ご飯を食べて洗い物して、飲み物飲んで動画見てたらもう夕刻だった。
「これ一日で撮影全部終わらせたって凄くないですか?」
「最後のほうはみんなへろへろしてたよ」
るなさんと二人並んでiPadで動画を見てる。
ちょうど、もふくんが弓を構えているところである。
毎週投稿していた人形屋敷シリーズ、実は一日でほぼ全て撮り終えたという怒涛のスケジュールからできたモノだった。
ゆあんくんなんて、寝落ちしちゃって仕方なく人形になってたからな。
大変だったけど、新しいことに挑戦したいと言っていたじゃぱぱさんの、初の毎週投稿だった。
考察も出てリスナーさんも楽しかったんじゃないかな。俺も少なからず貢献できたし。
「るなこれ見てて、あれ?お人形を探したらゴールなんだっけ?出れたらゴールなんだっけ??ってわからなくなってきました」
るなさんはじゃがりこをぽりぽりしながら続ける。
この目的なんだっけ?ってそんな意見もちらほらあった。
「るななら絶対最初のほうでやられちゃうなぁ」
「俺も序盤で死んだしな」
「そぉですよ〜あぁーっシヴァさんもういなくなっちゃった!ってるな叫んじゃった」
「わはは」
そうなの俺最初に可愛く人形にされちゃって。
やっべーやっちゃった撮高が…とか思って反省していたら、最後は敗者復活枠でまた活躍できたんだけどね。
「たっつんさんともふくんの会話も尊かったなぁ」
「あのセリフはたつやのアドリブだからなぁ」
お前の頭脳活かせ、なんてかっこいいセリフよく出てきたな。…しばらくシェアハウスであのフレーズはやったんだったわ。
「でもね、最後にまたシヴァさん出てきてくれてとっても嬉しかったの」
ふにゃりと笑ってくれることがくすぐったくて、そお?なんてカッコつけて応えてしまった。
たまに電話した時もLINEした時も人形屋敷の感想を送ってくれていて
全部知っている俺は聞いてることしかできなかったけど。
“面白かったー、けどやっぱりシヴァさんいなくて寂しいな”
なぁんて送ってくれて。ここだけの話すげー嬉しかった。
「じゃぱぱさんの配信で、あれ一日で全部撮ったんだよなんて言ってたからびっくりしましたっ」
「るなさん、じゃぱぱさんの配信聞くんだ」
「るな聞きますよ、じゃぱぱさんでしょ、のあさんでしょ、もふくんでしょ…あとはなおきりさんかな」
「なおきりさんのもきくの?」
るなさんから普段あまり出てこない名に、思わず聞き返してしまった。
「もともとはハゲーズ配信あったから聞き始めたんですけど、なおきりさんアーカイブ残るじゃないですが」
「そうだね」
「だからなんか音がなくて寂しいなーってとき、なおきりさんの配信流したりしてますねぇ」
そっか、そうなんだ。
接点のない二人だから、るなさんが配信をちゃんと聞いてるって事実に…なんだ、その。
「もふくんも残してくれるからよく聞きますよ、アーカイブ残ってるのはありがたいですねぇ」
「…リアタイで聞けない人にはありがたいよな」
「なおきりさんの声よく眠れるの」
なおきりさんの声聞いて、寝るんだ。
…そっか。
(なに嫉妬してるんだか…)
何やってんだよ、俺。
なおきりさんに妬くなんて。
メンバーだし、青色と水色だし、それに昔はよく二人でショートでたり結婚式の動画だって出してて…
…あ?
意外と接点あるな。
しかも、結婚式のやつなんてモロあれじゃん。
つか俺神父役やったよな!?
なおきりさんは年長者でるなさんは最年少で、なんか雰囲気ほのぼのしてるからこの二人でやろうか!なんて言って決まってた…よな。
あの、ショートだって、あれは…
役だけど、なおきりさんがるなさんに愛を伝えるような動画だった。
…。
「シヴァさんっ!!」
「わぁっ!?」
はっとして我にかえる。
ドアップのるなさんに驚いてのけぞった。
「もぉ、るなの話聞いてましたか!?」
「え?ええと…アーカイブのはなし?」
そのあたりからトリップしちゃって記憶が曖昧だ。
るなさんは俺が話を聞いてなかったとわかると、むぅ、とほおを膨らました。
『シヴァさんも配信してたらなってお話ししてたんですよ』とふくれっつらのまま教えてくれた。
むくれてるのもかわいーな、じゃなくて。
俺が配信?なんかピンとこなかった。
「誰も聞かないって」
「んもう!シヴァさん全然わかってないっ!」
「んええ??」
「シヴァさん好き!推し!って人意外といるんですよ?…Xとか見てると特に、年上のおねーさまたちとかっ」
「…え」
「…今ちょっと嬉しくなりませんでした?」
もぉっ!!
