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#ファンタジー
ランナ、モニカ、ポーラの三人が城の外に出ると、城門の前には多数の騎兵が集まって出陣の準備をしていた。
兵の数からして大規模な戦である事が予想される。城内に人が少なかったのは、このためだ。
「何これ……何が起こってるの……」
呆然としながらランナが呟くと、騎兵の中から一騎が歩み出てきた。三人の王妃の前で止まると兵が馬から降りる。
黒い軍服に身を包んだ黒髪の中年男性。よく見るとランナはその男性に見覚えがあった。モニカとポーラも彼にはいつもお世話になっている。
「……デイズさん!?」
その兵士は執事長のデイズであった。物静かで紳士な執事のデイズまで出征させる事態なのか、とランナは衝撃を受ける。
それでもデイズの優しい微笑みは普段通りで緊張は見られない。これこそがデイズの本来の姿であるかのように堂々としている。
デイズは三人の王妃に向かって丁寧に一礼をする。そして顔を上げると、その視線は真っ直ぐにランナへと向いている。
「申し遅れました。私は執事長であり、軍隊長なのです」
「軍隊長……!? でも、どうして……?」
「ヨル様が出撃命令を下しました。我が軍はレッドリア国に侵攻します」
デイズから微笑みが消えて険しい表情になる。デイズにとっては不本意な出撃だという感情が伝わってくる。
三人格に対して中立の立場だと言っていたデイズだが、ヨルも君主である事に変わりはない。陛下の命令には絶対服従を貫く立場にある。
モニカは『レッドリア』という国名に反応した。母国だから当然だ。
「なぜレッドリアなんですの? 宣戦布告があったからって、そんな……!」
ヨルはそこまで好戦的なのかと疑問に思うモニカだが、その横でポーラが静かに口を開いた。
「ヨル様の本当の目的はレッドリアの神殿よ……」
「神殿……ですの? まさか、最強の悪魔の『体』を封印したという場所……?」
それを聞いてランナも思い出した。ヨルが『オレにはまだ手に入れるものがある』と言っていた事の意味を。
全てはジョルノ国に伝わる物語の筋書き通り。そして物語は今もまだ続いてる。
(ヨル様は本来の『体』を取り返そうとしている)
他人格を殺したヨルは、レッドリアの神殿に封印された最強の悪魔の『体』を取り戻そうとしている。
悪魔の体と融合する事で、ヨルは今世でも最強の悪魔になろうとしている。しかし物語通りであれば、悪魔の体は人型ではなく邪竜の魔物。
前世の記憶がなくても、前世の悪魔『ヨルデオ』の魂がヨルを動かしている。それはアサとヒルも同じで、三人格が殺し合うのは前世の魂の残留思念だった。
「ヨル様を止めないと……!」
ランナは辺りを見回すが、ヨルの姿はなく騎兵しか見当たらない。視線を正面に戻すと、いつの間にかデイズの隣にもう一人の兵士が立っていた。
デイズと同じく黒い軍服を着ているが、小柄なので女性だと分かる。顔を見ると黒髮のボブヘア……それはランナが毎日顔を合わせているメイドだった。
「え!? カレンさん!?」
「はい。ジョルノ国軍・副隊長、カレンでございます」
カレンはメイド服ではなく軍服を着ていても無感情は変わらない。ただのメイドではないと思っていたが軍人とは予想外だった。
さらにデイズと同じようにランナの正面に立つと頭を下げて敬う姿勢を見せる。目の前に王妃は三人いるのに、なぜかデイズもカレンもランナを特別扱いする。
カレンは真っ直ぐにランナを見据えながら、その疑問に答える。
「私の父上の先祖は『使い魔』でございます。古の時代からヒルマ様に忠誠を誓う一族でございます」
「ヒルマって、三匹の悪魔の? え、ちょっと待って、父上って、まさか?」
「はい。隣におります、デイズが私の父上でございます」
「えぇ!?」
次々と明かされる衝撃の事実に、ランナの口からは驚きの声しか出ない。
確かにデイズもカレンも黒髪で口調も雰囲気も似ているが、同じ城にいるのに親子らしい会話を交わしているところなんて見た事がなかった。
「え、でも、カレンさんもデイズさんも中立って言ってたのは!?」
「朝と夜の中間。日中の昼に立つという意味でございます」
カレンとデイズがいつも『中立』だと言うのは、朝昼夜の『真ん中に立つ』、つまり昼を指す。ヒルの使い魔であるという意味の隠語であった。
当然ながらデイズとカレンは、ヒルの妃であるランナにも忠義を尽くす。カレンはランナの前で身を低くすると片膝を地につけて跪く。
「ヨル様は一足先に戦地に向かいました。ランナ様、モニカ様、ポーラ様。どうかヴァクト陛下をお救いください」
カレンも分かっていた。ヨルがヴァクトの体を支配した今の状況で、全ての人格を救うにはランナたち聖女の能力が必要なのだと。
三人の王妃たちは、それぞれの愛する人を思い浮かべながら頷いて返す。
「うん。当然だよ、私は絶対にヒルくんを救う!」
「私に愛と幸せをくださったアサ様を今度は私がお救いしますわ」
「私はヨル様を孤独と苦しみから救いたい」
王妃たちの愛と決意を受け取ったカレンは、ようやく微笑んだ。
そんなカレンの背後には四輪の馬車が控えていた。それは戦地に向かう騎兵しかいない中での唯一の客馬車。
三人の王妃は馬車に乗り込み、後陣の騎馬隊の後に続く形で戦地・レッドリア国へと向かう。
その頃、レッドリア国に攻め入った先陣の軍隊は国境を軽々と突破して王城へと侵攻していた。
ジョルノ国軍の奇襲を防ぎきれなかったレッドリア国軍は王城をヨルに明け渡してしまう。
玉座の間に追い込まれたファイア王は、迫り来る漆黒の悪魔に無抵抗のまま拘束される。
「さて、ジジイ。神殿の在り処を教えてもらおうか」
床にひれ伏すファイアを見下ろすヨルは武装していない。最強の魔力を持つヨルには武器も防具も必要ない。
漆黒のマントに身を包み、赤い瞳を鈍く光らせるその姿は悪魔そのもの。
しかしファイアの瞳も負けてはいない。かつてランナによって救われた命の炎は以前よりも強く熱く燃え上がっている。
「ヨル殿も知っているだろう。城下町を抜けた先にある神殿を……!」
「ふん、あの神殿はフェイクだ。あそこにオレの体はない」
ヨルがファイアを問い詰めている横には、兵士に拘束されて身動きが取れないルアージュがいる。
(ヨル様は何を仰ってますの? 神殿に封印された悪魔が、ヨル様の体?)
レッドリアの聖女であるルアージュは、今までに感じた事のない強力な魔力をヨルが纏っている事に気付いた。
悪魔のような男だとは思っていたが、本当の悪魔のような魔力と邪気を感じる。今のヨルに対しては憎しみよりも恐怖の方が強い。
(ヨル様には悪魔が取り憑いて……いえ、悪魔に乗っ取られていましたの?)
ルアージュは不思議と納得すると同時に恐怖は哀れみに変わる。それならば仕方がないと、ヨルの過去の行いさえも許せてしまえるほどに。
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