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#フライギ
にもあえ
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葉菜
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どうやら厄介な同居人が一人増えることだけは確定したらしい。
もっとも、本人にそんな自覚はないらしく、ミズキはその日の夕方には完全に拠点へ馴染んでいた。住居が足りないだの、寝床をどうするだのという話になるかと思ったのだが、空いていた建物へ当然のように荷物を運び込み、連れてきた部下達も気付けば建設作業へ参加しているのだから恐れ入る。
順応性が高いのか図太いのか判断に困るところだったが、大和を見る住人達の反応からすると、どうやら前者らしい。
「長ー」
少し離れた場所から聞こえてきた声に視線を向けると、ミズキが和傘を振りながら手を振っていた。呼ばれた本人は見えているはずなのに反応しない。
「長ー」
もう一度。
それでも反応しない。
「大和ー」
呼び方が変わった瞬間、大和が深いため息を吐いた。
「なんだ」
「来た」
「見れば分かる」
「冷たいの」
全く堪えた様子もなく笑うミズキを見ていると、このやり取りは昔から続いているのだろうと何となく察せられる。住人達も最初こそ警戒していたものの、今では面白そうに眺めているだけだった。
ただ、一つだけ気になることがある。
ミズキはやたらと千代を見ていた。
正確には千代と大和を。
何かを確認するように見ている。
比較するように見ている。
観察するように見ている。
その視線に悪意はない。
むしろ妙に楽しそうだった。
嫌な予感しかしなかった。
案の定、翌日には行動を起こす。
採石場での作業中、ミズキは何でもない顔で千代の隣へ腰を下ろすと、岩を砕いている様子をしばらく眺めたあとで不意に口を開いた。
「千代」
「なんじゃ」
「疲れておるの」
「おらぬ」
返答は即答だった。
実際、疲れているようには見えない。千代は人間なら重機が必要になりそうな岩塊を平然と運んでいるし、周囲の半魔達より明らかに作業量も多い。
だがミズキは納得しなかった。
「身体の話ではない」
「どういう意味じゃ」
「長に甘えるとよい」
その瞬間、近くで作業していた半魔達の動きが止まった。
榊が咳払いをする。
ルカが吹き出す。
千代だけが理解できていない顔をしていた。
「何故そうなる」
「何故じゃろうな」
「聞いたのは儂じゃ」
「儂も分からぬ」
絶対に分かっている顔だった。
千代もそれは察したらしい。
耳が少し赤くなる。
「意味が分からぬ」
「そうかの」
ミズキは全く信じていなかった。
むしろ面白がっている。
その様子を見ていると、吸血種というより近所のお節介な親戚に見えてくるから不思議だった。
昼食の時間になっても状況は変わらなかった。
住人達が集まり食事を始める中、大和はいつものように少し離れた場所へ座り、人より少ない量の食事を静かに口へ運んでいる。相変わらず食べる量が少ない。人一倍働いているくせに、その辺りは昔から変わらないらしかった。
ミズキも当然気付いている。
というより最初から気付いていたのだろう。
和傘を抱えたまま大和の隣へ座ると、皿の上を見て小さくため息を吐いた。
「少なすぎるの」
「足りている」
「足りておらぬ」
「足りている」
全く同じ調子で言い返す。
しばらく続いた押し問答のあと、ミズキは不意に視線を動かした。
千代を見る。
大和を見る。
また千代を見る。
嫌な予感しかしない。
「千代」
「なんじゃ」
「長が食べておらぬ」
「見れば分かる」
「食わせよ」
千代が固まった。
周囲も静かになる。
ルカは笑いを堪えるのに必死だった。
「何故儂が」
「心配しておるじゃろ」
今度は完全に図星だったらしい。
千代の耳が分かりやすく赤くなる。
本人は否定したそうな顔をしているのだが、言葉が出てこない。
ミズキはそんな様子を満足そうに眺めながら湯飲みを傾けていた。
完全に確信犯である。
「ミズキ」
大和が低い声で呼ぶ。
「なんじゃ」
「暇なのか」
「暇ではない」
返答が早い。
本当に暇ではないのだろう。
暇ではないのだが、面白がっていることだけは間違いなかった。
しゆらもその様子を見ながら小さく笑っている。
「仲が良いんですね」
「誰がじゃ」
千代が即座に反応する。
「ミズキさんとです」
予想外の方向から来たらしい。
千代は言葉に詰まり、ミズキは楽しそうに肩を揺らした。
「そうじゃな」
「否定せぬのか」
「事実じゃしの」
その返答に千代はますます困った顔になる。
どう反論していいのか分からないらしい。
