・WT様のDDCのネタバレを含みます
・もしその後があったなら?という考察を含めた物語です
・Twitterとかの情報をいくつか参考にしています
・あくまで捏造です。こうだったらいいな〜という世界線のお話です
・ご本人様には関係ありません
「…行っちゃったか。」
これで良いんだ。僕は出れなかったけど。皆を犠牲にしてしまったけれど。
目を瞑り、ここに来た時のことを思い出す——
「チケットに正式名称で名前をご記入下さい。」
笑顔でそう放つ団長。僕達は変わりようのない日常に飽々としていたのかもしれない。
いつ?
この大きさのテントを?
どうやって?
そんなふと冷静になれば気付くような疑問を持つことすらせず、チケットに“Nakamu”と名前を記入し、チケットを渡してしまった。
そのままサーカスに連れられ、ショーの鳥役として僕は牢屋に閉ざされた。幸い、持ってたものは失われていなかった。何故か落ちていたスパナと謎の紙。…人形の目を揃える?紙は持ち出さず暗記して箱の中に入れておいた。
無事に合流した後あることに気づいた。ヒントの置いた紙があるということは…他にも来た人がいる?ここはまともな場所じゃない。ただのサーカスなんかじゃない。…もし自分より後に人が来ることになるなら…そう思い持っていたメモ帳に伝言を書き、置いておくことにした。これはスタンプラリーが進んでいくごとに現れる謎の箱の中に入れておいた。この箱はきっと団長のものではない…何故かって?…僕らの助けになる物が入っていたから。
…迂闊だった。僕達は名前の書いてあるチケットを団長に渡してしまった。合成器…あれを見た時そう考えてしまった。
名前の書いたチケットを渡してしまったら…操られてしまうのではないか?と…
そんな予想は裏切られることはなかった。僕達は…いや僕だけが操られた。彼らは頭が悪いのかわざとなのか線が擦れて消えていたり筆記体が雑すぎて文字が繋がってしまったりしていて…正式名称でなかった。
…だから僕だけが操られた。彼らを。友人を傷つけた。記憶も自我もなくなることはなく。彼らは“魂”となった。
そして僕は彼らを亡くし、ピエロとなり、あいつの駒として使われた。あいつにその後から操られることは無かったが僕はあいつに従った。…なぜ操らなかった?動物は出来るのに。けれど操られた際は記憶も自我もあった。きっと不完全なのだろう。ただ僕はどうせ逃げられないから。あいつから半券を取り戻さない限り……他の人々を同じ目にあわせるわけにはいかない。
幸い、あの四人は全員で…誰一人欠けることなくこの世界から脱出できたのだ。
黒いステッキを拾う。夢の世界から現実へものは持っていけない。横のシルクハットを被り、テント内を睨む。杖を持たない団長は僕の敵にはならない。
一歩一歩足を踏み出す。今まで操られていたはずなのに。なぜか全く怖くない。あの四人がきっと僕に手段だけでなく勇気もくれたのだろう。思わず笑みが溢れる。久しぶりに笑ったかもしれない。
「…団長。」
「…あ?ピエロか丁度い………チッ」
こっちを見て舌を鳴らす団長。流石に気づいたか。ふっと息を吐き団長を見つめる。
「俺に勝てると思ってんのか?」
今までは逆らえなかった。魂が帰ってくるって。取り戻せるって。救えるって信じていたから。
…でも彼らの魂はもう戻らない。ただ別の器に入り、あの四人を救う手助けをしてくれた。夢の中で器に入ってしまったらもう戻れないだろう。象達は連れていけないしな…w
だからもう躊躇わない。
「…あぁ。これがあるからな!」
そう言って黒のステッキを振り翳す。
「っ…!なぜお前が…!」
「これで終わりにしてやる!半券を…返せ!」
無抵抗の団長。黄色のステッキも僕が持っている。団長に勝ち目は無いだろう。
「…駄目だ…駄目だ…!俺の…俺の白昼夢が…!!」
「夢はこんな物であってはいけない…!自分の為だけに人の魂を幾つも奪うなんて!」
「うるさい…黙れ!お前に俺の何が分かる!?」
「分からないし分かりたくもない!」
団長の…こいつの心臓に向けて魔法を放ち続ける。だんだんと顔が苦痛に歪む。けれど理想を唱える声は止まない。
「ここなら…ここじゃないと…!俺の……っ!」
声が止まりうずくまるこいつ。ゴホッと音を鳴らし咳き込む。喉を抑える。そんな姿を見ても心配も喜びも感じない。ただそこにあるのは無。これが復讐なのか?
咳き込む音も無くなり、こいつの目が閉ざされていく……はずの所で魔法を止める。意識が朦朧とするこいつに近づきポケットから手帳を取り出す。手帳の17ページから半券を取り出す。
手帳を放り捨て、団長のシルクハットをステッキの魔法で姿形を無くした。これで魔法はもう使えない。自分のピエロの被り物を同じように消した。自分が今被っているシルクハットはステッキで穴を開け、ビリビリに引き裂いた。
動かないこいつを尻目にサーカステントの入り口へ向かう。…いやもう出口か。
「なんで…殺さない?」
足を踏み出して3歩。背後から声がかかる。僕を人殺しみたいに言って…そんな非情な人間じゃないのに。失礼だなぁ。
「…特に理由なんてないよ。……きりやん。」
背後から息を呑む音が聞こえた気がした。もう振り返らない。彼らのことを。僕の友人を忘れるわけじゃないし忘れられもしないだろう。けれど現実に戻ったら当たり前のように世界は進む。僕達に何が起きていたってそんな事を知るのは数十人程度。世界は彼らがいなくなっても当たり前のように回り続けるから。僕も後ろを見てはいられない。
目の前に木が広がる。意識を持って見たのはいつぶりだろうか?足は止まることを知らず前に進み続ける。
また別の世界だったのならあんな意欲を持ったあいつとは仲良くなれたのだろうか?…ifを語っていたって仕方ないか。
チケットを千切る。
「……またね。」
サーカステントを背に軽やかとは言えない足取りで走り出した。
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