テラーノベル
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静かで、少し騒がしい夜の街。私が見たのは、あまりにも衝撃的なものだった。
「………先生?」
先生が夜の街で、ラブホテルへと入っていく。
極地の島に一人で取り残されてしまったような激しい孤独。私は、その光景を目に焼き付けた。
後日、ミレニアムの窓の外は、私を嘲笑うかのように思えるほどの、快晴の青空だった。
普段は晴れた日の澄んだ水面のような顔に、恐れとも悲しみとも見える影が広がっていた。疲労困憊の中、心の支えとなっていた存在への影響だろうか。
「ユウカちゃん、気持ちは分かります。けど、まだ確定したわけではありませんし──」
ノアが必死に、私を慰める。ノアは、幾つもの理由を張りつけているが、植物の皮を剝くように一枚一枚引っぱがしていけば、ノアに残るのは保身だけなのだろう。ノアだって同じ人間だ。本当は、ノアも苦しんでいるのかもしれない。でも、今の私にノアを慰める余裕は無かった。
「……ごめん、ノア…」
「…!?……ユウカちゃ──」
私は自分勝手に言葉を吐き捨て、自宅へと走った。見えもしない苦痛に顔を歪め、涙と鼻水で顔を汚しながら、無我夢中で走った。
脱兎のごとく帰った私は、自身の家を前にして震えていた。ドアの鍵穴に鍵が差し込まれる音がする。もう、全部捨てていい。そんなことを、本心で思えてしまった瞬間だった。
「…ぁぁぁああああ!!…」
自室で、生まれたての赤子のように泣いた。散乱した書類が、さらなる悲壮感を誘う。幾ら泣いても泣き切れないほどの塩辛い涙が、私の頬を伝う。
「先生…!なんで…なんで……」
少しばかり身勝手に、言葉を吐き捨てる。私は感情を、狭い部屋の中に撒き散らす。泣いても泣いても、胸に刺さった槍が、心の深くに沈んでいく。私は、それを認めるかのように泣き叫んだ。
そんな中、スマホから音が鳴る。理性を取り戻そう、心を落ち着かせようと、私はスマホを見た。クロノススクールのものみたいだが、新しい記事が出ている。
「先生……と、ノア…?」
その記事の内容は、信じられないものであった。先生とノアの、恋人疑惑だと。2人の様子が、写真に写っている。
普段ならあまり信じないクロノススクールでも、今の私に関係のある事では無かった。私は、モモトークを開いた。そして、乱雑な文章をノアに送りつける。ノアは慌てているのだろうか。すぐにノアから返信が来た。
「ユウカちゃん、それは誤解で…」
送られてきた証拠も無いノアの言葉に、吐瀉物を吐き出しそうになった。私は思わず、震える手でスマホを壁に叩きつけた。画面は割れて、電源は1秒の間を開けて点くほどの損傷。
まるで絶妙に人気の出ないシナリオライターの、少し溜息の出るような急展開に振り回される私がいた。
「嫌だ……先生は…先生は……!」
「先生、…は……」
もうどうにでもなってしまいそうなほど、理性が崩壊してきた。少し前まで慣れ親しんだノアの顔が、化物のように思えてくる。この世には、神様なんていないのだろうか。私は、倒れそうな体を無理やり立たせて、鏡を見た。酷く歪んだ顔が見え、涙が視界を悪くする。
妄想が加速して、普段の私の姿はもう見えない。私は、もう私を信じる事も出来なくなっていた。
家に、チャイムが鳴る。先生かノアだろうか。
私はそれを無視して、近くの棚を見た。都合良く、足場と縄がある。これを使えば、もう何かを信じて疲れなくて済む気がした。
私は、縄を天井に吊るし、足場に乗った。これで、私は自由になれると思った。腐っているのに千切れない鎖も、全部千切れる。
「……先生…」
私はそのまま、縄に首をかけようとした。その時だった。
「きゃあっ!?」
突然聞こえてきた銃声に驚き、私は足場から落ちて倒れ込んでしまった。
窓の外を見ると、ヘルメット団の連中が彷徨いていた。そんな事を気にせずに、私はまた足場に乗ろうとした。
けれども、乗れなかった。死への恐怖という理性が、今になって戻ってきた。混ざり合ってぐちゃぐちゃになった感情が、私を壊していく。
「……ぁ、ノア……?…あれ…?私……」
私の部屋のカーテンは、静かに心の静寂を表す。私は、この最悪な心に泣くこともできず、膝を抱えて座った。
コメント
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あぁ、脳破壊されてまう…文が上手すぎてすげぇダメージ来る…私も気分悪くなってきたや