ミズキはそんな千代を見ながら、どこか懐かしそうに目を細めた。
昔からそうだった。
感情を隠すのが下手な者ほど、自分の気持ちには鈍い。
大和もまた同じだった。
大切なものほど言葉にしないし、自分から手を伸ばすことも少ない。
だからこそ放っておくと何十年でもそのままでいる。
百年以上付き合ってきた経験がそう告げていた。
ミズキは湯飲みを口元へ運びながら小さく笑う。
この拠点へ来た理由は人間軍の話だけではない。
少なくとも本人はそう思っているらしかった。
その証拠に、翌日からミズキは妙な方向で活動を始めた。
建設作業には普通に参加する。
会議にも顔を出す。
見張りもする。
人間軍の情報も持ってくる。
そこまでは良い。
問題は、それ以外の時間だった。
「長」
「なんだ」
「千代がおる」
「見れば分かる」
「可愛いの」
「そうか」
会話が成立していない。
しかも大和は慣れているらしく、特に気にした様子もない。
近くで聞いていた榊が肩を震わせ、ルカは最初から諦めたような顔をしていた。
当の千代はというと、聞こえているにも関わらず聞こえていないふりをしている。
耳だけ少し赤かった。
そんな日が数日ほど続いた頃だった。
北側防壁の建設がいよいよ本格化し、大量の石材を運び込む作業が始まる。
防壁そのものは予紬の設計を基に進められていたが、最終的に積み上げる作業は半魔達の力任せだった。
力任せで成立してしまう辺りが恐ろしい。
「もう少し右です」
しゆらが図面を見ながら指示を出す。
半魔達が巨大な石材を押す。
位置が合う。
次の石材が運ばれてくる。
作業は順調だった。
少なくとも途中までは。
問題が起きたのは昼過ぎだった。
運び込まれた石材の一つが予想以上に大きかったのである。
大人三人分ほどの高さがある巨大な岩塊だった。
「千代なら運べるじゃろ」
誰かが言った。
千代が運んだ。
そこまでは良かった。
問題は設置だった。
地面へ降ろそうとした瞬間、足場になっていた石の一つが崩れたのである。
岩塊が傾く。
周囲から悲鳴が上がる。
もし落ちれば防壁も壊れるし、人も巻き込まれる。
千代は咄嗟に支えた。
支えたのだが。
流石に重い。
腕が沈む。
地面が軋む。
それでも離さない。
離せば後ろにいる者達へ直撃する。
「離れろ!」
誰かが叫ぶ。
だが間に合わない。
その瞬間だった。
大和が動く。
黒い影が地面を滑るように走り、次の瞬間には千代の隣へ立っていた。
片手が岩へ触れる。
袖口から黒い靄が溢れる。
巨大な蛇のような影が岩塊へ絡み付き、そのまま無理やり持ち上げた。
周囲から驚きの声が上がる。
岩塊が元の位置へ戻る。
危険は去った。
それだけの話だった。
本来なら。
だが。
「怪我は」
岩を固定するより先に、大和がそう尋ねた。
千代が一瞬固まる。
周囲も少し静かになる。
「しておらぬ」
「本当か」
「しておらぬ」
「見せろ」
「何故じゃ」
言いながらも手首を掴まれている。
千代は少し不満そうな顔をしたが、本気で嫌がっている様子はなかった。
大和は手首や腕を確認する。
傷はない。
そこでようやく小さく息を吐いた。
その仕草を見た瞬間だった。
少し離れた場所で見ていたミズキが満足そうに頷く。
ものすごく頷く。
嫌な予感しかしない。
「長」
案の定だった。
「なんだ」
「心配しておったの」
「当たり前だ」
即答だった。
千代が固まる。
ミズキも固まる。
周囲も固まる。
予想外だったらしい。
大和本人だけが何故固まっているのか理解していない。
「仲間だ」
続く言葉も真面目だった。
「無茶をする」
「だから心配する」
それだけ。
本当にそれだけなのだろう。
だが千代には違ったらしい。
赤い瞳が僅かに揺れる。
何か言おうとして。
結局言葉にならない。
代わりに小さく視線を逸らした。
「そうか」
返ってきた声は少しだけ弱かった。
その様子を見たミズキは口元を押さえる。
笑うのを我慢しているらしい。
ルカは既に吹き出していた。
しゆらも困ったように笑っている。
俺は何となく理解した。
恐らく。
本人達だけが気付いていない。
この拠点で一番分かりやすい二人なのかもしれなかった。
コメント
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ああ〜〜〜〜読んだ読んだ!!第37話、めっちゃエモかったわ🔥 ミズキさんが完全に“お節介な親戚”ポジで笑ったw「可愛いの」「長に甘えるとよい」って、もう確信犯すぎるやろ!千代の耳赤くなってるし、大和の即答「当たり前だ」で周り全部固まったシーン、何回も読み返したわ。 この2人、本人たちが一番気づいてないってのが尊すぎるんだよな…。ミズキの「分かってるけど黙って見守る」スタイル、好きだわ。次の話、待ってる!