窓ガラスの水滴を見ていると、しばらく留まったあとツーっと滑って流れていった。
断続的に降り続く雨は、休むことなく街を濡らしていく。
それにつられ、目頭が熱くなる感覚があった。瞬きをすると、溢れていく。
なぜ泣いているのか自分でもわからなかった。
もう物語の最後に辿り着きそうなのに、その最終章まで情けないなんて嫌だな、と思った。
まあレディーを泣かせないだけいいか、と勝手に解釈をする。
このシーンまでは良かったなんて言うつもりはない。
でも筋書きは全部彼女の手にあった。
僕は最初から最後まで、彼女の脚本で演じさせられていただけだ。
せめて僕にもスポットライトが当たればいいと願っていたのに、いつも脇役だった。
主演はあなた。今まではそうだった。でも違う誰かになる未来も、だんだん見えてきた。
今しかないと思った。バイプレーヤーの自分が、主役に向かって台詞を吐き捨てるのは。
言葉を発そうと息を吸ったとき、耳に彼女の声が届く。
「着いたよ」
気付いたときには、いつも僕が降りる駐車場だった。
もう少しだけ一緒にいたいと思ったが、早く降りて、と急かされる。
仕方なくドアを開け、雨の中歩きだそうとしたとき、車の窓が開いた。
「さよなら」
え、と耳を疑った。何を言っているのか。でも確かに彼女の声だった。
振り向くと、窓を閉じようとしている。腕をかけて阻み、
「さよならって…」
あなた。彼女に向けてそう言いたかったのに。
あまりにもストレートすぎる言葉は、無情にも僕の胸をえぐっていく。
たった4文字さえも、この消えそうな声じゃ誰にも聞こえない。
近づいてきたほうも主役、別れを切り出すほうも主役。ひどい戯曲だな、と思った。
がっくりと肩を落とし、車から離れる。エンジン音を立て、僕を残して行く。
視線を足元に向けたとき、シャツのポケットからはみ出ている紙に気づいた。
何が書いてあるのかわからず、怖い。でも見ないとわからない。
震える手で開くと、そこには、
『好きだった』
ありえない、絶対嘘だ、と思った。
好きならなぜ弄んだりしたのか。
僕の思い込みか、彼女なりの愛情表現か。
いつ“好き”から“好きだった”に変わったのかもわからない。
どうして別れを告げたのかもわからない。
理由すらも教えられず、僕は置き去り。
闇雲に駆け出していた。
訳ぐらい言ってくれてもいいだろ、ずるいだろ。そんな感情が渦巻く。
追いつくはずもないのに、濡れるのも気にせず、走った。
出口まで来たところで、足を止める。
息遣いが荒い。
走ったせいなのか、彼女のせいなのか、胸が苦しくなった。
終わり
——同じ世界を与えられた、二人の弱い男の物語——
完結