難民が押し寄せていた王都を越えてから、丸三日が経っていた。
移動時間はそれほどでもない。食糧支援に時間を取られたのだ。
「でも、ようやく終わりだな」
「はい。村の人に聞く限り、この先には町や村はないそうです」
遂に長かった買い出しの旅を終えたんだ……
買い出しってなんだよ…全然旅してないじゃん……
「冒険のイメージが変わったです…まさかこんな苦労があるなんて」
「エリー。そのイメージはすぐに捨てなさい」
「しかし、助けられたのはごく僅かでしたね」
「私達が私達に出来る限りのことをしたの。胸を張ってもいいんじゃないかな?」
そりゃそうだ。
間に合わずに死んだ人は俺たちのことを恨むかも知れないが、そんなのは知ったことか。
「俺も聖奈に同感だ。こんなのは自己満足の域を出ないもんだ。だけど、一つ言えることがある。
俺はミランもエリーも手放しで褒めてやれる。よくやった」
誰が褒めなくても、俺だけは褒めるからな。
「セイくん?私は?」
「…聖奈も。よしよし」
何で同い年の女子の頭を撫でなきゃならないんだ!?
大体、俺が撫でて誰得!?
「よし。コントはこれくらいにして先を急ごう」
「コントってなによっ!?」
いや、ツンデレ妹キャラは古いから。
「あれが非干渉地帯…エトランゼ」
最後の村を後にした俺達は、遂に目的地へと辿り着いたのだ。
これまでの馬車の旅とは違い、全然旅で苦労をしていないから達成感はないけど……
いいんだ。現代人には丁度いいんだ。
異世界情緒?いらないんだわ。
「ホントに何も無いです…」
エリーの感想は間違っていない。
最後の村を出てから車で2時間。
周りは草木の一本も生えていない、地面が剥き出しの大地が延々と続いている。
そこに遠目からポッカリと…いや?ニョキッと(?)生えたように石…岩(?)造りの壁に囲まれた街がある。と、思う。
何故疑問形なのかというと、無限に思える平坦な大地なので、かなり遠くまで見通せるからだ。
ここからは長大な壁が立ちはだかっているようにしか見えないが、多分あれがエトランゼなのだろう。
もし違うなら、俺達は全員で幻を共有しているってことになる。
変な薬飲んだんじゃないかって?
俺が飲んでいる薬はヘパ◯ーゼだぞ?
むしろ酒の禁断症状の可能性が微レ存……
「流石50万人が住んでる街って感じだね!荒野というか、障害物も何も無いから道ですらないね!」
そう。ここはどこでも通れる。
誰かが整備したんじゃないかと思えるくらい起伏もなく、何も無い。
「ここからではわかりませんが、壁の高さがリゴルドーの街の倍以上ありませんか?」
うん。俺にもそう見える。
何もなさすぎて比較対象がないからわからんけど。
「多分まだ1キロ以上離れているよな?」
「うーん。感覚がおかしいのでわかりませんが、多分…です」
そうだな。感覚が狂うよな。
でもな、エリーのは車酔いだと思うんだ。
考えてもわからんから向かうことに。
もちろん徒歩だ。
小石すらほとんどないにも拘わらず、地面は途轍もなく硬い。
だからといって乾燥しすぎでひび割れていることもない。
物が無いのはわかる。
昔ここには無限に近いほどの数の魔物が跋扈していたのだ。
草すら生えないとはまさにこの事だな。
道が硬いのは、恐らく重量級の魔物がいたからか?わからん。
そいつらは何もない地で共食いでもしていたのか?わからん。
考えても答えの出ないことを考えていたら、いつの間にか壁へと辿り着いていた。
「どこから入れるのでしょう?」
「とりあえず一方に歩けばいずれ着くんじゃないか?」
俺の迷推理に他の意見が出なかったので、反時計回りに回ることにした。
そこから歩くこと2時間……
「馬車が見えるです!」
エリーの声に視線をあげると・・・
「ホントだな。壁から遠ざかっているから出てきたと仮定するなら、後少しだな」
エリーは元気だ。車酔いでずっと寝ていたからな。
俺が子供の時に酔った時は寝れなかったぞ?
これが異世界人と現代人の差か?
「ありました!門は開いていませんが、間違いなく門です!」
木じゃないな…街の入り口では初めて見るぞ。
「鉄の門ですね。よくこんな物を開け閉めできますね」
「そうだな。人力では不可能なんじゃないか?」
厚さはわからんが、縦5m横10mはあるぞ……
ちなみに壁は高さ20m以上もある。
俺の今の身体強化魔法じゃ、何をしても越えられそうにない。
「すみませーん!」
聖奈さん。貴女は物怖じしないね。
いきなりでかい声出すからビクッてなったじゃん?
