、こいつらが完全に無害になったわけやないからな。リリィも腕を組んで、厳しい表情で考え込んどる。
「縄は足りないし、全員を運ぶのも無理よ。せめて、朝まで見張って、衛兵を呼んでくるとか? でも、戦闘後の処理を終わらない限り、商売どころじゃないわね」
「うん。それに、果樹や壁も直す必要があるよ。頑張って戦後の片付けをしていかないと……」
ケイナがぽつりと呟いた。静かな口調やったが、その言葉はワイの耳に鋭く引っかかった。
「ケイナ、今なんて言った?」
「えっ? ええっと……戦後の片付けをしていかないと……って」
「それや!」
ワイは思わず叫んだ。ケイナが驚いて飛びのき、レオンとリリィも怪訝そうにワイを見つめる。何を言い出すんや、って顔しとるけど、これはただのひらめきやない。ワイの中で確信があった。
ワイは一歩踏み出し、掌を静かに前へと差し出した。
「【戦後】」
──瞬間、ワイの手からロープが無数に飛び出した。まるで生き物のようにのたくり、倒れとるチンピラたちを捕らえていく。素早く、確実に、一人残らず縛り上げる。締めすぎて苦しむこともなく、緩すぎて逃げ出せることもない。まるで戦いが終わったあとの後始末を完璧にこなすために、最適化されとるみたいや。
「……おいおい、冗談だろ。こんなスキル、見たことねぇぞ」
レオンが驚愕の表情を浮かべる。
「細かい理屈はワイもわからんのやが、【ンゴ】スキルにはいろんな能力があるんや。どうやら、こういった能力もあったみたいやな」
ワイはそう説明する。まあ、自分でもわかっとらんからまともな説明なんてできんけどな。
リリィが唇を震わせとる。彼女はそのまま、ゆっくりと呟く。
「と、とんでもないわね……。拘束系の能力まであるなんて……」
「すごいっ! ナージェさん!!」
ケイナの目が輝いとった。その感動がひしひしと伝わってくる。けどな、今回はこれだけやないで。ワイのスキルは、奥が深いんや。
「まだあるで。見とれや。――【戦後】」
ワイは折れた果樹にそっと手を触れた。
──ズズッ……。
低く響く音とともに、折れた枝がゆっくりと持ち上がる。木の幹に吸い寄せられるようにくっつき、まるで時間が巻き戻されたかのように元の姿を取り戻していく。みずみずしい葉が再び風にそよぎ、果実の香りがかすかに漂う。
「【戦後】」
ワイは続けて、傷ついた壁に手を当てる。
──ゴゴゴ……。
瓦礫の破片がひとりでに浮かび上がり、剥がれた壁材がカチリとはまり込んでいく。まるで職人が一枚ずつ丁寧にはめ込んだかのように、傷一つなく元の形に戻る。
「す、すげぇな……。これなら、汗水垂らしての修復作業なんて、要らねぇじゃねぇか」
レオンが苦笑混じりに呟く。その声には、驚きと安堵の両方が混じっとる。
「時間をかける暇はないからな。この調子で、さっさと片付けるで!」
ワイはさらにスキルを発動し、次々と荒れ果てた果樹園を元通りにしていった。
「ナージェさん……本当にすごい……」
ケイナの瞳が感動に揺れとる。
こうして、数時間とかかるはずだった復旧作業は、たったの数十分で終わった。
「よし、これで元通りや」
ワイは果樹園を見渡しながら、満足げに頷いた。
──戦いは終わった。戦闘後の処理も終わった。
やけど、これで全てが解決したわけやない。
「ナージェ、これからどうするつもりだ?」
レオンが問いかける。その声には、次の一手を見極めようとする真剣な響きがあった。
ワイは少し考え、ゆっくりと答えた。
「……次に備えるやで」
他の街からやって来たチンピラは、こうして撃破した。結構な大人数やったし、これ以上の襲撃はそうそうないやろ。せやけど、絶対にないとも限らん。この街の奴隷商だって、虎視眈々と機会を狙っとる可能性はあるやろな。
だからこそ、ワイはこの果樹園をさらに発展させ、強くしていく必要がある。
「やることはまだまだある。でもな、その前に……」
「その前に……?」
「腹ごしらえや」
ワイはふっと笑い、肩をすくめる。
「朝になったらチンピラ共を衛兵に引き渡して、ぐっすり眠って、美味いモンをたっぷり食べる。そして――」
一拍置いて、夜風を感じながら、ワイは大きく伸びをした。
「ゆっくり羽根を伸ばすで!」
静かな夜の果樹園に、ワイの声が心地よく響いた。