戦いが終わり、全員が一息つく。ゲーム的な世界観なのか、倒したゴブリンは霧散してしまい、後には残っていなかった。また、ゴブリン達が所持していたアイテムが代わりに落ちており、それを回収するだけで済むのもありがたい。いくら『魔物』とはいえ、死体の山からアイテムを漁るのは気分が良くない。
「今回は楽勝だったね」
「タカヒロさんの補助魔法も助かりました」
リカードの軽口にフランツも応じる。今回はプロテクションの出番はほとんどなかったが、ホーリーウェポンが思ったよりうまく機能してくれた。ああいう弱い魔物が大量にいる場合は範囲攻撃のできるリカードの攻撃力を上げると効果的なようだ。
「これで依頼達成〜?」
「シーフなんだから隠し部屋がないかも調べなよ」
続くリカードの軽口に、レイが辛辣な一言を被せる。リカードがその言葉に、念のため壁を調べる。
「あれ? この壁、なんだか変かも~」
壁を調べていたリカードが、壁の一か所を指さす。フランツが槍の柄でそこを叩くと、簡単に壁が動いて道が現れた。
「隠し通路になっていたみたいだね」
「今度こそ、お宝あるかな〜」
「また、罠が仕掛けられているんじゃないの?」
リカードの軽口に、またしてもレイが辛辣な言葉を返す。もはや、そういうコミュニケーションが許される仲という感じもする。そう考えると、言動の幼いリカードのほうがかなり大人な対応をしているわけである。
「念のため注意していこう。なにか変なものが隠されているかも知れない」
集中力が切れている二人に対し、フランツが気を引き締めるように声を掛ける。私達は改めて隊列を組み直し、隠し通路の奥へと進んでいく。
しばらくすると、少し開けた場所につながっているようだった。シーフであるリカードが、こっそりと中を覗き見る。
「わっ……」
中を覗き見たリカードは思わず驚きの声を上げる。幸い、思わず出したとはいえ控えめな大きさの声だったため、中からは特に反応がなかった。
「どうしたのさ?」
「あいつが……」
小声でリカードに状況を伺うレイに対し、少し怖がるようにリカードが答える。
「おいら達が前にやられた化け物が、中に居たんだ……」
「なんだってっ」
予想外の言葉にレイも思わず驚きの声を上げる。フランツも声こそ上げないものの、驚いた表情を浮かべていた。
「に、逃げたほうがいいんじゃ……」
リカードが小声でみんなに提案する。
「あいつは……ヤバイよ」
レイも顔を青くしながら同調する。
「今度は……助からないかも知れない……」
フランツも、やはり前回の敗戦が頭に残っているのか、弱々しく二人に同調する。
確かに無理をして全滅しては意味がない。あくまでも依頼はゴブリン退治だったのだから。でも……。
「リカード。怖いだろうけど、もう一度魔物の様子を見てくれないかい? あの時の魔物なら、まだフランツから受けた背中の傷が治っていないと思うんだ」
リカードは少し悩む素振りを見せたが、意を決してもう一度開けた場所を覗き見る。そして、こっそり戻ってくると静かに全員に魔物の状態を説明した。
「にーちゃんの言う通り、背中に切り傷があったよ。かなり深い怪我みたいで少し動きも鈍くなっているかも」
「そうなのか。そう考えると、今がやつを倒す好機かもしれないな」
「なっ……本気なの?」
「このまま放っておくと村人に危害が及ぶかもしれないね」
リカードの言葉に、フランツがみんなに提案する。レイは驚きの表情を見せるが、私はゴブリン以上の脅威を放置するリスクを口にした。
「依頼は確かにゴブリン退治だったけど、このまま放置すると村人に危害が及ぶ可能性が高い。僕だってあいつとまた戦うのは怖いけれど、神殿に戻ってから村が全滅したなんて報告は受けたくないだろう?」
フランツの言葉に、レイとリカードも考え込む。この二人は魔物に気絶させられるような攻撃を受けているから、より恐怖心も強いのだろう。唇を噛み締めて小さく震える二人の身体を私は優しく抱きしめる。
「大丈夫。今度はこっちが不意をつく番だ。僕達がしっかりと連携を取れば、すでに怪我をしている魔物を倒すことは可能なはずだ。僕がちゃんとカバーするから勇気を出して戦おう」
フランツの言葉に、二人は小さくうなづく。恐怖心が消え去ったわけではないだろうが、青ざめていた顔には血の気が戻っている。少し通路を戻った私達は魔物とどう戦うかを軽くシミュレーションし、準備万端な状態で再戦に向かうのであった。
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