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「それさ、本人が言ってるの? 俺のこと好きだって」
「ううん。見てればわかるよ。だって俺といる時、いつきくん、めっちゃ見てるもん。いっちゃんのこと」
りゅうせいの言葉に、俺は絶句した。
「うわぁ……全然気づいてなかった。いつからだよ」
「え、ずっとだよ? サッカーやってた時からずっとじゃん。いっちゃんが辞めたから、いつきくんも辞めたんだよ?」
マジかよ。そんな理由で? どんだけ俺のこと好きなんだよ。
「好きっていうか、『信仰』だね。神様みたいな。しゅうちゃんもそうだよ。いつきくんのことを、神様みたいに思ってる」
はぁ? なんだよそれ。好きより怖えわ。崇められてんのか、俺は。
「でも、最近テンションおかしいから、絶対何かあったなぁって。しゅうちゃんに話したら、見たってさ。いつきくんがいっちゃんに告白したところ。……ていうか、しゅうちゃんはいつきくんのストーカーだから、他のことも見てるかもね」
うふふ、と上品に笑ってるけど、お前ら、なんもしてねぇからな! お前が期待してるようなことも、指一本触れてねぇからな!!
「確かめたかったんだよ、二人の関係。だから、フットサルに誘った。……でも昨日、みんなでいて楽しかったから。だから今日はいつきくんいないけど、純粋に遊びたいなって思って」
「……そうなの?」
まぁ、いいか。こいつとは元々友達なんだ。正直に言って、本当に嫌な奴じゃないんだから。
♢♢♢
「いっちゃん、今日金曜だけど、一緒に帰れる?」
放課後。金曜は当分補習がある、と嘘をついてあるともやが声をかけてきた。
どうしようか。まだあいつとは話せていない。別れ話は来週に持ち越しだろうか。
「あー、もうしばらく続くから先に帰ってて。出来たら、後で合流するわ」
「おけ、連絡待ってる」
ともやに手を振って別れる。さて、約束の三十分、どうやって時間を潰そうか。
そんなことを考えながら廊下を曲がった瞬間、心臓が跳ね上がった。
「うわっ、びっくりした!」
「……おかえり、いっちゃん」
「今日、バイトじゃねぇの……?」
「……金曜に入れるわけないじゃん」
何を言っているんだ。誰が嘘をついて、誰が誰を試しているんだ。
いや、今はそんなことどうでもいい。
「あのさ、話あるんだけど」
「……なに? 別れ話なら、聞かないけど」
察しがついているなら話は早い。
「……じゃあ、なんでいんの? なんとなく分かってたんだろ?」
「……それでも、会いたかったんだよ。二人で話すの、楽しかったから」
お前……!
そんな顔で言われたら、めちゃくちゃ話しづらいじゃん!俺が、ものすごく酷い奴みたいじゃん!
「……友達じゃ、ダメなの?」
俺の口から出た精一杯の拒絶は、夕暮れの廊下に力なく消えていった。
「え……だってキスとかしたいし」
「おまえなぁ……」
りゅうせいの嘘つき。何が「信仰」だ。神様に向かってキスしたいなんて、どんな不届きな信者だよ。
「……いいよ。別れても。でも、キスはしてね?」
「お……っふ。それは、ちょっと、待て」
俺が少し折れれば、この妙な関係から解放される。けれど、提示された条件はあまりにもハードルが高すぎた。
「……そこのカーテンの中に隠れてする? 誰が見てるかわかわからないし」
待て待て待て。また勝手に話を進めるな。
「いや、カーテンって汚ねぇだろ。特に学校のなんて全然洗ってないし」
「人間の口の中の雑菌ってどれだけいるか知ってる? それに比べたら、全然大丈夫だと思うけど」
「おまえさぁ……」
余計にする気が失せた。このままダッシュで逃げてやろうか。けれど、いつきの瞳は冗談を言っているようには見えなかった。
「……さよならのキスだよ。なんてことない」
あいつに手を引かれ、一番後ろの席の横にあるカーテンに包まる。
「……ほら、早く」
「無理だって。いつきくん、口の横に何か付いてるし」
抵抗のつもりで、グッと親指で白い粉のようなものを拭った。指先に微かなミントの香りが残る。
「……ちゃんと歯磨きしたよ。だから、いいでしょ?」
いつものようにニコニコと笑って。これが最後になるなんて、これっぽっちも思っていないような顔をして。
「今日、する気だったのかよ」
「……毎日する気でいたけど」
「こっわ。毎日狙われてたのかよ、俺」
クスクスと笑い合う。どこまでが本気で、どこからが冗談なのか、こいつといると本当に分からなくなる。
「ん、嫌だったら目瞑ってていいよ」
「……別に」
嫌じゃない、なんて言ったら期待させるだろうか。余計なことは言わないほうがいい。
「……ねぇ、昨日さやちゃんとどこまでいったの?」
「んっ……」
問いかけに答える間もなく、ゆっくりと柔らかいものが触れ、そして離れていった。
何なんだよ。今、うさちゃんは関係ないだろ。
「……よかったね。可愛い彼女ができて。今度は、捨てられないといいね」
「……は?」
まさか、あれ見られてたのか。
「……何泣いてんだよ。帰りづらいだろ」
いつきの頬を涙が伝う。
「……俺さ、フラれたの初めてなんだよ。みんな、こんなに辛い思いをしてるんだね」
こんな時まで無理に笑って。そんなところまで我慢するなよ。
結局、俺は「ちょろい」自分に負けた。
「……俺、あの子と付き合ってねぇよ。一瞬、いつきくんの代わりを演じただけだから……っていうか、訳わかんないけど、別に金曜の放課後に会って、今まで通り話をするだけなら、全然いいけど」
「……本当?」
「話を!するだけだぞ?」
返事も忘れて、子供みたいに満面の笑みを浮かべるあいつ。
神様だかなんだか知らないが、俺は結局、この「たぬき」の掌から逃げられないらしい。