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「なぁ、顔見せて?」
覆い隠した僕の手首を、しゅんが大きな手でそっと優しく包み込み、拒ませない強さで剥がしていく。
「むり、見ないで……っ」
「じゅう、好きやよ。ほんまに、心から愛してる」
僕の抵抗を優しくいなして、しゅんは真っ直ぐな瞳で、淀みのない言葉を僕の胸へと注ぎ込んでくる。
真正面から見つめられる彼の熱に、真っ赤に染まっていた僕の顔がさらに熱くなっていくのが分かった。
「やから、もっと自分を大切にして。もう二度と、あんな悲しいこと言わないで。死ねばよかった、なんて……そんなん……」
しゅんの声が微かに震え、彼の大きな瞳にまた涙がじわりと滲む。
「……ごめん」
「俺、そんなん絶対に耐えられへんよ。……もしまた辛くなったり、しんどくなったりしたら、その時は真っ先に俺を頼ってよ」
「……」
「頼りないかもしらんけど、じゅうの痛いも苦しいも、全部俺の愛で包み込むことはできるから。な?」
その不器用で、けれど海よりも深い優しさに、僕はただ小さく頷くことしかできなかった。
「……うん」
「うん……」
「ありがと、しゅん……」
ようやく小さく微笑んだ僕を見て、しゅんは少しだけ安心したように目を細めた。
けれど次の瞬間、彼の瞳の奥に、男としての強い独占欲の炎がゆらりと灯る。
「なぁ、じゅう。……俺だけのものになってくれへん?」
「え……?」
「やから、俺だけの……。もう、誰にも奪われたくないんよ。誰の手にも触れさせたくないんよ」
あまりにも真っ直ぐな独占欲の宣言に、僕は一瞬呼吸を忘れた。
「……それは、俺はどうしたらいいの?」
「恋人になって」
「恋人……?」
「うん。俺の恋人になってほしい。じゅうを、俺の特別な人にしたい」
「俺が、しゅんの……?」
「うん。じゅう以外、絶対に嫌や」
しゅんの言葉には、迷いなんてこれっぽっちもなかった。
このまま彼に甘えて、その腕に飛び込んでしまえたら、きっとどれほど幸せだろうと思う。
だけど、言葉が喉の奥でピタッと止まってしまう。
「……俺、自信ないよ」
「自信……?」
「うん。しゅんに相応しい人間になれる自信、俺にはないの」
「相応しい……?」
「だって、俺……。しゅんとは、釣り合わないし」
「そうやな……」
しゅんは僕の言葉に、神妙な顔をして小さく顎を引いた。
「確かに、俺がもっと頑張らなあかんよな……。どうすれば、じゅうに相応しい男になれるんやろ」
「いや、逆。しゅんの横に立つには、俺にとってちょっと…いや、かなりハードルが高いかもって言いたいの」
「え、いや、絶対に逆やろ」
「は? 何言ってんの?」
何をどう勘違いしたらそんな結論になるんだ。
呆気に取られる僕を余所に、しゅんは僕の手をぎゅっと握りしめて、真剣な顔でまくし立てた。
「俺、もっともっと頑張るから。もっと強くなって、優しくなって、仕事もバリバリこなして、じゅうが自慢できるくらいのいい男になるから!」
「、、いや……だから、そうじゃなくて……」
「やから、な? お願いやから、俺をじゅうのそばにいさせて?」
なんか……この人は、僕のことを一体どういうフィルターを通して見ているんだろう。
「あのさ、しゅん。俺の事、普段どう見えてる?」
「え? いや、出会った時からずーっと、天使やなって思ってるけど」
「お、おう……、……」
大真面目な顔で「天使」と言い切られ、僕は思わず片手で頭を抱えた。
駄目だ、この人の盲目っぷりは僕の想像を遥かに超えている。
「ちょ、じゅう!? どうしたん!? どこか痛むん!?」
急に頭を抱え込んだ僕を見て、しゅんが「一大事だ」とばかりに大慌てで顔を覗き込んでくる。
「いや……なんだろ、しゅん、頭大丈夫……?」
「へ?」
「いや、なんでもない……」
「ちょ、なんやねん! 人の頭心配するなんて失礼やな!」
あまりにも真剣な顔で、どこまでもすっとぼけた愛を全力で注いでくるから。
張り詰めていた心の強張りが、可笑しさで一気に解けて、肩の力がふっと抜けていく。
「ふふ、しゅん。ありがとね」
「へへっこちらこそやわ!何がか知らんけど!……それで? 俺の恋人になってくれる?」
もう一度、しゅんが僕の目を真っ直ぐに見つめて問いかける。
このまま彼に甘えて、その温もりにすべてを委ねてしまいたい。
そうすれば、きっと何不自由ない幸福な日々が待っているのだろうと思う。
でも――それじゃ、駄目なんだ。
今の僕のままでは、しゅんから温かい愛を貰ってばかりで、僕は彼に何も返せない。
それどころか、僕がいつまでも過去の暗闇に怯えてうずくまっていたら、僕のマイナスの部分に、この太陽みたいな彼を引きずり込んで、彼の輝きを濁らせてしまうかもしれない。
それだけは、絶対に嫌だった。
しゅんに守られるだけの、可哀想な被害者のままでいたくない。
僕も、強くなりたい。
しゅんが僕のすべてを丸ごと愛してくれたように、僕も強くなって、今度は僕の手で彼を心の底から幸せにしたい。
その静かな決意が、僕の胸の奥で、確かに熱い芯となって形を作り始めていた。
to be continued……
コメント
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お互いが、お互いの事を思っているのに、微妙にすれ違っているのが、焦ったいくらい愛おしいです。 次も楽しみにしています。