とぽこぽことゆるめの力で腕を叩かれる。
もちろん痛みなんてまったくない。
るなさんが怒ってるところ悪いのだが、かわいいのと嬉しいのでニヤけてしまった。
「ほらっほらぁ、ニヤニヤしたっ」
「違うってば、そうじゃなくて。るなさん、待って」
俺の表情で反省してないと踏んだようで。
さらに体重をかけてぽこぽこと攻撃してくる。
可愛くてほったらかしにしてると、だんだんと拳に重みができ後ろに倒れそうになった。
「ちょ、待って待って」
なんとか止めようと、両手でるなさんの細い手首を掴んだ。
「ごめんな、別にそういう意味ではなくて…」
顔を真っ正面から見ようと、掴んだ手首を少し上にあげる。
…今思えばこの動きがよくなかった。
二人の目線が近距離でかち合う。初めての近さにお互い固まってしまった。
(…っあ)
退くこともできず二人ともしばらくそのままでいると、るなさんの頬に赤みがさし、瞳が揺らいだ。
---ドッ
全身の血流が一気に流れるような感覚に陥った。心臓の音だけが激しくなっていく。
自分が求めている感情に、いっせいに火がついた。
(…や、ば)
しかし時すでに遅し。
俺もわかってしまってカァッと全身が熱くなる。るなさんもそれに気づいてさっきよりも赤みが濃くなった。
吸い寄せられる、触れたい。
手は出さないって決めてたのに。
ああ、でも、だけど。
「シヴァ、さん」
目を見つめ呼ばれた声はいつもよりだいぶ甘くて
その誘われるような声に自分だけが聞こえる喉鼓。
---やめろ、と言われてもやめられない
片手を離してそっと頬に手を添える。
すり、親指で頬を撫でた。
少し顔を傾けゆっくりと近づける。
伏目がちだった目は、完全に閉じようとしていて
…唇を、重ね---
ピンポーン
「「!?」」
突然のインターホンにがばっと体を離した。
「誰か来ました…」
「…水だ」
そうだ昨夜ミネラルウォーターがなくなってしまって、かぼちゃのスープ作りながら注文したやつだ。
今来た?お急ぎ便にしたから?
お急ぎすぎるだろ…!!!
ピンポーン、ピンポーン
「ちょ、行くっての」
まだ半分夢うつつ、半分は邪魔が入った怒りモードの俺は何とか立ち上がり玄関へと向かう。
てか、いまのは…キスする雰囲気だった。
緊張して後ろを振り返れない。
なんて顔してどんな言葉をかけたらいいんだろう。
宅急便やさんに敬意を払って颯爽と受け取り、そのまま真下に置いたら変な顔された。
水のケースもそのまま急いで戻ると
「シヴァさん…」
るなさんの目が、潤んでる。
やっぱり嫌だったのか!?
さぁ、と血の気が引いていく。
「足が」
「へ?」
「あし、しびれちゃった…助けてくださいぃぃ」
間抜けな声が出てしまった。
その涙は痛みの涙だったの??
はわはわ、と両腕を俺の方へと伸ばし助けを求めている。ぺたんとえむ字に座っていたからか足を前に伸ばせないらしい。
「…え?」
「ひゃぁいたいぃいじんじんするっ」
とりあえず手を伸ばしてるなさんの体を支えてみる。るなさんは恐々しく足を動かしていた。
ちょ、え、これどんな展開??
「…るなさん…なんかおじいちゃんみたいになってる…」
「それ昔、たっつんさんにも言われたぁ」
その昔、ラウンドワンコラボの実写動画の時だとすぐ気づいた。るなさんは痛いと言いながら、まだはわはわしている。
「し、しびれる!」
「ゆっくり、ゆっくりでいーから!」
いい雰囲気はどこいった?
そんなもん綺麗さっぱり無くなった俺たちは、後30分ぐらいるなさんの足と格闘していた。
コメント
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荒目だというのにめちゃめちゃストーリーがしっかりしていて凄かったですー!✨️ 🐸さんと❄ちゃんがついにちゅーしちゃうのか!?でものななさんならそんなに簡単にさせない…たぶんもっとストーリー考え込んでくるか!?と考えながら読んでいたら普通に宅配便に邪魔されていてちゅーできなかったの面白かったです🎶(笑)
お読みいただきありがとうございます。 はよ進めたくて爆速書上げです。荒目ですみません…