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薄暗い森を抜け、俺たちが案内されたのは、これまでとは雰囲気がガラリと変わった明るい空間だった。
木漏れ日が差し込み、色とりどりの蝶たちがひらひらと舞っている。
陽気を宿した花たちは、「私を見ろ」と言わんばかりに、その花弁を広げていた。
その中に、ポツリと座り込み、無邪気に笑う一人の少女。
長い長い銀髪は、少女を囲むように流れていく。
「あら、ハクア。お客様かしら?」
こちらに気づいた彼女が尋ねた。
「いえ、フウカ様。侵入者です。」
「あらあら…それは大変」
口に手を当てて、大袈裟に驚いて見せる。
彼女こそが、“あの方”と呼ばれるエルフの長、森の管理人である。
透き通った宝石のような瞳は、全てを見透かしたように俺の目をまっすぐと見つめた。
「あなたの事は、風の噂で聞いていたわ、文字通り風が教えてくれたの。」
そう言ってくすくす笑った。
「…私にお話があるんでしょう、グラスレットのお嬢様。」
「…随分とお久しぶりね、フウカ。」
ナリアはフウカに歩み寄り、フウカの目の前で足を止める。
「それで?ナリー、今日はどんな冒険をしたの?」
突然フウカが目を輝かせ、明るい口調でナリアのに尋ねたのだ。
“ナリー”というあだ名で呼ぶあたり、かなり親しい間柄なのだろう。
「…話したいのは山々なんだけど…」
そう答えたナリアは苦笑いをしながら俺の方を見た。
「私の“ボディーガード”が…ね」
「あら、フリードじゃない…!来てたのね!」
フウカの表情が一気に明るくなる。
「相変わらず眩しい場所だ。色が明るすぎるんだよ」
「ふふ、貴方らしいわね、元気そうでよかった…」
「どうだかな……」
「彼女の事は…残念だったわ…本当に」
目を伏せて、静かに呟いた。
「あー…もういいさ、過ぎた事だし」
「でも…」
「もういい、」
「……」
十数年前の、忘れたはずの記憶が一瞬、頭を過った。
あの惨劇を、思い出してしまった。
ローブの裾を強く握る。
「…そう、思い出したわ。この花、彼女に渡して」
そう微笑んでフウカが差し出したのは、鮮やかな花。
名前はわからないが、その花は、とても美しかった。
「アネモネよ、私からの贈り物。花言葉は、“儚い恋” “恋の苦しみ”」
顔を上げ、まっすぐに俺のことを見て、こう続けた。
「あなたにピッタリだと思わない?」
「…そうかよ、ありがたく貰っておく。」
「枯らさないようにね。」
「わかってる、」