その声に壁の一部が開いて、そこから人が顔を覗かせた。
丁度学校の3階の窓くらいの高さだ。
「何用だ」
「私達は商人です。中に入りたいのですが、こちらで良かったでしょうか?」
商人だけど商売には来ていない。言わないもん勝ちだな。
「確認のために開けるが、おかしな真似はしないように。ここエトランゼは他の国のように甘くはない」
えっ?いきなり斬り捨てられたりするのかな?
大きな門の側にある、小さな勝手口の様なところが、俺の心の準備が出来る前に開いた。
「何も持っていないように見えるが?」
「魔法の鞄です。私達はこう見えてもランク4の商人ですから」
うん。ランク4は俺だけね?唯一のアイデンティティなんだから間違えないように。
「では、全員身分証を出せ」
俺達は言うことを聞いて身分証を出した。
俺はもちろん商人カード、聖奈さんも商人カード。ミランは冒険者カード、エリーは魔導士協会会員証を。
「これは使えない」
「えっ!?嘘ですよね!?」
魔導士協会会員証が返却された。
「エリーちゃん。魔導士協会はナターリアにしかないから無理だよ。大人しく冒険者カードだそっ?」
エリーはどうやら一人前になって貰える新しいカードを、身分証として使ってみたかったようだ。
「この中で正規に入れるのはセイだけだ。他は?」
「こちらのセーナは私の補佐です。この2人は護衛として連れて参りました」
「わかった。ランク4なら問題ない」
良かった。ここまで来て調べた内容が違っていて入れないという、いらないトラブルは起きなかったな。
俺達は兵士に案内されながら、小さな門…通用口のような所を通り入国を果たす。
門を通る直前、先程の兵士が振り返り……
「しかし、いくらこの年齢でCランクDランクの優秀な冒険者といえども、この様な子供を盾にするのは感心できることではないぞ」
「す、すみません…」
盾にはしてません!ホントなんです!
うん。嘘の言い訳にしか聞こえんな。
弁解はやめとこう。
すると女性陣が兵士を睨んだ。
兵士はその後、手と足が同時に出るくらいキョドリながら案内を終えた。
「何ですか!?あの兵士は!?セイさんが私達を盾にするなどあり得ません!!セーナさん!やりましょう!」
入国するや否や、ミランが声を荒げて聖奈さんに訴える。
「うん。先ずは家族を攻撃しようね。ああいう小さな正義を振りかざす人は、自分より周りの人が傷つく方が、効果が高そうだからね」
いや、良い人やん!?
「遂に私達の覇道が始まるですっ!魔導士を馬鹿にした罰は死を以て償ってもらうですっ」
馬鹿にはしてないだろ?任務に忠実だっただけで。
「みんなやめなさい。俺は何とも思わないから。それにそんなことで問題なく入国出来たのなら、御の字だ」
「ですが…私は許せません……よく知りもしないで、セイさんを馬鹿にするなんて」
うん。こっちも向こうのことをよく知らないよね?
でも、嬉しいぞ。
「じゃあ、ダンジョンで成果を上げて見返さないとな!」
「「はい!」」「うん!」
俺達は遂に、目的地に辿り着いたのだった。
「それにしても、中は凄いな」
「そうですね。綺麗に区画整理されています」
「そうだね。他の国では王都や大きな街は、敵の侵攻を妨げる為に、分かりやすい造りじゃないからね」
ここは元々何も無い土地だから、ホントに真っ直ぐだ。
京都の碁盤の目の区画よりハッキリしている。
何せ遠い筈の反対側の壁がここから薄っすら見えるからな……
「あの壁は反対の壁ではないですね」
「そうなのか?」
「はい。情報通りであれば、あれは第二防壁と呼ばれる、更にダンジョンに近い区画を封鎖する為の壁ですね」
なるほど…スタンピードの為の防護壁は一つじゃないということか。
「あの中にもう一つ壁があります。その中にダンジョンがあると聞いています」
「確かあの壁の中に、ダンジョンに行く冒険者がいるんだよね?」
「はい。こちら側はあくまでダンジョン都市を支える人達の区画です。あの中に冒険者用の宿屋、食堂、酒屋、武器屋、治療院、雑貨屋…娼館があります」
最後は小さな声だったが、聞き逃さなかったぞ!
よし!ここは天国ということだな!
俺達は第二防壁を目指した。俺の天国を……
〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓
聖「いえ、お礼は結構です。感謝の気持ちだけで十分ですよ」
エリー「セイさんは外面がいいのです。私達には厳しいのです」
聖「そうか?俺達の世界ではみんなあんな感じだぞ?」
聖奈「そうだよ。でもセイくんが厳しいのは私にだけだよ…」
ミラン「そ、そうなのですか?」
聖奈「そうそう。私が嫌だって言っても…無理矢理…」
エリー&ミラン「えっ!?」
聖奈「お酒を薄めたりするの…」
聖「うん。そんな事だと思ったわ」
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